里子の世界
里子の理想の世界を作る話
春の陽気な昼下がり、静かな湖畔で白いドレスを纏った女性が横たわり、その女性の長い髪が時より風に掻き上げられるが、動かぬままに顔を伏せていた・・
うたた寝にしては、豪快に大の字で寝ている女性の顔は、気持ちよさそうに微笑み、よほど良い夢でも見ているのだろうか・・この女性の名前は結城里子、年は20歳。私は、この女性の世界を覗いて見る事にした・・
「ちょっと止めて!何するの!放してよ!」
里子は、上半身裸の男達に力尽くで押さえられ、丸太に縛り付けられると森の奥へ運ばれて行く・・
地面に掘られた穴に丸太が差し込まれ、男達を見下ろす高い位置に固定されると、足元に藁を盛る・・
「あなた達・・私を焼いて食べる気・・」
里子が尋ねたが、男達は何も喋らず、藁に火を付けようとした!
「ちょっと!黙ってないで何か言いなさいよ!」
すると男達は、里子を見上げ
「ウホッ!ウボボッ・ウボンハハ!」
「何言ってんのか、分からないわよ!もぉ~っ!」
焦りと恐怖に大声を上げ、この訳の分からない状況を理解しようとした・・
『どう言う事?何なのよ!こいつら・・異世界に紛れ込んだ・・夢?』
考え込む里子の目の前で、藁に火が付けられる!
「あぁ~っ!もぉ~っ・・誰か!助けてぇー!」
大声で叫んだ時!突然、ロマンスグレーの男性が現れ、火の付いた藁を取り除く!
「これで大丈夫ですよ。お嬢さん!」
里子は、助けてくれた白髪の男性に感謝しつつも
「助けてくれたのは、ありがたいけど・・もっと若い人が良かったわ・・」
失礼にも、そんな事を口走るとロマンスグレーの男性は、『ボン!』っと若い男に変身した!
「え?」
若い男に変わってビックリしたが、その男は坊主頭に黒眼鏡、ぶよぶよに太ってた・・
「イケメンのマッチョがいい・・」
ボソッと呟くと『ボン!』イケメンのマッチョに大変身!
『夢・・これは夢だわ!私、明晰夢を見てる・・』
そう思った里子・・
「スーパーカーに乗ったイケメン王子ーっ!私を助けに来てー!」
思いっきり叫んだ!
「ブブンッ・ブンブン!ブロロロ~ッ!」
里子の足元に真っ赤なスーパーカーが横付け、中からイケメン王子が出て来て、サーベルで縄を『スパッ!』っと切り、お姫様抱っこで里子を受け止める!
「もう、大丈夫だよ!」
「ありがとうございます!」
里子の目がキラキラ輝いていた!
森の中をスーパーカーが飛び跳ね爆走するが、天井にガンガン頭をぶつけて、たまらず里子は
「空を飛んで!」
スーパーカーが天高く舞い上がる
「私をお城に連れてって!」
「了解!」
城に向かって飛んで行った・・
二階のテラスから、車のまま城に突っ込み、玉座の前でスピンしながら停車、王と王妃が目玉をパチクリさせる所に王子が姿を現し
「父上!僕の妃となる人です!」
助手席のドアを開けると里子が登場!
「結城里子と申します!」
深々と頭を下げた・・王は、唖然とした顔を王子に向けて
「いや・・お前には、カマラ王国王女と言う婚約者が居るじゃないか!王女との結婚式は、明後日だぞ・・」
里子も唖然として王子に目を向けると
「父上!僕は彼女と結婚する事に決めました!」
「それは無茶な話だぞ・・お前には、カマラの王女と結婚してもらい経済的援助を受けなければ、この国は破綻してしまう・・」
それを聞いた里子!
「王様!経済的にお困りの様子でしたら、私がお助けします!」
「いやいや、個人にどうこうできる金額じゃないから・・」
「大丈夫です!いい考えがありますので!」
「いい考え?」
里子の自信ある態度に王は、どんな考えなのか知りたくなった・・
「で、どんな考えなの?」
「カマラ王国と戦争します!」
と自信満々で応えた里子に王は呆れて
「ハッハッハッ・・バカも休み休み言え!この国は金も無ければ武器も無い、兵士もヘナちょこしかおらんのじゃ!すぐ負けてしまうわい!」
「私が揃えます!最新の兵器と最強の兵士達を!お金なんて、戦争に勝ってカマラ王国からブン取っちゃえばいいのよ!」
「そんな無茶苦茶な・・」
困り顔の王に、里子は更に
「カマラ王国だけじゃない!戦争しまくって、財産と領土をブン取り、この国を世界一の王国にしましょ!お父様!」
「お、お父様って・・」
里子は調子に乗って来る!
「そうだ!手っ取り早く、最初に世界一の国をやっつけましょう!何処です?世界一の国は?」
「ロ・・ロメリア合衆国じゃが・・」
「じゃあ!まずは、そこね!ミサイルをブチ込みましょう!」
「お、恐ろしい事を言う女じゃな・・ロメリア合衆国は、超大国じゃぞ!防衛力も『鉄腕ドーム』と言って、1分間に10万発のミサイルを撃ち落とす完璧な防衛システムが配備されとるんじゃ!攻撃なんぞしたら、こっちが核を撃ち込まれて終わりじゃ!」
「なら、100万発撃ち込むわ!」
里子は1歩も引かず、王を睨み付け
「国のトップに立つお方は、時に非情な決断を迫られる時があります・・王様、今がその時です・・世界を手に入れましょう!世界一の王になり歴史に名を残すのです!覇王となるのです!お父様!」
「父上!覇王になりましょう!」
王子も後押しする・・王も里子の自信ある態度に覇王になれるような気がしてきた・・
「そうか、よし!分かっ・・」
王が決断しようとした時!突然、王の動きがピタッと止まり、白黒に・・
「何?何が起きたの?」
里子以外の動きが止まり、辺りが白黒になり、不安に周りを見渡すと・・
「やれやれ・・困りましたな・・」
何処からか聞こえた声に、キョロキョロ視線を走らせると、王に動きと色が戻り、里子と視線を合わせると・・
「あなたには、困りましたな・・戦争を始めるつもりですか?」
「何?」
先程までの王と違う声に、戸惑う里子・・
「戦争になれば、大勢の犠牲者が出ますから、見過ごせません・・」
「何よ、あなた!私の夢を邪魔しに来たの?」
「夢なら良いのですが・・これは、夢ではありませんので・・」
「夢よ!私は明晰夢を見てるの!」
「夢は覚めますが、これは覚めません・・今、あなたが居る場所は、あなたの世界の中なのです・・」
「はぁ?訳が分からないんですけど・・」
「考えて見て下さい・・この世界に来る前の事を・・あなたは、白いドレスを着ています・・それは、ウェディングドレスですよね・・」
「ウェディング・・ドレス・・」
里子は自分の服を見て、なぜウェディングドレスを着ているのか思い出そうとする・・
「あなたは、湖に居たんじゃないですか・・」
「みず・・うみ・・」
湖にいた時の記憶を辿ると、徐々に記憶が甦ってきた・・
「そうだわ!私、湖に居たの・・私は、明後日に結婚式を控えてて、船上で式をする打ち合わせに来てた・・その時・・1人で船の先端に行って、タイタニックを真似て足を滑らせ、湖に落ちのよ・・あぁ・・そうよ・・すごく苦しくて・・」
里子は、記憶を思い返し涙ぐむ・・
「私・・死んだのね・・それにしても、なんて間抜けな死に方・・あぁ!私って、なんて可哀想なの・・」
「思い出しましたか・・夢でない事に気付きましたね・・ここは覚める事の無い、あなたの世界だって事が・・」
「ここが私の世界だったら、どうしろって言うの?」
「あなたの世界で生きる命を大切にして欲しいのです・・戦争で消したくない・・」
「あなたは何者?・・人の世界にズカズカ割り込んで・・」
「私は、森の精霊です・・湖畔に倒れていた、あなたの表情が余りにも幸せそうだったので、あなたの世界を覗きたくなったのです・・」
「そ、そう・・余りいい趣味とは言えないわね・・でも覗きたいなら、好きなだけ覗けばいいわ!あなたに見せて上げる!私の世界をね!」
里子は、王の中に居る精霊に向かって
「戦争は止めないわ!でも私の世界に生きる命は決っして消さない!死んでも死霊として生き続けさせるの!この世界を怨念渦巻く、血みドロで悪霊の溢れる混沌とした暗黒世界にして見せる!」
里子は力強く拳を握り
「これが私の世界よ!」
森の精霊は、溜め息と共に里子の世界から去って行った・・
(終わり)