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魔導の果てを見よ  作者: Tom & Wood
第5章 氷刃の狩人
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第2話


西暦2051年 8月18日 20時38分 首都高速湾岸線


世界で8人目であり、合衆国4人目の魔導使いである『ソフィア・アイスバーン』は白銀の長髪と碧眼(へきがん)をステルスコートで隠し、熱光学擬態(ぎたい)システムを起動させたバイクで対象『勝土騎 京子』を追跡していた。

CIAは国防総省に日本の魔導使いの実戦データの収集を依頼した。

ソフィアは5日前に密入国し、その2日後に火嘉瑠(ひかる) 明美(あけみ)を襲撃、重傷を負わせる。

(もっと)も、重傷という診断は一般人の視点からであり、魔導使いにとっては軽傷もいいところだ。

初めての他国の魔導使いとの戦闘は彼女を酷く失望させた。

火嘉瑠 明美は魔装状態であるにもかかわらず、能力制御が稚拙(ちせつ)であり、戦闘意欲も低く、ソフィアの全力を出すまでもなかった。

遥々(はるばる)海を渡り、国際法を冒してまで戦った相手がこんなものかと憤りを感じたくらいである。

よって彼女はもう1人の魔導使い『勝土騎 京子』に期待していた。


漆黒のバイクに跨る対象は速度を落とし、高速を降りようとするのでソフィアも後を追う。

DARPA(国防高等研究計画局)が開発したソフィアのバイクは韋駄天(いだてん)と同じく高度なAIが搭載されており、料金所のゲートもハッキングで容易く通過できる。

対象が向かう先は「大黒埠頭(だいこくふとう)」と呼ばれる港湾施設であり、日本が誇る一大物流拠点であるが、この日は人気が感じられず、街灯が周囲を照らすだけだった。

その異様な雰囲気に彼女は誘い込まれたと気づいたが後悔はしていない。

むしろ敵の本気が垣間見られ、正面から堂々と叩き潰してやろうと闘志を燃やした。

対象は倉庫群の一角に車両を止め、ヘルメットを脱いで彼女を見つめる。

その射貫くような視線にソフィアは歓喜し、ステルスコートを脱ぎ捨てた。

そして胸元のブローチに手を添えて瞳を閉じる。


「 ―魔装接続(コネクト)― 」


ブローチから眩い光が放たれ、ソフィアを中心に冷気が発生し、大気中の水蒸気を凍らせて結晶化する。

氷の結晶は光に当てられダイヤモンドダストのように煌めいていた。

その光の中で頭部にはバイザー、青色と銀色から成る装甲が脚部や腕部、胸部に装着され、腰に淡く光る衣が形成される。

京子に比べると軽装だが両腕だけは大型のガントレットが装着されていた。

最後に全身を覆うほどのマントが装着され、閉じていた瞳が開かれる。


京子もチョーカーに両手を添え、魔装接続を開始した。

接続からおよそ10秒もかからずに装着が完了し、京子は深く息を吐いた。


両者は(しばら)く睨みあうが、先に動いたのはソフィアだった。


「Hail Launcher!」(放たれる(ひょう)弾)


銃口が格納された左手のガントレットを京子に向け、拳銃弾と同等の威力を持った氷弾が連続で発射される。

その連射速度はサブマシンガンに匹敵し、魔導使いと(いえど)も直撃すればただでは済まない。

京子は砂の防壁を形成し、これを防ぐ。

だが、それこそがソフィアの狙いだった。

彼女は瞬時に氷弾をライフル弾と同等の威力に変化させ、京子に撃ち込む。

氷弾は防壁ごと左肩を貫通し、鮮血が飛び散った。


(やはりシミュレーション通りだな。

お前のような冷静で合理的な奴は魔力消費を抑える傾向にある。

だから防壁も拳銃弾が防げる程度のものしか形成しなかった。

さぁ、次はどうする?)


ソフィアが再び銃口を向けると、京子は回避行動に移った。


「Frozen Earth!」(凍れる大地)


合衆国の魔導使いが大地に手を置くと、凄まじい速度で凍結していく。

それが京子の足元まで瞬時に到達し、彼女は転倒こそしないが体勢を崩す。

京子が顔を上げると、氷のブレードを靴底に生み出したソフィアが高速で迫っていた。

そして右手のガントレットから氷の刀身を形成して顔面に振り下ろす。


「Glacier Blade!」(氷河の刃)


切っ先が最高速度に達する前に京子は前に出て刀身を両手で受け止める。

斬撃は白刃取りで防がれたがソフィアは焦らない。

なぜならその両手が冷気に蝕まれ、凍り始めていたからだ。

異変に気付いた少女は左足を軸に回転することで力を受け流し、敵の体勢を崩す。

腕を巻き込むことでソフィアは前のめりになり、その瞬間に京子は頭突きを叩きこんだ。


静寂に打撃音が響く。


「ぐっ!」


ソフィアの集中が欠けた為に能力が不安定となり、両手が刀身から離れた。

透かさず京子は大腿(だいたい)のポーチから取り出したアメジストを投げつける。

手榴弾のような爆発が起こるが、ソフィアは凍らせたマントで全身を覆って防ぐ。

白煙の中で合衆国の魔導使いはわずかに口角を上げた。


(なるほど、これは強い・・・だが私の方が上だ)


距離を取ろうと後退する京子、詰めようと前進するソフィアだが後者の方が速かった。

右のガントレットから氷の刀身が伸びる。


(当たらないと思ったか!)


先ほどの倍以上の刃が振り抜かれる。

京子は左腕に高密度の砂の籠手(こて)(まと)わせ、これを辛うじて防いだ。

だが、ソフィアの銃口が無防備な脇腹を狙う。


1発、2発、ライフル級の氷弾が右腕の装甲で弾かれる。


3発目、右腕は装甲ごと貫通され、少女の脇腹に氷弾がめり込む。


痛みで京子の魔力集中が一瞬だけ切れた。


その隙を碧眼は逃さない。


自らの右腕を魔力集中で強化、力任せに籠手の上から左腕を斬り落とした。

京子の顔が苦痛に歪むが、銀髪の魔導使いは勝利を確信して笑う。


(これで終わりだ!)


刀身を巨大な氷塊に変化させ、全力で叩きつけた。

凄まじい衝撃が京子の全身を襲い、20m以上吹き飛ばされて倉庫の壁面に激突する。

鉄製の壁は大きく陥没し、うつ伏せで地面に倒れこんだ少女はそれきり動かなかった。


「あっけない最後だな・・・だが予想以上に楽しめた。

礼を言うぞ、日本の魔導使い」


対象が戦闘不能と判断してソフィア・アイスバーンはバイクに向かって歩き出した。

己の全能感に酔いしれながら。



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