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魔導の果てを見よ  作者: Tom & Wood
第6章 巨獣再び
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第4話

大変長らくお持たせしました。

第6章完結です。


復活した京子を見て立花は安堵した。

魔導使いの生命力は精神に寄るところが大きい。

衰弱した京子の心を取り戻すためには、打算なく彼女を全肯定できる存在が必要だった。

本当は立花も任務なんか放り投げてしまえと叫びたかった。

だが、軍人としての立場がそれを許さなかった。

ここで戦術的撤退を指示すれば、外国への逃走を見逃したと非難される恐れがある。

それだけは避けなければならない。

だから、京子が友と呼ぶ2人に賭けた。

彼女達なら理性ではなく、感情で訴えることができると信じて。


「立花さん!

私が高所から奴の頭部に突っ込んで風穴を開けます!

再生される前に巡航ミサイルで止めを刺してください!」


普段の京子と違った有無を言わせない要請に立花は意義を唱えなかった。

魔装が半壊している以上、選択肢は他にない。


「了解、少尉の攻撃に合わせます」


一刻を争う状況で無駄な会話は不要だ。

立花はミサイルを使い果たした戦闘機には機関砲による牽制を、潜水艦「ちょうげい」には潜水艦発射型誘導弾(巡航ミサイル)の攻撃準備を指示した。


京子は岩石の足場を天に向かって螺旋状に作り、全力で駆けあがる。

高度が増加するにつれて酸素濃度が低下し、呼吸が苦しくなる。

それを魔導使いの膨大な生命力でねじ伏せる。

気付けば怪獣が点のように小さく見える位置まで昇っていた。


高度8000m。


人間が生命を維持できなくなる高度であり、「デス・ゾーン」と呼ばれる領域である。


京子は何の迷いもなく宙に身を投げた。

瞬時に全身を重力が支配する。

頭部からの垂直落下は降下速度を飛躍的に上昇させる。

怪獣に接触するまで10秒もかからないだろう。

その間に彼女は頭部を中心に砂鉄を円錐状に展開し、それを岩石で上書きする。

一連の動作を二重三重に繰り返し、強度を極限まで高める。


速度・強度・角度。


京子が出しうる最大の破壊力が生まれた。

後に目撃者たちは口を(そろ)えてこう証言した。


“天から巨大な槍が落ちてきた”と。



怪獣は本能的に危機を察知し、放電準備を始めるが既に遅かった。

発光の直後、黒槍は脳天から臀部(でんぶ)を穿ち、海中に消える。

意識が消失した肉体が大きくのけ反り、穿(うが)たれた頭部がミサイルの射程角度に入った。

「ちょうげい」が海面に向けて誘導弾を発射、外装が分離し、巡航ミサイルのブースターが点火する。

瞬く間にミサイルは命中、爆発して怪獣の頭部を跡形もなく吹き飛ばした。


海中深くから浮上中の京子を除く全ての者たちが勝利を確信して歓喜の声をあげた。

しかし、それはすぐに絶句へと変わる。

発光は消えず、不気味な輝きが増しているからだ。

それが最後の悪あがきなのか、機関部の暴走なのかは分からない。

放たれた電撃は初撃の10倍、怪物を内部から焼き尽くす威力だ。

これだけは揺るがない現実であった。


ミサイルの精度を上げる為、限界まで接近していた「ちょうげい」はその一撃を正面から受ける事となる。

電気系統は次々とショートし、機関部も壊滅的な打撃を受けて航行不能に陥った。

さらに潜行中だった為にバラストタンクの注水が止まらず、船体は次第に沈下していく。

潜水艦は深度限界を超えると船体が外圧に耐えらずに圧壊する。

死のカウントダウンの始まりだ。


上空の哨戒機は通信の途絶に異変を感じ、「ちょうげい」に何らかのトラブルが生じていると判断し、立花に協力を要請した。

一方、浮上中の京子は「ちょうげい」が潜行している様子を見ていたが、立花の連絡を聞いてそれが制御不能の沈下であると気付いた。


(もし深度限界までに船体のシステムが復旧しなければ、艦は圧壊(あっかい)して全員が死ぬ・・・。

でも・・・今の私ならできる!)


京子は体内通信で立花に「ちょうげい」を引き上げると伝えた。

その確信めいた口調に立花は息を呑み、一言尋ねた。


(本当に・・・可能なのですか?)


京子の答えは変わらない。


(私ならできます)


問答はそこで終わった。

京子は砂鉄を展開し、沈みゆく「ちょうげい」の船体に()わせる。

それは網目状に広がり、艦を包み込んだ。


『上がれ』


船体の沈下が止まった。

京子が持ち上げる動作をすると、砂鉄の一粒一粒が呼応し、「ちょうげい」が上昇を開始する。

まるで網にかかった魚を引き上げるように。


先ほどの落下で魔装に頼らず、極限まで密度を高めた結果、彼女の能力操作は微細な粒子にまで及ぶようになっていた。

広範囲かつ強度を高める。

この点において彼女は魔導使いの領域を逸脱していた。


夕日が沈み、月夜が照らす海面に「ちょうげい」は静かに佇んでいた。

そして、砂浜では麗華と双葉が魔装を解除してふらつく京子を抱き留めていた。


「戻りました・・・」


「「おかえりなさい」」


消え入りそうな声に二人は涙声で迎える。


「お二人のお陰で私はここに戻って来られました・・・ありがとうございます」


守った側が守られた側に礼を言う奇妙な構図だったが、麗華と双葉は素直に受け取った。


「私たちの声が貴女の力となったのなら、友として誇らしいですわ」


「そうです、私も京子さんの友達で良かったと心から思います」


3人は(しばら)く見つめ合うと、誰とはなしに笑い出した。

だが、幸福な時間は立花の硬い声に打ち消される。


(少尉、司令部から帰還命令です。

霞が関付近に怪人、怪獣が多数出現、各省庁が攻撃を受けています)


京子の顔が引き締まる。


(数は?)


(確認できるだけで50体、そのうち5体は怪獣です。

防人(さきもり)を中心に軍が展開し、辛うじて持ちこたえています)


(想定されていた『敵性生物による国家中枢部への攻勢』が現実となったわけですか・・・了解です、迎えをお願いします)


先ほどまで笑顔だった京子が急に黙り、拳を握りしめている様子に、麗華と双葉は只ならぬことが起きていると察した。


「皆さん、私は急用ができたので先に東京に戻ります」


理由を聞かなくても2人は京子が闘いに再び赴くと分かった。

彼女が必要とされているということは軍や警察で対処できない事態が起きたことに他ならない。


「ダメ! 行っちゃダメです!」


思わず京子の手を握りしめた双葉であったが、上から麗華が手を重ね、離すように(うなが)す。


「なんで!? 麗華ちゃんも行ってほしくないでしょ!?」


理不尽な状況に怒りを露わにした双葉だったが、麗華が歯を食いしばって涙を堪えているのを見てその感情は消えた。


「軍は京子さんの満身創痍を知ったうえで呼び戻したのです。

つまり、それだけ東京が危機的状況に陥っているということですわ」


機密が話せない京子は頷いて彼女の予想を肯定する。

その時、頭上で回転音が響き、雲を裂いて一機のティルトローターが降下してきた。

機体は一定の高度を維持しつつ、サイドドアを開き、外部にせり出したホイスト(機械式のワイヤー装置)でワイヤーを地上に降ろす。

京子はそれを片手で掴み、努めて穏やかな声で2人に話した。


「麗華さん、双葉さん、私は魔導使いとなったことを後悔していません。

この力は理不尽に奪われる命を救い、未来を繋げることが出来ます。

その未来が世界をより良く導けるなら、私は命を賭ける価値があると思います。


だから私は行きます。 


みんなの為、私の生きる意味の為に」


「うう・・・うわあああああああああ!!」


感極まった双葉は号泣しながら京子を抱きしめた。

麗華も涙を我慢することを止め、笑いながら彼女を送り出す。


「京子さん、存分に暴れてきてください。

大丈夫、どんな傷でもバンドウが治して差し上げますわ」


麗華の独特な激励に京子も笑った。

そして頭上に合図して、ワイヤーと共に宙に昇る。

潜水艦「ちょうげい」を見ると、甲板で乗組員たちが敬礼で彼女を見送っていた。

その中には艦長であり、京子の祖父であり、亡くなった京介の父である『勝土騎 征十郎』(かちどき せいじゅうろう)の姿があった。


(せい爺ちゃん・・・ちょうげいに乗っていたんだ・・・救えてよかった)


機体に乗り込んだ京子は「ちょうげい」に敬礼を返した。

サイドドアは閉じられ、ティルトローターは東京に向けて発進する。


(京子・・・軍人としての責務を果たしてこい。

そして必ず帰ってこい・・・京介と同じ道を辿らないでくれ・・・)


機体が見えなくなるまで征十郎は敬礼を止めなかった。


暗闇が支配する中、雲の切れ目から一筋の月明りが差し込む。

それはまるで、京子の行く末を暗示しているようだった。


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