やっぱ、つぇーな・・
魔王との戦いに集まった勇者の話
魔王の目の前で、瀕死の状態で這いつくばる1人の勇者・・彼には、もう勝ち目がなかった・・
『やっぱ、つぇーな魔王は・・』
柱の陰から戦況を見守っていた俺は、そう思っていた・・助けてやりたいが何も出来ない・・俺は勇者の荷物を運ぶだけの荷物持ち、戦士でも何でもないから・・
魔王は、勇者を跡形もなく消し去ろうと強力な魔力の塊を作り出し、最後の一撃を繰り出そうとしている。
「これで終わりだ!」
ニヤリと笑い、魔王が最後の攻撃をしようとした時!
「待て魔王!俺が相手だ!」
新たなる勇者が姿を見せた!と思ったら!
「来たぞ魔王!私は貴様を倒すため、ここに来た!」
「魔王は俺が倒す!覚悟しろ!」
続々と勇者が駆け付ける!
それを見て俺は、助けが来た喜びにホッとして、外に目を向けると、ここまで続く長い階段の上に、勇者の行列が出来ていた。
『すげぇ!これで魔王も終わりだぞ!』
勝利を確信した俺は
「魔王!貴様は、もう終わりだ!貴様は必ず、この俺が倒す!」
勇者の気分を味わって見た・・
魔王は、次々と現れる勇者を睨み付け
「勇者様御一行の到着か・・」
鼻で笑い飛ばし
「だが、勇者に紛れて偽物が1人いるな・・」
と魔王の視線が俺に向けられた・・
魔王に睨まれた俺が素早く柱の陰に隠れた所に、魔王の攻撃が飛んで来る!
『ひぇぇ~っ・・』
危うく、柱もろともブッ飛ばされるギリギリで助かった・・
『あ・危なかった・・』
駆け付けた勇者達は、魔王と戦う気満々で、我も我もと順番をめぐってゴチャゴチャ揉め始めていた・・
「俺が先だろ!」
「いや!俺だって!」
「俺に決まってんだろ!俺が早くここに来たんだから!」
「そんなの関係ねぇ!」
勇者達のゴチャゴチャに魔王は眉をひそめ
「騒がし奴等め・・」
と勇者達を睨み付けると
「順番なんかどうでもいい!まとめて掛かって来い!」
「うるせぇー!魔王が口出しすんじゃねぇー!黙って、待ってろ!」
魔王そっちのけで、言い争いになっていた・・
「最初は俺が行く!」
「お前は、弱いのに出しゃばるな!」
「何ぃー!こうなったら、戦って順番を決めようじゃないか!」
すると、1人の勇者が前に出る!
「なら、俺が最初だ!俺は、勇者の世界チャンピオンだからな!」
「チャンピオン?知らねぇよ、引っ込んでろ!」
「何だとぉー!」
「まぁまぁ、落ち着け、お前達は、それでも勇者のつもりか・・」
宥めながら出て来たのは、勇者達の憧れ、世界中で英雄と呼ばれている勇者だった。
「いいか!勇者とは勇気と威厳を兼ね備え、慎み深くしてこそ、人々から尊敬され英雄と呼ばれるんだ!人を押し退け、我先に出ようなんて見苦しい真似はよせ!」
と言って先頭に出て行く・・
「待て!お前!何、しれーっと前に出てんだよ!英雄ヅラしやがって・・下がれ!このヤロー!」
「そうだぞ!それにお前は、本物の英雄じゃねぇだろ!お前は英雄って名前だけで英雄扱いされてるだけだ!」
「なっ何だとぉ!コノヤロー!」
周りの勇者達がザワザワし出す・・
「そ・そうだったのか・・」
「そう言えば・・どんな活躍をしたか聞いた事無い・・」
「飛んだ詐欺ヤローだ・・」
「なっ!・・」
英雄と呼ばれる勇者の顔が怒りで真っ赤になり、剣を抜こうとしていた・・
「いい加減にせんか!」
威厳ある声が響き、勇者達が振り向くと、そこには伝説の勇者の姿・・
「あ、あなたは伝説の!」
伝説の勇者の前から人が退き、道が出来る・・そこをゆっくりと歩いて行く・・
伝説の勇者は、既に80歳を越えた老人であったが、背筋がピーンと伸び、ガッチリとした体格、厳かな雰囲気を纏い、数々の武勇伝と伝説を残す勇者と言う言葉の始まりの人物であった・・
「前でゴチャゴチャしとるせいで、行列が進まんではないか・・何をそんなに揉めておるんじゃ!」
伝説の勇者の登場で、勇者達は冷静に話し合いをする事になり、戦いのルールが決められた。
それは到着した順番で戦い、戦う時間は1人3分、時間内に魔王を倒せなかったら次の者と交代して、その間、魔王には1分間の休憩が与えられる。と言う内容が看板に記され、立て掛けられた。
「よぉーし!これで、やっと戦えるぞ!」
最初に到着した勇者が、意気揚々と前に出る!
「魔王!俺と勝負だ!」
「オイ・・ちょっと・・待ちな・・」
魔王の前で這いつくばっていた勇者が、立ち上がろうとしていた・・
「まだ・・俺は殺られてねぇ・・勝手に出て来んなよ・・」
フラ付きながらも立ち上がったのを見た俺は、嬉しさに思わず「おぉっ!」と声を上げたが、それ以上に勇者達から大歓声が湧き上がった。
なぜなら、立ち上がった勇者は、勇者史上最強と言われた勇者で『キング・オブ・勇者』として知られる勇者だったのだ!
勇者達は、まさか倒れていた勇者がキングだとは思ってもなかった・・立ち上がって初めて気付き、驚きの歓声を上げたのだった・・
キングは、ボロボロのフラフラになり、俺に向かって歩いて来る・・
その様子を見た勇者達は
『キングがボロボロだ・・魔王って、そんなに強いのか・・』
急に不安を感じる・・
俺の目の前に来たキングは、崩れた柱に寄りかかり
「チッキショー!派手にヤられちまったぜ・・」
と言い、床に目を向け
「俺の鞄を取ってくれ!」
俺は、キングに鞄を渡すと
「他の勇者達も来てるし、もう戦うのを止めた方が・・」
と言ったが、勇者は俺を睨み付け
「そうはいかねぇ!魔王は俺が倒す!」
と言いながら、鞄の中をゴソゴソし出す・・
「でも魔王は強いし、他の勇者と協力して倒した方がいいかと・・」
「それじゃ意味ねぇんだ・・なぜ勇者達が急に集まったと思う?」
「さぁ・・何故だろ?」
「魔王復活を察知した政府が、魔王討伐の賞金を以前の100倍にしたんだよ・・俺は、その情報をいち早く知って真っ先にすっ飛んで来たんだ。当然、みんな金目当てで来てるし、誰かと分け合う気がないさ。それに1人で立ち向かってこそ勇者、後世に名を残すってモンだ!」
と言うと
「おっ!あったぞ!」
鞄の中から小瓶を取り出した。
「戦い始めてから急に腹の調子が悪くてグルグル鳴るわ、痛ぇし・・死んでも漏らす訳にはいかねぇから、力を入れれなかった・・こいつを飲んでリベンジだ!
俺の必殺技、デッドエンド・スペシャルサンダーマウンテン・メガトン・スーパーアタックを奴にブチ込んでやるぜ!」
小瓶の薬を全部飲み込み、気合いを入れて魔王の元へ向かうキングだったが、伝説の勇者が呼び止める!
「おい、キング!ここからの戦いは、決めたルールに従ってらうぞ!3分で倒せなかったら、次の勇者と交代だからな!」
「なぬ!・・・」
キングは伝説の勇者、その周りの勇者達を睨み付けるように見渡すと・・
「チェッ!分かったよ・・」
と言い
「あのじいさん、まだ生きてたのかよ・・」
不機嫌に呟いた・・
再び魔王と対峙したキング・・
「さっきの借りを返してやる!」
と言うと、いきなり全開モードで魔王に襲い掛かる!凄まじいスピードで魔王の懐に飛び込み、鋭く剣を振り回すと、魔王は防御するので精一杯・・
「クッ!さっきとは、別人だ・・」
キングの鋭い攻撃を目の当たりにした勇者達も「やっぱ、つぇーな・・」と、どよめきが起こり、キングの攻撃が更に勢いを増し、魔王を攻め立てる!
「つ・強い!・・」
防戦一方の魔王は、強烈なキングの攻撃に耐え切れず、後ろに弾き飛ばされた!『今だ!』これを絶好のチャンスと見たキングは、必殺技を炸裂させようと、思いっきり天に向かって剣を突き上げ、大声で叫んだ!
「デッド、エンドォーッ!」
突き上げた剣で大きくDの文字を描くと
「スペシャル、サンダーマウンテン!」
稲妻が落ちるように素早く剣を振り降ろして、しゃがみ込み!
「メガトーンッ!」
両足を踏ん張り腰を下ろすと、剣で狙いを定めながら更に体を低く沈み込ませ、力を溜め一気に!
「スーパー【カーーン!】・・」
突然の鐘の音・・
「・・アタッ・ク?」
音の方に視線を送ると、伝説の勇者が金槌を手に
「時間切れだな!」
「マジ?・・」
3分経過の鐘だった・・
『もう少し、短くすれば良かったかな・・』
溜め息を漏らすキングだったが、実際は、まだ3分経ってなかった・・その事は、周りの勇者達も気付いていたが、誰も異を唱えない・・伝説の勇者は絶対的な存在であった・・
キングの必殺技、無駄に派手で大袈裟な演出がお気に召さなかったようで、時間前に鐘を鳴らしたのである・・
伝説の勇者は、また一つ伝説を作った・・
キングは伝説の勇者を睨み付けると、出口に向かって歩き出す・・
勇者達は、キングに道を開け静かに見送り、キングも無言で階段を降りて行くと、俺は慌て荷物をまとめキングを追い掛けた・・
勇者が順番待ちで並ぶ行列の横を、ゆっくりと降りて行くキングに追い付いた俺は
「あと少しだったのに・・惜しかった・・」
と声を掛けると
「まぁな・・」
別に悔しがる様子も見せず、静かに階段を降りて行くキングは、長い行列の最後尾まで来ると、その後ろにスーっと並ぶ・・
「並ぶんかーい!」
大人しく帰ると思っていた俺は、思わず突っ込んでいた・・
キングは、長い行列を下から見上げると
「魔王を3分以内に倒せるのは、俺だけだ!」
と言い
「見て見ろ!この勇者の列を・・」
俺が行列を見上げるとキングは
「みんな魔王を倒す為に、大急ぎで駆け付けて来たんだ!俺がいきなり倒したんじゃ白けちまうだろ・・伝説の勇者の計らいだよ・・」
「でも、これだけの勇者を相手に戦い続けたら、魔王でも途中で力尽きるんじゃ・・」
「魔王の回復力は半端ねぇ・・1分も休憩したら完全に回復しちまうさ・・」
「そうか・・やっぱ、つぇーな・・魔王は・・」
俺がそう言って、キングに目を向けると、キングは若い勇者達の長い行列を見上げ、嬉しそうに微笑んでいた・・・
(おわり)