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魔導の果てを見よ  作者: Tom & Wood
第6章 巨獣再び
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第2話


「少尉、分析の結果、目標が停止しているのは長距離移動の為に酸素を取り込んでいるからです。

よって、供給が完了すれば海中に潜行して排除が困難になります」


「了解、攻撃を開始します」


京子は海底から岩石を次々と引き寄せ、足場代わりにして接近する。

怪獣とは何度か戦ったことがあるが、これほどの巨体は初めてだ。

籠手調べに右腕を砂鉄で硬質化して思い切り打ち込んでみる。


「ハッ!」


金属同士がぶつかり合う音がして巨獣の皮膚にひびが入ったが、それだけだった。


「硬い・・・」


京子が顔をしかめている間にひびは即時に修復される。

ここで初めて怪獣は彼女を敵と認識して顔を動かした。

そして両眼で姿を捉えると、(おぞま)ましい咆哮(ほうこう)をあげて威嚇する。

並の人間なら気絶するほどの威圧だが、京子は片手を上げて挑発した。


「無駄吠えせずにさっさとかかってこい」


生命体として上位である己が馬鹿にされたと感じた怪獣は、(うな)りをあげて腕を少女に向かって叩きつける。

巨大な水飛沫があがるが、そこに彼女の姿はない。

怪物が左右を見渡していると背後にわずかな重みを感じた。

振り返ると少女が自らの背中を駆けあがっていくではないか。

頭部はウツボがベースな為か、鎧のような皮膚が少ないそこなら拳が通ると京子は踏んだ。

だが怪獣もされるがままではない。

身を屈めて体内器官の活性化を始めた。


「目標中心から高エネルギー反応確認!

少尉、回避行動を!」


しかし、立花の警告に京子は従わなかった。

後数秒で怪物の脳天に拳を叩きつけることができるからだ。


一刻も早く敵を倒して自分を友だと言ってくれた人に謝らなければ。


焦りが冷静な判断力を奪い、直情的な行動に駆り立てる。

故に怪獣が発光を始めたことにも気づかない。


(あと少しで!)


頂上まで数歩の所で京子は飛び上がり、腕を振りかぶる。


「クオオオオオオオオオオ!!」


怪獣が雄叫びをあげ、力を解き放った。

凄まじい電流が体外に放射され、少女を飲み込む。


「ぐうあああああああ!!」


バイザーの画面を警告表示が埋め尽くし、魔装の内蔵回路がはじけ飛ぶ。

防ぎきれない攻撃が肉体を蹂躙(じゅうりん)し、魔導使いは膝を屈した。

それは数秒の感電だったが永遠に感じるほどの苦痛だった。


怪獣の放電が終わる。


周囲には感電した大小様々な生物が浮き上がっていた。

そして少女も全身の痙攣(けいれん)で動けない。

そこに巨大な尾びれが京子を弾き飛ばし、水切りのように水面をバウンドさせた。



地下の要人避難シェルターでは麗華と双葉がモニター前で固唾を呑んでいた。


「「~~~ッ!!」」


京子が吹き飛ばされると声にならない叫びを二人同時にあげ、双葉は思わず目を逸らしてしまう。

今まで彼女は魔導使いを華々しい戦果を生み出すヒーローとしか見ていなかった。

だがモニター越しの光景がその甘い幻想を打ち砕く。

現実は泥臭く、苦痛に塗れていた。

そんな地獄のような闘いを憧れの女性が、優しい少女が、掛け替えのない友達が繰り広げている。

二重のショックだった故、すぐに彼女を肯定できなかった。

それが誤解を生みだし、結果京子の精神を乱してしまったのだ。


(私のせいだ!)


己を責める感情が涙となって地面に落ちる。

だがそれを許さない者がここにいた。


「目を背けてはいけませんわ」


下を向く双葉の両肩を麗華が掴み、強い眼差しで見つめた。


「京子さんはこの国の為、そして貴女の為に闘っているのです。

だから、きちんと最後まで見届けなさい。

それが貴女の成すべきことよ」


双葉は麗華の瞳が潤んでいることに気付く。

麗華の京子に対する友情以上の感情を双葉は知っている。

それを恋というならば戦いで傷つき、命を失う恐怖は計り知れないだろう。

だから本当は泣きたくてたまらないのだ。

それでも我慢しているのは京子が帰ってくることを信じているからだ。

泣いて迎えるのではなく、笑って迎える為に。


「強いなぁ、麗華ちゃんは」


両手は自然と胸の前で組まれ、祈りの姿勢を取る。

もう目は逸らさない。

成すべきことは友の無事を願うだけだ。


その時、館内放送を通じて立花が2人に話しかけた。


「坂東 麗華さん、大熊 双葉さん、御二人に頼みたいことがあります」




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