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魔導の果てを見よ  作者: Tom & Wood
第2章 サラマンダーの覚悟
12/29

幕間


見えるのは炎と瓦礫(がれき)、聞こえるのは悲鳴と怒声、この日私の世界は地獄と化した。

母は鉄骨が頭部に当たって即死、父は瓦礫に(はさ)まれ先ほど息絶えた。

最期まで私の未来を案じており、その遺言は生きる希望と呪いを心に刻んだ。


そして瓦礫は炎に包まれた。


私は無力だ。




西暦2051年 4月7日 17時52分 東京都世田谷区


京子は病室のベッドから跳ね起きた。

悪夢を見たせいか、(ひたい)には脂汗が(にじ)んでいる。

病室から見える風景でいつもの国軍中央病院だと分かった。

だがこの日は調度品を含めた内装が高価な仕様に変わっており、VIP向けの病室をあてがわれたようだ。

そしてベッドの脇には船を()ぐ麗華の姿があった。

椅子に座ってうたた寝をしていても崩れない姿勢は育ちの良さを感じさせる。


「ええと・・・・坂東(ばんどう)さん?」


躊躇(とまど)いがちに名前を呼ぶと麗華は目を見開き、少し恥ずかしそうに答えた。


「あ・・・目を覚まされたのですね。

すみません、私眠ってしまったようです」


麗華は備え付けの電話で、京子の意識が戻ったと医師に連絡した。

1分もしないうちに医師が看護師を引き連れて入室し少女の検査を開始する。

麗華はその間席を外し、医師らが病室を出ていくと再び京子の脇に座った。


勝土騎(かちどき)さん、貴女のおかげで私は今ここにいることができます。

改めて感謝申し上げます」


深々と頭を下げたその姿は心からの謝意を示していた。


「いえ、当然のことをしたまでです。

坂東さんが気にすることではありませんよ。

それより怪我(けが)がなくて良かったです」


京子が微笑んで返すと麗華はうつむいて(ほほ)を染めてしまう。

軍では市民の支持を得るために、他者を安心させる術を徹底(てってい)して教育する。

その1つが歯を見せずに柔らかく微笑むというものだ。

端正な顔の京子がこれを行うと、大半の者が好意的な印象を抱くが、それは麗華も例外ではない。

ましてや先日の戦闘で身を(てい)して守られたのだ。

これで好意を抱くなという方が無理な話である。


しばらく沈黙が続いたが、先に話を切り出したのは京子だ。


「坂東さん、先日の一件を忘れろとは言いません。

ですがお互いの為、あの日の出来事は秘密にしておいてはくれませんか?」


秘密の共有という甘美(かんび)な誘惑に麗華は震え、京子の頼みを快諾(かいだく)した。


勿論(もちろん)です。

貴女と私だけの秘密ですわ。

それに・・・」


先ほどとは打って変わって、急に歯切れが悪くなった。


「私は貴女の正体ではなく、人間性に興味があります。

もし勝土騎さんがお嫌ではなかったら、私は貴女とその・・・

ゆ、友誼(ゆうぎ)を結びたいと思っていますわ!」


前かがみになってまで主張する姿は普段の麗華からは考えられないものだった。

だがそれだけの熱意を目にして京子は好感を覚え、返答として右手を差し出す。


「私もバンドウ・メディカルケアの令嬢ではなく、貴女自身に興味が湧きました。

よろしくお願いします、麗華さん」


まさか下の名前で呼ばれるとは予想してなかった麗華は、感極まって両手でその手を握りしめる。


「ありがとうございます!

よろしくお願いしますわ、京子さん!」


同じクラスメイトだが片や軍人、片や令嬢。

夕日が照らす中、2人の友情が立場を超えて成立した。



西暦2051年 4月7日 20時15分 場所不明


博士と呼ばれる男は多忙(たぼう)を極めていたが、週に1度必ず訪れる場所があった。

それはメタバース空間にある魔導少女ファンクラブのチャットルームだ。

数多(あまた)に存在するチャットルームの1つ「№007」、彼はここの常連であり、『ドクトル』というハンドルネームで活動している。

ちなみにアバターは男子小学生が白衣を着ている姿であり、周囲が知らない魔導少女の情報を保有していることで一目置かれている。

その証拠にログインした瞬間に、アバターと肉声を持たない外野は「先生!教授!博士!」、「ショタ成分補給しに来ました!」、「愚かな豚に啓蒙(けいもう)please!」など異様な盛り上がりを文面で表していた。


「こんばんはドクトルさん、今夜も素敵な話題を期待しているよ?」


学ランを着た男性のルームマスター『メジマリガ』が眼鏡をいじりながら知的な声で歓迎した。

外野:「委員長の眼鏡になりたい」 「ウホッ!いい眼鏡・・・」etc. 


「こんばんはぁドクトルちゃん、お姉さんも楽しみにしてたわぁ~」


間延びした妖艶(ようえん)な声の持ち主は『ホットローズ』であり、アバターは規約ぎりぎりの露出の高い衣装を(まと)う美女だ。

外野:「オネショタ、丁度切らしてたから助かる」 「百合(ゆり)以外認めませんぞ!」etc.


「こんばんはドクトル殿! 拙者も心待ちにしておりましたぞ!」


野太い声の筋肉質な侍『(いわお)13(サーティン)』がパンプアップした大胸筋をアピールしながら叫んだ。

外野:「ナイスバルク!」 「筋肉ルーレット開始!」etc.


「こんばんは諸君! 今宵(こよい)も心躍る話題を持ってきたよ!

・・・・と、今日はこれで全員かな?」


ドクトルが見回すといつものメンバーが1人欠けている。

欠席の連絡は無かったので不思議そうにしているとメジマリガが疑問に答えた。


「ツインリーフさんなら用事があるから少し遅れるそうだよ」


ドクトルはツインリーフの本名を知っている。

『大熊 双葉』、現・防衛大臣の1人娘だ。

安直なネーミングはお互い様だから言及しないが、要人の娘にしては自覚が足りないのではと内心思っている。

しかし、魔導少女への熱意は並々ならぬものがあり、同じファンとして尊敬に値する存在でもある。

その双葉に聞いてもらえないのは(いささ)か残念だが、聴衆を待たせるのも悪いので博士は話を進めようとした。


「遅れてすみません! 

もう始めてましたか?」


ツインリーフがログインしたと表示され、アバターが形成される。

低身長の大平原、エルフのような長耳の少女の姿が表示・・・・されなかった。

代わりに現れたモデルに全員が驚愕(きょうがく)したが、一番動揺(どうよう)したのはドクトルだろう。


高身長でショートカット、引き締まった理想的な少女のアバター。

一瞬で博士はモデルが誰か分かってしまった。

外野:「・・・誰?」 「何かと言わんがEはあるな!」 「もどして」etc.


数秒間沈黙が支配したが、ドクトルが引き()った顔でツインリーフに(たず)ねた。


「えっと・・・リーフさん、アバター変えたんだ?」


よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりのどや顔でツインリーフは語り始める。


「そうなんです!

最近、リアル(現実)で()しの存在ができまして!

あっ、でも魔導少女から浮気したわけじゃないですよ!

あれはあれ、これはこれです」


博士は今の発言から、“双葉はモデル元が本物の魔導少女とは気づいてない”と確信する。

だが無自覚であっても、憧れの魔導使い殿が目の前で誰かに(かた)られるのは気分が良いものではなかった。

よって、元のアバターに戻すように誘導する。


「リーフさん、正直に言うと君の声とそのアバターはミスマッチだと思うよ。

前のモデルの方が僕は好きだったかなぁ?」


ドクトルの説得に他のルームメンバーも便乗する。


「ドクトルさんの言う通り、ツインリーフさんのイメージとはかけ離れてますね・・・」


「そうねぇ~、リーフちゃんは前のモデルの方が可愛らしかったわねぇ~。

それにそのスタイルだと私とキャラ(かぶ)るわぁ」


「ううむ、拙者も小さなリーフ殿が隣にいないと自慢の筋肉が目立たないから困る」


自信満々で登場したが、メンバーから否定的な意見が続出したことに双葉はショックを受けた。

気弱な彼女は早くも元のモデルに戻そうかと考えていたところでドクトルが(さと)すように語り掛ける。


「でもリーフさんがどうしてもやりたいなら僕は反対しないよ。

だけどその場合、モデルとなった人が悪く言われて迷惑を受けるかもしれないね。

お姉ちゃんはその覚悟があるのかな?」

外野:「かしこい」 「さすがドクトル」 「私もショタにお姉ちゃんと呼ばれたい」etc.


博士の意見に双葉は自分が京子に迷惑をかけていることに気付いた。

これでは恩を(あだ)で返すようなものであり、人として許されない行為だ。

善良な彼女にその覚悟は無かった。


深く反省した双葉はアバターを元のモデルに戻し、謝罪の言葉を口にした。


「ごめんなさい、私、憧れの人に近づきたくて暴走してました。

指摘してくれてありがとうございます、ドクトルさん」


思惑(おもわく)通りに事が運んだドクトルは、内心ほくそ笑みながら神妙な顔で謝罪を受け入れた。

この中で魔導使い殿の正体を知っているのは自分のみ。

つまり博士と京子だけの秘密なのだ。

だから真実に辿(たど)り着く手がかりは必要ない。


(ゆが)んだ愛情を胸に博士は今日も皆に最新の情報を提供する。

表面的な知識を与えて満足させ、それ以上追求させない為に。


双葉 制服イメージ

挿絵(By みてみん)


麗華・京子・双葉 等身比較

挿絵(By みてみん)


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