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眠くなる短編集  作者: 生丸八光
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世紀の一戦

『世界で一番強い奴』の続編

日の出と共に世紀の一戦が始まろうとしていた。


薄暗い中に浮かび上がる四角いリング。

誰もいない無人島に造られたリングには、観客席はなく観客の姿もない。無人のカメラ数台とリングがあるだけ・・・


朝日が射し込み始めると、東から大男が姿を現した。


「おーっと!いま姿を現しました!日の出を背中に背負い、リングに向かう男!何と、神々しく堂々とした姿でしょうか!まさに人類最強の男!この世界は俺の物だと言わんばかりに、ゆっくりとリングに向かって行きます。その鍛え上げられた肉体は現代のヘラクレス!まさに、歩くギリシャ神話と言ってもいいでしょう!マックス選手がゆっくりと入場してきます!」


マックスは、リングを見つめ闘志を燃やしながらも、ゆっくりと歩いて行く・・・


「おぉーっ!燃えている!燃えているぞ~!歩く姿に戦う男の闘魂が私にも伝わって参ります。おっと、私、興奮のあまり皆様へ紹介するのを忘れていました。本日の実況を担当します私、古田三郎と解説は元世界チャンピオンのアニマル豪剛さん、ゲストに今人気絶頂アイドルぱこみちゃんをお迎えして、お伝えして参ります。お二方、どうぞよろしくお願いします。」


豪剛「よろしくお願いします。」


ぱこみ「ぱこみでぇーす!皆さん!よろしくお願いしま~チュッ!あっ!あれは!」


古田「おぉーっと!今カメラが(とら)えているのは、西側で朝日を顔面に浴びて立つ男!チャンピオンのダグラス・ダットンであります!眩しい・・・ダットンのスキンヘッドに反射する朝日がとても眩しく輝いております!おっ、なんと!いきなりチャンピオンが猛ダッシュでリングに向かって走って行くぞ!」


ダットンは、一気にリングのコーナーポスト最上段まで駆け登ると、大きくバク宙をしてリング中央に着地。仁王立ちでマックスを待ち構える!


古田「おぉーっと!仁王立ちだぁ~っ!ゆっくり歩いて来るマックスを睨み付ける!まさに金剛力士像のような眼力!これぞチャンピオンの迫力だぁーっ!豪剛さん、どうですチャンピオンの今日の気合いの入りようは?」


豪剛「良さそうですね!ゴーゴーって感じです。」


古田「・・・・」


ぱこみ「ゴーゴーッ!」


古田「ゴッ・ゴホッ・・気を取り直して参りましょう。え~っ本日の試合は、特別ルールとなっておりまして、なんと!レフリー不在の時間無制限、目潰し金的何でもあり、どちらかが敗けを認めるか、死ぬまで戦い続けると言う完全決着ルールとなっております。そしてこの試合、誰も試合を(おこな)っている場所を知りません!勿論、私も知りません!我々は、カメラに写し出される生の映像を見て実況をしております。いや~っ!豪剛さん、飛んでもない試合になりそうですね。豪剛さんは、どんな試合展開を予想されてますか?」


豪剛「そうですねー。片方が技を掛ければ、片方がそれを受ける展開じゃないでしょうか」


古田「・・そ、そうですか。と言う事は、お互いの技と意地のぶつかり合い!血みどろの壮絶な試合が予想される訳ですね!」


豪剛「えぇ」


古田「この試合が無観客で開催されるのも、どちらか一方が死ぬまで戦い続けると、ダットンとマックスの両者が希望したらしいですね・・」


豪剛「そうですか・・・バカですね」


古田「おーっと!話している間にマックス選手がリングロープに手を掛けたぁーっ!ダットンが睨み付ける中、ゆっくりロープを(また)ぎ、リングの中に入るぞぉーっ!」


マックスは、リングに上がるとロープを利用しての柔軟体操でゆっくり体をほぐし始める。


古田「豪剛さん!マックスは入念に体をほぐしてますね。やっぱり怪我が気になるのでしょうか?マックスは一度、怪我の影響で引退してますからねーっ。」


豪剛「そうですね。」


古田「一方ダットンは、マックスを睨み付け、微動だにしませんね!まさに、仁王像と言ったところでしょうか。」


豪剛「()()ですね。」


古田「・・・豪剛さん、ダットンが睨み付ける中で体をほぐし続けるマックスの精神状態、心境はいかがなモンでしょう?」


豪剛「分かりません。」


古田「・・・ですよね。」


ぱこみ「ぱこみ分かりま~す!」


古田「ほーっ!ぱこみさんは、何だと思います?」


ぱこみ「ガン飛ばしてんじゃねぇぞ!コノヤローで~す!」


古田「・・なるほど。で、豪剛さん!チャンピオンだったダットンは無敗のまま引退して2年後に復帰。再び、チャンピオンまで上り詰めた訳ですが。豪剛さんは何度か対戦した事がありますよね。ダットンの強さはズバリ何処にあると思いますか?」


豪剛「分からないです」


古田「分からない・・つまり理解できない程メチャクチャ強いと言う訳ですか?」


豪剛「まぁ・・・」


古田「なるほど!おっ!どうやら、マックスの柔軟が終わったようです!さぁ~っ!いよいよ始まってしまうのか!男と男の頂点を決める闘い!ダットンが睨み付けているぞ~っ!おぉっと!今度はマックス、ロープに背中を(あず)け、ロープの張りの具合を確かめてるぞ!豪剛さん!マックスは、ロープを使った空中殺法を得意としていますからねーっ!やっぱり、この辺りは重要ですか?」


豪剛「・・ですね」


古田「さぁ~っマックス!ロープの次は、何を見せてくれるのか!おっ!受け身だぁ!バンバン音を立て、後ろ受け身を繰り返す!豪剛さん!これはやっぱりマットの硬さを確かめてると言った感じでしょうか?」


豪剛「・・しょうね」


古田「おぉ~っ!回転受け身も始めたぞ!ダットンの周りを受け身をしながら回りだしたぁ~っ!豪剛さん!これは挑発と考えて、よろしいですか?」


豪剛「さぁ・・」


古田「さぁ~どうするダットン!いまだ微動だもせず睨みを効かせているが!いつ始まってもおかしくない状態だ!おぉ~っ!なんと今度はマックス!スクワットだぁ~っ!豪剛さん、ここに来てのスクワットは、どう理解すればよろしいですか?」


豪剛「さぁ・・」


ぱこみ「古田さぁ~ん!ぱこみも喋りたいよぉー!」


古田「ほーっ!何でしょうか?ぱこみさん!」


ぱこみ「ぱこみ!今度、新曲が出るんですけど、ここで宣伝しちゃっていいですか?」


古田「ダメです。」


ぱこみ「ちょっと歌うだけでも」


古田「ダメです!さぁ、どうしたダットン!マックスのスクワットが段々と激しさを増していくぞぉ~!」


ダットンの目の前でマックスのスクワットが止まらない!


古田「豪剛さん、2人は過去に何度も対戦する話で盛り上がりを見せましたが、結局、実現することがありませんでした。一説では、ストリートで二度程戦って一勝一敗と言う噂もありますが、公式に戦うのは今日が初めて、それが遂に実現する訳ですが、その辺りの気持ちとしては、お互い勝利へのこだわりは、今までの試合より一段と強いと思った方がいいでしょうか?」


豪剛「ですね。」


古田「と言う事は豪剛さん、マックスの今日の体の動き、切れ味は今までで一番の仕上がりと思っていい訳ですね。」


豪剛「ですね。」


古田「ダットンはどうです?ダットンは前人未到の7団体を統一したチャンピオン!まさに無敵と言っても言い訳です。しかし、人気ではマックスの方が遥かに上回り、マックスの方が強い、無冠の帝王なんて言われていますが、ダットンとしては、自分の強さを証明する絶好のチャンス!当然、負けるわけには行かない。最高の状態で仕上げて来てると思って間違い無いですよね。」


豪剛「ですね。」


古田「今日まさに!2人は最高の状態で相対しているわけっ・おぉ~っ!マックスのスクワットが止まったぁーっ!」


マックスはスクワット止めると、睨み付けているダットンに顔を近付け、睨み返す!


古田「おぉ~っ!マックスも睨み付けているぞ~っ!ダットンは鬼の形相だぁ~!マックスの体は、うっすらかいた汗で光り輝いております!リングの中央で睨み合う2人は、まさに金剛力士像の前に立つギリシャ彫刻だぁ~!豪剛さん、この睨み合う2人は今、アドレナリンが出まくってるんじゃないですか!」


豪剛「ですね。」


古田「さぁ~遂に始まるか!互いに睨み合い、緊張が高まって参りましたぁ~っ!」


ダットンとマックスはピクリとも動かず睨み合う!


古田「静まり返ったリング上で、凄い睨み合いだぞぉ~!気迫と気迫のぶつかり合い!まるで西部劇の決闘だ!互いに隙と出方を伺い銃撃が始まる。そんな気配が漂っています!これはもう試合と言うより決闘です。まさに負けた方が死んでしまう!そんな雰囲気ですよね。豪剛さん!」


豪剛「です。」


古田「これはもう視線を外した方がヤられると思って間違い無いですよね。豪剛さん!」


豪剛「です。」


古田「我々も目が離せません!ここは、しばらく、静かに2人の出方を見守りましょう。」


ぱこみ「古田さぁ~ん!ぱこみ新曲の宣伝したいですぅ~!」


古田「だから、ダメだって!」


ぱこみ「うあぁ~ん!新曲の宣伝しないと、ぱこみマネージャーに怒られちゃうんですよぉ~!」


古田「・・じゃあ、タイトルだけですよ・・・」


ぱこみ「わぁーい!ぱこみの新曲、愛はゴーゴーで~す!皆さん聴いてくださいね~っ!」


豪剛「いいタイトルですね!どんな曲です?」


ぱこみ「愛は♪~ゴーゴー♪って感じで~す!」


豪剛「いや~っいいですねぇー!ぱこみちゃん!私、ぜひ買わせて戴きます!」


ぱこみ「わぁーい!本当ですか豪剛さん!ありがとうございまーす!愛は♪~ゴーゴー♪アニマル♪~♪ゴーゴー『ブッチンッ!』」


古田は、ぱこみのマイクの線を引きちぎった!


古田「さぁ~っ!私のボルテージも上がって参りましたぁーっ!睨み合う2人!互いのアドレナリンは毛細血管の隅々まで行き渡っているぞぉー!さぁ、どうする!どう動くつもりだぁー!」



リング上で睨み合うダットンとマックス・・・


ダットン「ゴングがならねぇなぁー・・・」


マックス「バカか!てめぇは、ここには俺達しかいねぇんだ!」


ダットン「ゴング無しで、どうやって始める?」


マックス「ん~・・・じゃんけんだな!じゃんけんの掛け声をゴング代わりにするか!」


ダットン「よし!分かった!」


2人揃って「じゃん!け~ん~・・・」



古田「おぉーっ!2人同時に振りかぶったぁーっ!いよいよ!始まるぞぉーっ!今、ここに!世紀の一戦の始まりだぁーっ!」




(終わり)







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