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眠くなる短編集  作者: 生丸八光
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超絶書道

書道とは、道である。

道とは、目標に向かって進んだ軌跡(きせき)である。

曲がった道もあれば、真っ直ぐな道、人それぞれ目指す所も違えば、出来る道も違うだろう・・人の数だけ道があるのだ。


ここに1本の道が見える。


真っ直ぐ突き進んだ道・・・山を越え、壁をブチ破り、穴に落ちても這い上がって続く真っ直ぐ延びた道・・・その道の先端を行く1人の男・・・彼は、超絶書道を極めようとする男であった。


超絶書道とは、両手に筆を持って書く書道だが、彼が勝手に名付けただけで一般には知られていない呼び名である。超絶書道を会得(えとく)するのは至難の(わざ)だ。集中力を限界まで研ぎ澄ませ、肉体と精神をすり減らす危険な道なのである。


彼は、その道を進んでいた。


彼が書道を習い始めたのは小学3年の頃。しかし1日で習うのを辞めてしまった。が、書道を辞めた訳ではなかった。彼は1人で続けていたのだ!超絶書道を毎日・・・


超絶書道を続けて彼は20歳を過ぎていたが定職にも付かず毎日朝から晩まで書き続けた。

 安い筆で、黒く染まった紙を何度も使い回し、毎日何百枚も書き続けた彼の技術は素晴らしかった。左右の腕を巧みに動かしスラスラと文字を書く。右と左の連携に強弱と緩急、リズミカルに筆を走らせた。


彼は達人の域に達していたが満足はしない、彼はひたすら書き続ける超絶書道を極めるために・・・


ある日彼は、真っ白な紙を前に両手に筆を構え、目を閉じ精神を集中していた。1時間経っても、2時間過ぎても微動だにしない・・・3時間たった頃、男の目が鋭く開くと同時に一気に文字を書いた!

紙には一文字『道』と書かれている。


その一文字をじっと見詰めた彼は気に入ったのか、額縁に入れて目の前に飾る。そして、毎日その一文字を見詰めてから書き始めた。部屋に(こも)り書き続ける彼の事は誰も知らない・・・彼も知られようとは思わない。ただひたすら自分の道を突き進んで行く・・・


彼は30歳を迎えていた。白い紙を前に集中する男は、筆を構えたまま動かない・・・その時、筆先から滴り落ちる1滴の墨液。彼には、その1滴がスローモーションに見えていた。滴り落ちて紙に染み込む(すみ)をじっと見つめた男は、一言呟いた・・


「美しい・・」


自然に滴り落ちた1点の墨を見詰めた男は、額縁の『道』を外し1点の墨に付け替えた。その日から、彼はひたすら点を書き続けた。毎日ひたすら点だけを・・・


点だけを書き続け、10年の月日が流れていた・・・今日も朝から点を書き続ける。紙が真っ黒に染まるまで何百枚も・・・そして、彼が新しい紙に取り替えた時、衝撃が走る!


まだ何も書かれていない真っ白な紙・・・その紙の美しさに衝撃を受けたのだ!そして、彼は思った。


『自分は、今までこんな美しい紙を、真っ黒に染めていたのか・・』


その日から彼は、額縁に白い紙を入れ毎日見つめた。男は書くのを辞めてしまったのだ・・・


毎日、白い紙をただひたすら見つめる日々・・・


長い月日が流れていた。


白い紙をじっと見つめる男は、突然ビックリして体をのけ反らせた!


なんと!何も書いてない白い紙に文字が見えるのだ!自分が書きたいと思った文字がハッキリと浮き出てくる!

 目がおかしいのか頭が変になったのか、何度も瞼を擦り頭を叩いたが、文字が見えて来る。

男は超絶書道を極めようとして、とんでもないモノを会得してしまったのだ!

彼は、これを究極書道と名付けた。


究極書道を身に付けた彼は、これを何としても世間に知らせたいと思った。


そこで彼はNHKに電話して、プロフェッショナルへの出演を(うった)えたが、その番組は既に終了していると断られる。


次に彼は、情熱大陸に出すよう迫った。 数日後、情熱大陸のスタッフが彼を訪ねる。

スタッフの目の前で、男は真っ白な紙を置き、究極書道を披露した!

彼は、紙に浮き出た文字を自信と自慢に満ちた顔で情熱スタッフの前に突き出し


「情熱と書きました!」

と言った!


情熱大陸のスタッフは、ポカーンとした顔で

「何も書かれてませんけど・・・」


「そっそんな!バカな・・・」


焦る男・・男にはハッキリと文字が見えているのに、彼等には見えてない・・・

情熱大陸のスタッフ達は、テッテ♪テー♪テッテーテレレッテレッテレ~とテーマ曲を流しながら帰って行った・・


男は一人、紙の前に座り込み、じっと見詰めている・・・そして彼は確信した!白い紙には、確かに情熱と書かれている事を・・・そして彼には見えていた・・白い紙を通して全ての事が・・・


男の道は、真っ直ぐ突き進んでいる。長く険しいその道は、深海が広がる大海原へと入っていた・・・真っ暗で何も見えない海底を進む男・・・彼には見えている。どんなに暗い闇の中でも、明るく全てが見えていた。白い紙を前に座る彼の心眼には、この世の全てが見える・・・遠い宇宙の果てまでも・・・


ただ、彼の両親は心配していた。自分の将来が見えているのかと・・・テッテ♪テーテ♪テー♪テーレ♪レッテレッテレ~



(終わり)












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