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眠くなる短編集  作者: 生丸八光


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18/18

悪役令嬢をぶっ飛ばせ

大きな屋敷に暮らす破産間近の3人家族の話。

 無駄に広い屋敷に暮らす3人家族。かつては優雅な生活、大勢のメイドに執事を(したが)え、(はな)やかに暮らしていたコルティナ家だったが、今では落ちぶれ、年老いた3人のメイドに腰の曲がった執事、先祖の財産を切り崩して生活していた・・


「お父様!パーティーに着るドレスが欲しいの、今から買いに行きたいけど時間ある?」

「時間はあるが、金が無いから無理!」

娘の誘いを即答で断り、新聞を読み出す父親のトム・・


「お金が無いって、どういう事?」


「どうって・・もう、この家には金がないって事だよ・・儲け話も上手くいかないし貯金も無い。別荘も持ってかれてドレスを買う処か、明日からの生活費も無くなった!」


「なっ!そんな状況で、よく呑気に新聞なんて読んでられるわね!お母様は、その事知ってるの?」

「言える訳ないだろ・・恐ろしい・・」


と、そこに妻のハンナが姿を見せる。


「あなた!ダイヤのネックレスが見当たらないの・・一緒に探して下さる?」

「おっ・おう・そうか・・一緒に探そう・・」


 おどおどしながら、ハンナの部屋に向かう父を心配そうに見送る娘のアンナ・・


「見つかるといいけど・・」


 1人部屋に残ったアンナは、溜め息交じりにソファーに腰掛け、鈴を『チーン!』と鳴らすと執事がヨタヨタと姿を現す・・


「いかがなされました?お嬢様」

「メイド達を集めて、大事な話があるの・・」


 (しばら)くして年老いた3人のメイドがノソノソ姿を現すと、アンナは深刻な面持ちで


「・・この家には、もうお金が無いみたいなの・・たぶん今月の給料も払えないと思う・・」

すると執事が

「そうですか・・(つい)に無くなりましたか・・」


「ごめんなさい・・お父様に代わって私から謝ります・・」

「お嬢様、どうか謝らないで下さい。我々の事は、お気になさらずに・・」

「でも、もう給料が払えないの・・せめて次の働き口でも紹介できればいいけど・・」


「我々の事は気にしなくて大丈夫です。それに、もう20年以上給金を戴いておりませんので・・」

「えっ、そうなの!・・何て(ひど)い・・」


アンナは(ひど)い扱いに言葉を失ったが、執事はニコやかに

「我々は先代のホメロ伯爵様から、一生分を越える給金を既に戴いておりますので、宜しいのですよ、お嬢様」


「お祖父(じい)様から・・」


 執事の言葉にホッと息を付くと、両親が戻って来る気配に慌てて

「お願い!この事は、お母様には内緒よ!」

「承知しました」


 ハンナが泣きそうな顔で部屋に入って来た・・


「無くなるなんて、あり得ないわ!ちゃんと締まってあったのに・・アンナ!私のネックレス見てない?」

「見てないわ」

「先週まで確かにあったのに・・」

ソファーに腰かけ(ふさ)ぎ込むハンナにトムは

「ハンナ・・無くなった物は、きっぱり諦めよう・・」

「そんなの無理!お父様から戴いたネックレスよ!ダイヤだし・・きっと高価だったに違いないわ!」

「ハンナ・・ダイヤモンドなんて物は、買った時は高かったかも知れんが、売るとなれば、せいぜい5、6万その位の価値しか無いんだよ・・そう思えば諦められるだろ?」


それを聞いた執事が

「旦那様、先代が奥様に送ったネックレスは、とても高価な物でございまして、ピンクダイヤで希少性も高く、売るにしても5千万は致します。みんなで手分けして探した方が宜しいかと・・」


「そ・そんなに高価なダイヤだったのか?」

「はい」

「そ・そうか・・」

トムは、オロオロ落ち着かない様子を見せたかと思ったら、急に何か思い出したのか

「あっ!しまった!約束があったのを忘れてた!」

と大声を上げ、大急ぎで上着と帽子を手に取ると

「ワシは、人と会う約束があって行かねばならん!お前達はネックレスを探しててくれ!なにせ広い屋敷だからな、探す所は山程あるぞ、時間を掛けて隈無(くまな)く探すんだ!いいな!」

と言って、アタフタしながら出て行ってしまった・・


『お父様、相当焦ってたわね・・』

アンナは、出掛けた理由が分かった気がした・・

「さぁーて!何処(どこ)から探しますかな!」

腕捲りする執事にアンナは

「探すだけ無駄よ!ネックレスが自分で動ける訳ないし、お母様の部屋に無ければ、もう無いのよ・・」


「でしょうな・・」

溜め息まじりに執事が応えるとハンナが

「私、もう一度探して見る!」

自分の部屋へ走って行った・・



「お父様にも困ったモノね・・きっと、安く手放したのよ・・」

 ソファーに体を預け、やるせない気持ちで天井を見上げた・・するとメイドの1人が

(ぼっ)ちゃまは、いい加減だから・・」

と呟く・・


「コレ!旦那様をそんな(ふう)に言ってはいかん!」

執事が注意したがアンナは

「いいのよ!お父様が赤ん坊の時から見て来たんだし、ホントにいい加減な人だから、そんな事より先の事を考えないと・・」


 腕を組み、考え込むアンナにメイドは

「残念ですが、お嬢様・・先は見えております。この屋敷を売ってアパート住まいになるかと・・坊っちゃまが安いアパートの物件を探しておられましたので・・」


「それ本当なの!」


驚くアンナに3人のメイドが揃って頷く・・


「あぁ・・お父様・・」


 アンナは思わず天を仰いだが直ぐに

「アパート住まいなんてダメ!私が何とかしなきゃ!」


 長い髪をなびかせ勢いよく立ち上がると、執事とメイドを見て

「あなた達も力を貸してもらえる!」


「もちろんでございます。お嬢様!」


 執事と3人のメイドは、アンナの勇ましい眼差(まなざ)しに、先代のホメロ伯爵を思い出させ、懐かしむ様にアンナを見上げた・・


 暫く何をすべきか考えていたアンナだったが、何も思い付かなかったようで、『ドサッ』っとソファーに腰掛け、頭を抱える・・


「ダメだわ!何をすればいいのか、さっぱり分からない・・」

すると執事が

「取り敢えず、旦那様のお金の使いみちを私共で調べましょうか?」

「出来るの?そんな事が・・」


「お任せください。伊達に長く使えて来た訳じゃございませんので」

と言うとメイドに向かって


「ビクトリアとマーガレットは不動産屋のデルモンテ氏、エリザベスは税理士のマンセル、それぞれ屋敷に使えるメイドから旦那様に関する情報を聞き出して来るんだ!私は銀行家のカルロ氏を当たってみる!」


(いさ)ましく言い

「これでよろしいでしょうか?お嬢様」

と頭を下げた・・


「え、えぇ・・いいと思うけど・・それより、ビクトリアとマーガレットにエリザベスって、あなた達ずいぶんゴージャスな名前なのね・・知らなかったわ・・」


「先代の旦那様が名付けて下さったのですよ」

執事がニコやかに応えるとアンナは

「あなたも付けてもらってるの?」

興味深そうに尋ねる・・


「私の名前は、アレキサンダー・ロドリゲスです!」

執事は、曲がった腰をふんぞり返して名乗った・・


「何だか・・強そうな名前ね・・」

「若い頃は、この名前で周りの者を退(しりぞ)かせ、ブイブイ言わせたモノでしたよ!ワハハハッ!」

「そ・そうなの・・あなたにも若い時があったのね・・」

アンナには、目の前にいるヨボヨボの執事に若い頃があったと想像も出来なかった・・


 出掛け支度を済ませたメイド達が派手な服装で姿を現し、アンナが目を丸くしていると、そこに父親のトムが帰って来る・・(うつ)ろな目で横切って行くのを見てアンナは

「お父様、ダイヤのネックレスは取り戻せたの?」

と聞いて見た・・


「ダメだった・・あの娘には騙されたよ・・」

ボソッと応える・・

「あの娘って、どの娘?」

更にアンナが尋ねるとトムは我に返ったのか

「えっ?・・あ・・いや、何でもない・・」

そそくさと自分の部屋へ行ってしまった・・


「ったく・・」

呆れて溜め息を付くアンナに執事は

「では、我々は行って参ります」

メイド達と出掛けて行く・・



 広い屋敷には3人だけ、父親のトムはボーッと天井を見上げて煙草を吹かし、母親のハンナはタンスの中身を全てぶちまけネックレスを探す・・アンナは明かりの消えた部屋でソファーに腰掛け、溜め息を漏らして横になると、そのまま夢の中へと沈んで行った・・




 ・・アンナはドレス姿でパーティー会場に来ていた・・赤い絨毯の敷かれた大きな螺旋(らせん)階段を上がると、(きら)めくシャンデリアの下に大勢の人が、華やかなドレス姿でグラスを片手にニコやかに話していて、アンナがテーブルのシャンパングラスを1つ手に取ると


「アンナ!」


 呼び掛けたのは親友のソフィアだった・・手招きしてアンナを呼び寄せる・・


「アンナ、遅かったじゃない!何してたの?」

「うん、ちょっとドレスに迷ってて・・」

「そう言えば、新しいドレスを買うって言ってたわね・・このドレス?」

「ううん違うわ・・ドレスは買えなかったの・・」


「どうして?」

「お父様が、もう家にはお金が無いからドレスは買えないって、屋敷も手放す事になるかも・・」

「ほ、本当なの・・パーティーに来てる場合じゃ・・」


 ソフィアが心配の眼差しを向けると、アンナはグラスのシャンパンを一気に飲み干し

「いいの!今日はパーティーを楽しみましょ!」

ニコやかに笑って魅せた・・



「え~・あ~・・本日は、伯爵令嬢エレーナ様の誕生パーティーにお越しいただき誠にありがとうございます・・」


 会場にアナウンスが流れ、2人はステージに目を向ける・・


「これよりエレーナ嬢から、皆様に挨拶がございます。どうか盛大な拍手でお迎え下さい!」


 満場の拍手の中、真っ赤なドレスに宝石がちりばめられた豪華なエレーナの登場で、歓声が沸き上がり、ソフィアはうっとり憧れの眼差しを向ける・・


「見てアンナ・・なんて素敵なドレスなの!」

 スタイルの良さを強調した胸元のザックリ開いたドレスに顔を赤らめたアンナだったが、エレーナの胸元にハッとした!見た事のあるネックレス・・


『お母様のネックレスだわ!』


「今日は、私の23歳の誕生パーティーよ!朝まで思う存分楽しんで!」


 エレーナの合図で会場が暗転、爆音のクラブミュージックにカラフルなレーザー光線が動き回り、DJが一気に会場を盛り上げ踊る中で、アンナは突っ立ったまま考え込んでいた・・


『なぜ先輩が、お母様のネックレスを・・』


 エレーナは、この辺りで1番の大金持ちで権力者の娘、好き放題のヤりたい放題で逆らう者もなく、機嫌を伺う者ばかりだった・・

 

「アンナ!挨拶しに行きましょ!」

ソフィアが先輩の所へ行きたくてウズウズしているようで、一緒に行く事にした・・


 エレーナは、挨拶に来た人達に囲まれニコやかに微笑んでいて、ソフィアとアンナが割って入ると2人で声を揃え


「エレーナ先輩!お誕生日おめでとうございます!」

と挨拶するとソフィアは更に

「先輩のドレス凄く素敵です!」

「ありがとう、ソフィア」

笑顔を見せるエレーナにアンナは

「ネックレスも凄く豪華で素敵!でも・・私のお母様が持ってたのとソックリなのよね・・」

すると、エレーナの目が『キッ!』とキツくなり

「何それ、どういう意味?」

睨み付けると、アンナも負けじと睨み返し

「お母様が無くなったって悲しんでるの・・なぜ先輩が持ってるのか教えてもらえます?」


 エレーナは何も応えずアンナを睨み付け、2人の睨み合いに周りがザワめき出すとソフィアもドギマギして

「ア・アンナ・・謝った方がいい、あなたの勘違いだから、お母様のネックレスと似てるだけだよ・・」

「ソフィアは黙ってて、勘違いじゃないから!」

「でも・・」

 

 ソフィアが恐る恐るエレーナの顔を見ると余裕の笑みを浮かべ


「確かに、このネックレスは貴方のお母様の物よ!だけど私を泥棒呼ばわりとは、いい度胸ね・・」

「泥棒だとは言ってない!でも、お父様を騙して手に入れたんでしょ!」


「騙す・・詐欺とでも言いたいワケね・・」

「そうよ!」


 アンナの強気な態度でエレーナの闘志に火が付いたのか

「分かったわ!貴方に事の経緯を話しても納得しないでしょうから、返して欲しいのなら力付くで取り戻すってのは、どうかしら?」

「いい考えだわ!」


 アンナが即答で応えると、エレーナは執事にリングを設置するよう指示を出し、あっという間に四角いリングが完成した。


「私の誕生日に丁度いい余興だわ!」

 ドレス姿にグローブをはめたエレーナがご機嫌な笑みを見せると、ソフィアはブルブルっと身を震わせ


「アンナ・・まだ間に合う・・先輩に謝りましょ・・」

「何言ってるのよ!ブッ倒してネックレスを取り返すんだから!」


 アンナは、やる気満々でリングに上がり、パンチを振り回してウォーミングアップを始めると、ソフィアが(あわ)ててセコンドに飛び乗る!


「本気で勝てると思ってるの!先輩はキックボクシングの世界チャンピオンなのよ!」


「えっ!世界チャンピオンなの・・で、私は何?」


「あなたは、ただの文科系女子でしょ!」

「って事は?」


「多分・・死んじゃう・・」

「死んじゃうの~・・って死んでなるものですか!見ててソフィア!私、全然負ける気しないから!先輩をブッ倒してみせる!」

「なぜ強気になれるのよ~」


 アンナの闘志を感じたのか、リングの周りに大勢の人が集まり、盛り上がって来ると


「さぁー、お二方!準備はよろしいですかな!そろそろ始めますよ!」

マイクを手にした執事がリングに飛び乗った。


「これよりエレーナ穣の誕生日を祝いまして、エキシビションマッチを開催致します!なお、この試合の勝者には、ピンクダイヤのネックレスが贈呈されます!」

と言ってネックレスを掲げると、観客から歓声が上がり、アンナは更に闘志を燃やす!


「まずは赤コーナーより、158センチ59.4キログラム~、文科系女子チャンピオ~ン!アンナ~コルティ~ナ~!」


 アンナは右手を突き上げて前に出ると、クルッと髪をなびかせターンしてファイティングポーズを決めた!・・が

『なぜ私の体重を知ってるの・・って言うか、文科系女子チャンピオンって何?』


「対するは、青コーナー160センチ57.3キログラム~、キックボクシング無敗の世界王者~!エレーナ~クレシャ~ス~!」


 エレーナが両手を上げ、リングを一周して中央に立ち、アンナに向けて喉をカッ切る仕草をすると、ブチキレたアンナが突進!執事が慌てて興奮する2人を制し、リングアナからレフリーに早変わりすると


「いいですかルールは、1ラウンド3分。目(つぶ)し反則何でもあり!負けを認めるかノックアウトするまですよ!」


『目潰し反則何でもありって、どう言う事よ・・』

とアンナが考えている間にゴングが鳴り、エレーナの出した右ストレートがアンナの顔面を(とら)えた!


 エレーナは続けて何発もパンチを繰り出し、全てがヒット!初っぱなからサンドバッグ状態のアンナだったが


『痛くない・・全然痛くないわ!』


余裕で微笑んでいる・・それを見てエレーナは強烈なキックを顔面にぶち込んだ!

「カーン!」

 1ラウンド目が終了してコーナーポストに向かう両者・・エレーナは攻め疲れたのか肩で息を付きながら戻って行き、アンナは一方的に殴られたのに余裕でコーナーに戻ると、待ってたソフィアが血相を変えて


「アンナ!大丈夫なの!」

「えぇ!余裕、余裕!全然()いてないから!」

「本当に大丈夫・・顔はボコボコだし、鼻だって曲がってるわよ・・」

アンナの顔はボコボコに腫れ上がっていたが笑顔で

「平気、平気!痛くないし!」


「カーン!」

 インターバルが終わり、再び闘いに向かったアンナだったが、また滅多打ちに合っていた・・


『何なのよ!この女・・殴られても、殴られても笑って・・気持ち悪い・・』


 エレーナは不安から恐怖が沸き上がり、恐怖心から逃れようと更に激しく攻めまくる・・


「ボキッ!」

エレーナの強烈なローキックがアンナの右膝をへし折ったが、へらへらするアンナ・・

「ボキッ!」

もう一方の膝を折っても、倒れないで笑ってた・・


「カーン!」

 2ラウンド目が終わり、両足が折れてもヒョコヒョコ歩いてコーナーポストに向かうアンナを見てエレーナは

『こ・怖い・・』

観客もアンナに恐怖を感じ、静まり返っていた・・


「アンナ!もう止めましょ!これ以上やったら本当に死んじゃうわ!」

ソフィアの心配をよそにアンナは


「大丈夫だって!全然痛くないから!」

「そんなわけないでしょ!脳がやられてるのよ・・お願いだから、もう止めて!勝てっこないわ・・」


「何言ってんのソフィア!私が勝つに決まってるでしょ!ってか、勝てる気しかしないの!」

「その自信どっから湧いてくるのよ!あぁ・・完全に脳がやられてる・・」


 ゴングが鳴るとアンナはリング中央へ向かい、そこで待ち受けるエレーナの顔が恐怖で引きつっていた・・


『何・・何なのよ・・なぜ両足が折れてるのに歩けるの・・』


 ボコボコに腫れ上がった顔に、薄ら笑いを浮かべるアンナが目の前に来ると、恐怖から全力で攻撃し、それを食らい続けるアンナ・・

『弱い・弱すぎる・・けど倒れない・・怖い・・』

無我夢中になって猛攻撃を繰り出す!


「バコッ!」

 エレーナの真空飛び膝蹴りがアンナの顔面に突き刺さった!エレーナの必殺技、この技で世界の強敵を次々と倒し、チャンピオンまで上り詰めたと言ってもいいのだが・・まさか素人相手に出そうとは思ってなかった・・恐怖に()られ、つい出てしまったのだ・・

 

 アンナの頭が、だらりと垂れ下がり長い髪が床に付いている・・首の骨が折れたのだ。それでもアンナは前に出る!ヒョコヒョコと歩き、首をブラブラさせ不気味な笑顔でエレーナに近付いて行く・・


『こ、怖すぎる・・ゾンビなの・・』


 ホラー映画の苦手なエレーナ・・オカルトな状況に恐怖で後ずさりすると、すぐにコーナーポストに追い詰められ、恐怖から負けを認め降参しようとしたが、声が出ない・・目の前には、薄ら笑いを浮かべたアンナが右手を大きく振り上げていた!


「やっと、私の番が来たわ!ブッ飛ばしてやるから!」


 アンナは渾身の一撃を振り下ろし、エレーナの顔面を捉える瞬間、目の前が真っ暗に・・暗闇に目を凝らすとソファーの上に横になっているのが分かった・・


『夢・・』

夢から覚めたアンナは

『変な夢・・けど、あと少し見てたかったわ・・いい所だったのに・・』

溜め息を漏らす・・



 アンナがソファーから起き上がると、丁度メイドのビクトリアとマーガレットがデルモンテ氏の屋敷から戻って来た所だった・・


「お帰り!どう?何か分かった?」

「はい、お嬢様。いろいろと分かりましたよ・・」

ビクトリアがそう言うと、アンナは2人に椅子に座るよう進め、ゆっくりと腰掛ける・・

「よっこいしょっと・・」


「それで、何が分かったの?」

「坊っちゃまが、何にお金を使ったかです・・」

アンナが一番知りたかった事だった。


「何に使ったの?」


(きん)の採掘ですよ・・」

「金って、またどうして!」

「坊っちゃまが所有している(となり)の山で、金が採掘されたのを聞いて自分の山でも金が採れると思ったんでしょう・・採掘する事にしたんです・・」


「それで金が出なかったって事か・・」

アンナが溜め息を付くとマーガレットが


「まだ出ないと決まった訳じゃないんですよ、お嬢様。」

「え?出るの・・」

「さぁ、そこは何とも・・ただ坊っちゃまは出ると信じているようで、あちこちで借金をし、今も採掘を続けてますから・・」

「あちこちから借金して、今も・・」

「はい・・」


 アンナは腕組みして考え込むと2人のメイドに


「つまり・・お父様は、この採掘に人生を賭けてるって訳ね・・」

と聞いても、ビクトリアとマーガレットは首を傾げる・・しかしアンナは、父親が金の採掘に全てを賭けてるとしたら、娘として応援すべきだと思った・・たとえアパート住まいになろうとも・・そう決心した時、エリザベスが帰って来る。


 エリザベスは疲れたのか、溜め息を付きながら椅子に腰掛け

「ただいま帰りましたよ、お嬢様・・」

「ご苦労様・・疲れたでしょう。ゆっくり休んで・・」

「いえ、私はこの程度では疲れたりしませんので・・」

「そ、そうなの」

実際、エリザベスはメイド達の中で一番若く、体も丈夫で疲れていなかったが

「まったく・・坊っちゃまには困ったもんです・・」

と言って、もう一度大きく溜め息を付いた・・


「いったい、どうしたの?」

「坊っちゃまは、金の採掘をしてるんですよ・・」

エリザベスが(あき)れた口調で言うと

「そう見たいね・・でも私は、それが悪い事だとは思わないの、所有している隣の山で金が採れ、お父様も感化されたんだと思う・・」


「坊っちゃまは、感化されやすいから・・」

ビクトリアが(つぶ)くとマーガレットも続いて

「ろくに調べず飛び付いて、失敗ばかり・・」

と言うと、エリザベスが(うなづ)きながら

「隣の山で金が採掘された話も、実際に採れたのは極微量で採掘を中止したって言うのに、坊っちゃまは周りが止めるのも聞かずに、借金して採掘し続けてる・・何を考えているのやら・・」


 3人のメイドが(そろ)って溜め息を付くと、アンナも溜め息を漏らし、沈黙した所に執事が帰って来る。


「おや、もう皆さんお揃いでしたか・・」


 執事は、メイド達から知り得た情報を聞くと

「まぁ、私も大体そんな所ですな・・あと付け加えるとすれば、今月末までに金鉱石が出なければ銀行からの融資が止まり、この屋敷を出なければならないって事ですかな・・」


「今月末って、あと10日後じゃない!」

アンナは焦りで声を荒げ

「もう!お父様は、なぜ何も言ってくれないの!」

しばらく苛立った様子だったが、気を落ち着かせて


「お母様のネックレスは、何処に行ったのか分からなかったの?」

と尋ね、執事もメイド達も首を横に振ると、鼻から一息付いて

「やっぱり、本人に直接聞くしかないか・・」


 


 執事に呼ばれ父親のトムが部屋に入って来る・・


「どうしたアンナ!話があるって、金なら無いぞ!」

「知ってるわよ!話しがあるの!でも、その前に・・お父様の方から私に話したい事が、あるんじゃないの?」


「ん?ワシは何もないぞ」


 アンナは父親の(とぼ)けた態度にムッっと来たが、グッと(こら)えて

「金の採掘をしてるそうね・・借金までして・・おかげで10日後には、この屋敷を出て行く事になるかも・・でしょ?」

「おぉ、その事か!その事なら、その(うち)言おうと思っとったんじゃ!」


「その内って、あと10日しか無いじゃない!」

「まだ10日じゃ!10日もあれば(きん)が採れとるじゃろ!」


「採れるの!金が・・」

「採れるに決まっとる!だから掘っとるんじゃ!」


 トムの自信のある態度を見ても、不安しか感じないアンナ・・


「なぜ、そんなに自信がある訳?」


祖父(じい)さんが言っとったんじゃよ!お前にとっては、ひい祖父さんに当たるかのぅ・・」

そう言って遠くを見つめると

「あれは、まだワシが6歳位じゃったなぁ・・『トム!今日は、お前の為に山を買って来てやったぞ!この山は、金の採れる山じゃ!将来、(かね)に困った時は、この山から金を掘り出すんじゃぞ!』と言って、ワシを抱き上げ笑っておった・・ワシは、その事をすっかり忘れておったが、隣の山で金が採れたのを聞いて思い出したんじゃ!」


「ひいお祖父様が・・」


アンナに(かす)かな希望が沸いて来ると執事が


「アラン伯爵ですな!アラン伯爵様は、湯水のようにお金を使うお方で、旦那様をとても可愛いがっておられましたなぁ・・」


 当時の豪快で華やいだ時代を懐かしんでいる執事につられ、3人のメイドも若かりし頃を思い出すと、執事は()()みとトムを見つめ


「血は争えませんな・・旦那様はアラン伯爵様に、そっくりでございます・・」

メイド達も揃って頷くとアンナから希望が消えたのか溜め息を漏らす


「はぁ・・金の採掘には納得するしかないけど、お母様のネックレスを誰に渡したの?まさかエレーナ・クレシャスじゃないでしょうね・・」


「なっ、なぜ分かった!」


「勘よ・・何となく分かったの・・」

アンナは夢と一緒で内心ビックリしたが、平静を装い


「なぜ勝手にそんな事したの・・話してくれるわね・・」


 トムは、ハンナに内緒にするよう釘をさすと


「借金の返済じゃよ・・エレーナの父親にネックレスで返済しようとしたんじゃが、断られたんでエレーナに買ってもらったんじゃ・・」

「いくらで売ったの?」

「5万円」

「ご、5万って!お母様が大事にしているダイヤのネックレスを、たった5万で売ったの!」

「仕方ないじゃろ!高価って知らなかったし・・そのあと、もっと払って貰おうとしたんじゃが・・ケチな娘じゃ・・」

「お父様がバカなのよ・・」


 娘の一言が胸にグサッと突き刺さったトムはショボくれ

「ワ・ワシは・・騙されたんじゃよ・・」

「バカだから騙されるの!」

「バカって、親に向かって!」

ムッっと来てアンナを睨み付けたが


「バカよ!どうするのよ!明日から私達どうなるの?もう、お金がないんでしょ!」

アンナの切羽詰まった不安な様子に、トムは冷静になって考え


「金はないし、どうしていいかも分からん!誰か金を貸してくれる人を知らんか?」


「・・だからバカって言ってるの!」


「旦那様・・」

見かねた執事が助け船を出す

「お金が入り用でしたら、私がお貸ししましょうか?」


「おぉ!そうか、貸してくれるか!」

「お父様、冗談はよして!使用人から借金する主人が何処(どこ)にいるのよ!給料も払ってないのに・・」

「細かい事を気にするな!執事が貸してくれると言っとるんじゃ!」


とそこに、妻のハンナが戻って来た!

「ダメよ・・」

ハンナは探し疲れたのか

「どれだけ探しても見つからない・・」 

と言ってソファーにもたれ掛かかる・・


 アンナが父親を睨み付けると、トムはハンナの(そば)に寄り添い

「ハンナ・・これだけ探して見つからないんじゃから(あきら)めろ・・諦めて忘れてしまえば、その内ひょっこり出て来るってモンじゃぞ!」


 そんな言葉で諦める分けがない・・アンナも分かっていたが

「まぁ・・その考えは、一理あるかもね・・無駄に探さずに済むから・・」

と言った・・


 その後もハンナは出てくるハズのないネックレスを毎日探す・・この家に金が無い事も、執事から借金して生活してる事も知らずに・・



 トムは、金が採掘されるのを信じているのか、相変わらず呑気に暮らしていたが、月末まであと2日と迫っていた・・アンナは焦りと不安から新しいドレスを買える(はず)もなく、パーティー当日になってドレスを選んでいた・・


「このドレスは色褪せてみっともないし、こっちはボロボロ・・はぁ・・やっぱり、お母様から借りるしかないか・・」


 母親のパーティードレスの中から気に入ったを選んで着るとハンナが

「ドレスはこれでいいとしても、胸元がちょっと寂しいわね・・ネックレスがあれば良かったのに・・」

悲しげに呟く・・

「ドレスが着れれば十分よ!」

アンナはそう言って玄関に向かう・・


「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」

執事が見送りに来ると

「今日は、お父様を見掛けてないけど、どこか出掛けてるの?」

「はい。旦那様は今朝早くからゴルフにお出になられました。」


「はぁ・・」

溜め息交じりにゴルフクラブが置いてある棚に目を向けると、クラブが1本残っていた・・


「お父様・・クラブを1本忘れたみたい・・」

「いいえ、旦那様は昨日新しいパターをお買いになられまして、古いのは要らないと置いて行かれたのですよ!」

「えっ!新しいパター買ったの!」

「はい。良いのが手に入って、大変喜んでおられました!」


「ったく!お父様ったら、何考えてるのよ・・」

古いパターを見つめ、ぶつぶつ文句を呟いていた・・




 ・・パーティー会場に来たアンナは、赤い絨毯の大きな螺旋階段を上り、(きら)めくシャンデリアを見て


『やっぱり・・夢で見た景色と同じだわ・・予知夢だったの?・・』


 アンナはソフィアに呼ばれ、シャンパンを一気に飲み干し、壇上に立つエレーナの胸元に光るピンクダイヤを睨み付ける!


 ソフィアに連れられエレーナに挨拶し、睨み合いからリングに上がったアンナの目には、闘志が(みなぎ)っていた・・


「1ラウンド3分!目潰し、反則何でもあり!負けを認めるかノックアウトされるまでですよ!」


 ゴングと同時に放ったエレーナの右ストレートが空を切ると、アンナは勝ち誇った笑みを浮かべ、背中からゴルフクラブを抜き取り大きく振り上げる!


「ブッ飛ばしてやるから!」

エレーナの右膝めがけ、思いっきり振り下ろした!


「バキッ!」


 鈍い音と共にエレーナの(うめ)き声が響き渡り、倒れ込んだエレーナ・・


「大丈夫ですか!エレーナ様!」

慌て執事が駆け寄ると、エレーナは痛みに顔を歪め


「ゴ・・ゴルフクラブで殴るなんて・・おもいっきり反則でしょ・・」


「し、しかし・・」

執事は困り顔で

「目潰し、反則何でもありってルールですから・・エレーナ様が、そうしろっておっしゃったんですよ・・」


 エレーナは痛みで立ち上がれず、渋々負けを認めると、アンナはネックレスを受け取り、ゴルフクラブを担いで悠々と帰って行く・・


『これで、お母様もネックレスを探さずに済む・・』


 母親の喜ぶ顔を想像しながら、軽い足取りで屋敷に向かうと、(すす)で全身真っ黒に汚れた大男が大息を付きアンナの横を駆け抜けて、屋敷の門の中に入って行った・・


『何事?』


 ただ事でない様子を感じたアンナが走って屋敷に行くと、大男は扉を『ドン!ドン!』と叩きながら大声で


「旦那!トムの旦那!」


 父親の名を叫び、慌てた様子・・アンナはゴルフクラブを握りしめ


「何?あなたどうしたの?大声で!」


「トムの旦那を呼んで下さい!」

真っ黒な顔で迫って来る!


「ちょっと、それ以上近付かないで!お父様は、ゴルフで不在よ!」


クラブを突き付けると、男は足を止め


「では、お嬢さん!直ぐにお父様に知らせて下さい!遂に金鉱石が出たんです!質の高いのが大量に!」


「ほっ本当なの!」

「本当ですとも!私は、少しでも早くトムの旦那に知らせたくて、大急ぎで来たんですから!これで、あなた達は大金持ちですよ!」


「本当に!凄い!凄いわ!」


 アンナは、余りの嬉しさに思わずゴルフクラブを投げ出し、真っ黒男に抱き付いた!

「やったぁー!やったわぁー!」

飛び跳ね喜んでいると、執事が扉を開け顔を覗かせる・・


「お・お嬢様~っ!」


 執事は目の前で、顔とドレスを黒く(よご)したアンナが、真っ黒な大男と抱き合い喜んでいる姿に、思わず腰を抜かし


「い・いったい・・どうなさったのです・・」

(すす)汚れた顔で満面の笑みを向けたアンナが

「山から金鉱石が出たの!」 

弾むような声で言うと、執事も一気に笑顔になり

「おぉ!そうでしたか!それは本当に、ようございました!これで屋敷を出ずに済みますな!」


「そうね・・」


 天を仰ぎ、染み染みと喜びを噛みしめるアンナに執事もホッと息を付き

「ゴルフ場に使いの者を出し、早く旦那様にも、お知らせしましょう!」

「そうね!お父様も大喜びするわ!早く・・いや・・ちょっと待って・・」


 アンナは何か思い付いたのか、悪戯(いたずら)な笑みを見せ・・

「お父様には知らせずにいましょう・・」

「はて?それはまた、どうして・・」


執事も真っ黒大男も不思議な顔でアンナを見る・・


「お父様には、少し反省して貰うわ・・勝手な事ばかりして来たんだから・・」

それを聞いて執事も乗り気になって微笑み

「お嬢様も中々の(わる)になられましたな・・」

「フフフッ・・私の悪役令嬢っぷりを見せてあげるわ!」


 アンナは、金鉱石が出た事を銀行だけに知らせるよう執事に言い、3日間は秘密にする事にした・・真っ黒大男にも秘密にするよう釘を刺し、戻って作業を続けるように言った・・



 執事は、やんわりと立ち上がるとアンナにハンカチを差し出し

「すぐ風呂の支度をさせますので」

と言ってゴルフクラブを拾い屋敷の中へ、アンナも汚れを拭きながら中に入ると母親がビックリ仰天!

「アンナ!どうしたの!」

「ん?ちょっとね!」

汚れた顔でニッコリ微笑んだ

「ちょっとじゃないわ!パーティーで何かあったの?」

「ん~・・良い事があったわ!」

「どんな良い事でも、そんなに汚れたら台無しよ・・ドレスもダメにして・・」


 ハンナが汚れたドレスを悲しげに見つめると、アンナは()ました顔でポケットからネックレスを取り出し、ハンナの目の前にぶら下げる。


「えっ!ネックレス・・見付けたの!」

「うん!ドレスのポケットに入ってた!」

「本当に!」

 ハンナは余りの嬉しさに思わず飛び上がり、アンナを抱き締めた!


「よかったー!よかったわー!」

「ちょっと、お母様・・服が汚れるわよ!」

「そんなの気にしないわ!だって、こんなに嬉しいんですもの!」

 余りの嬉しさに汚れを気にせず喜ぶ母親の姿にアンナも嬉しくなって、顔の(すす)(こす)り付けて喜んでいた・・


 

 アンナが風呂から上がると丁度、父親のトムがゴルフから帰って来る。トムはゴルフの調子が良かったのか機嫌良く執事と話していた。

「いや~!パットが良くて絶好調だったわい!」

「それはそれは、新しいクラブを買って正解でございましたな!」

「そうじゃな!ワハハハハハッ!」

ふんぞり返ってソファーに座ると、アンナが隣にドサッと座り込んで来る!

「ずいぶん楽しそうね!」


「ま・まぁな・・」

アンナの不適な笑みを見て萎縮するトム・・


「明日で屋敷を追い出されるのに楽しくゴルフだなんて・・もしかして、お父様にだけ(きん)が出た知らせでも届いた?」

「いや・・届いてないが・・」

「そう・・なら、何故そんなに笑っていられる訳?投げやりになってるの・・」

 アンナは、冷徹な視線で父親を見つめた・・


「そ・それは・・ワシがバカだからかも・・」

「アハハハッ!」

 オドオドと応えた父親が面白かったのかアンナが高笑いすると、風呂から上がり上機嫌のハンナが姿を見せる。


「どうしたのアンナ?大きな声で・・」


「お父様の冗談が面白かったの!」

「そう!」

と言ってトムに

「ねぇ、あなた!出て来たの!ネックレスが見つかったのよ!」

満面の笑顔を見せた!


「そ・そんなバカな・・いったい何処(どこ)から?・・」

「アンナが見付けたの!ドレスのポケットから・・きっと、いろいろ撒き散らしてる内に紛れ込んだのね・・」


 トムが(いぶか)しげな顔でアンナを見ると、アンナはトムの耳元に近づき小声で

『私がエレーナから取り戻してやったわ!ゴルフクラブでぶん殴ってね!』

と言って、また高笑いするとトムは背中に寒気を感じながら、ぎこちない笑顔を見せ

「そ・そうか・・」


 3人それぞれ違う笑顔で笑っているのを見て執事は、思わずプッっと吹き出していた・・



 一夜開け、遂に月末が来た。トムにとっては、今日中に(きん)が出なければ破産すると言う追い込まれた状態で、朝からソワソワ落ち着かず食欲も()かない・・一方何も知らないハンナは昨日からの上機嫌で笑顔を見せ

「あら、あなたが朝食を食べないなんて珍しいわ・・何処か具合でも悪いの?」

「ちょっと・・胃の調子がな・・」

浮かない顔を見せる・・

「心配だわ・・何か消化に良い物でも作ってもらいましょうよ」

「いや、いらない・・明日にはスッキリしてるさ・・」

と言って立ち上がり、自分の書斎にトボトボ歩いて行く・・


 アンナは、そんな様子を満足するように目で追い

『よし、よし!少しは反省してきたようね・・』


 トムは昼食も食べず、夜になっても書斎に籠ったまま・・ハンナが心配して声を掛けるが、トムは「いらない・・」の一言だけで、顔も見せなかった・・


「どうしたのかしら・・こんな事、初めてよ・・朝から何も食べ無いなんて・・」

心配から不安になるハンナ・・

「大丈夫よ、お母様。明日になれば良くなるわ!」

と余り気に掛けてない素振りを見せるアンナだが、内心では・・

『ククククッ・・明日、お父様がどんな顔するのか楽しみだわ・・』

ほくそ笑んでいた・・



 翌朝早朝・・一発の銃声が屋敷中に響き渡る・・


「今のは・・何?」


 ベッドの上で眠気まなこを擦るアンナ・・おもむろに起き上がろうとした時「ギャァ~ッ!」鬼気迫る悲鳴に飛び起きた!


『お父様の書斎・・まさか・・』


 悲鳴がした方へ走り、父の書斎に近付くにつれ悪い予感に鼓動が高まる・・


 書斎の扉は開いていて、勢いのままに飛び込むと、真っ先に見えたのは床に項垂(うなだ)れた母親が(むせ)び泣く姿だった・・

「あなた・あなた~・・う・うっうわぁ~・・」

直ぐ傍には、父親がうつ伏せで倒れ、床には血が・・メイド達は茫然と立ち尽くして2人を見守っていた・・


「お父様・・」

 アンナは、ゆっくり父親の元へ足を進めたが、途中で力無く床にへたり込む・・


「朝から何の騒ぎです・・」

遅れて執事が姿を見せると血を流し倒れているトムを目にして

「だ・旦那様~!」

仰天して腰を抜かし、四つん這いでトムの元へ駆け寄る!


「な、なんと早まった事を・・あぁ・旦那様~・・」

執事は床にひれ伏し悲嘆に暮れ、アンナは

「私が悪いのよ・・」

涙を流す・・


 悲しみ溢れるトムの書斎は、絶望の淵から奈落の底へ、救いようのない重い空気に耐えれなくなったメイドのマーガレット・・


「そろそろ、よろしいのでは・・」

ボソッと呟く・・


 ハンナはショックで放心状態になっていた・・アンナは、いたずら心とは言え父親を追い込んだ罪の意識から後悔しきれない涙を流し、執事は主人を裏切ってしまった自責の念・・


「目を覚まして下され・・坊っちゃま・・」

 ビクトリアがトムに手を掛け()り起こすが、何の反応もない・・

「坊っちゃま!冗談はその位で起きて下され!」

激しく背中を揺さぶるとアンナが


「お願い・・そっとしといてあげて・・もう死んでるの・・」

死んだ事を受け入れないメイドの気持ちに、より悲しみが増す・・


「お嬢様・・坊っちゃまは、死んだ振りをしてるだけなんですよ・・坊っちゃまが自殺なんてする訳がない!私らは、分かってるんです・・」


と言うと、アンナは静かに溜め息を漏らし目を閉じた・・するとエリザベスが

「そうですよ、お嬢様。坊っちゃまは、山から金が出た事を知ってるんですから・・」


その言葉で、アンナの目がパッと開く!

「なぜ知ってるの?」


 エリザベスは、トムをチラッと見てからアンナに視線を移し


「私は2日前、お嬢様と真っ黒な男が玄関先で喜んでいるのを見掛け、木の影から様子を(うかが)ってたんです・・(きん)が出た事を坊っちゃまには内緒にすると話していて、私も坊っちゃまに内緒にしてたんですが・・昨夜、大好物のハンバーグを持って行っても食べずに塞ぎ込んでいたのを見て、元気を出して貰おうと話したんです・・」


 アンナは話を聞きながらトムを見ていると、生きてる気がしてきた・・涙を拭くと執事に


「ゴルフクラブを1本持って来て!」

「承知しました!」

執事が(すみ)やかに持って来るとトムが慌てて立ち上がる!

「ガハハハハッ!」

 豪快に笑って見せると、アンナと執事が冷たい視線を向け、放心状態だったハンナが正気を取り出す!


「えっ?えっ!あ・あなた!生きてるの!」

驚きに涙をちょちょ切らせるハンナに

「ガハハッ!上手く引っ掛かったわい!」

大喜びするトム。


「もう!悪い冗談だわ!なぜ、こんなマネするのよ!」


(いきどお)るハンナにトムは晴れやかな笑顔を見せ

「お祝いじゃ!ワシの山から金が採れてな!ワシ等は大金持ちになったんじゃよ!」

「本当に!でも死んだ振りする必要あった?」

トムは、アンナと執事をニヤニヤ見詰め

「金持ちになったら、欲しい物は何でも手に入る・・金じゃ手に入らない幸せがあるって事を教えたかったんじゃよ!」


「そっか・・」

ハンナはトムを見つめ

「私は、あなたが居るだけで幸せ・・生きてて本当に良かった・・」

と染み染み言ったのを見て、アンナは言葉を飲み込み・・そんな様子に執事も微笑んだが・・


『それにしても旦那様は、いつから銃を・・』


しばらく考えると・・


『そう言う事でしたか・・』


と胸を撫で下ろした・・



(終わり)





寝ずに最後まで読めたら凄っ!

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