満月の夜
狼男の血を受け継ぐ男が狼男になった話。
俺は富樫功太19歳。俺の家は平安時代から続く狼男の血を受け継いだ一族で、俺は47代目に当たるらしい・・この現代社会で狼男が実在するなんて誰も信じないだろう・・もし狼男が出現したら世の中は大騒ぎだ!俺は受験勉強をしながら考えた・・
『本当に狼男に変身できるのか?・・』
俺のじいちゃんと父ちゃんは1度も狼男にならなかった・・父ちゃんが言うには、20歳までに1度も満月を見なかったら狼男になれないって・・俺は今まで1度も満月を見させて貰ってない・・満月を見て変身したいのに・・明日は満月だし、迷いどころだ・・受験勉強なんかしてる場合じゃないかも・・俺はベッドに入って考える・・
狼男になって何をする?YouTubeやSNSに投稿すれば絶対バズるはずだ!フォロワーだって爆増するぞ!勉強なんかしてる場合じゃない・・
『よぉーし!狼男になってインフルエンサーになってやる!』
俺は、満月を見る事に決めた!
よく朝、いつもの時間に起き、いつもと変わらぬ素振りで家を出る・・が、常に後ろの気配に気を配る・・父ちゃんが後を付けてるかもしれない・・
俺は浪人中で予備校に通っているのだが、予備校に入ると裏口から抜け出し、なるべく家から遠くへ・・
昼過ぎには登山道にいた。山の頂上から満月を見るため歩き続け、夕方には頂上に着く・・
『ふぅー!ここまで来れば大丈夫だろう・・』
頂上にある大きな丸い岩の上に立ち、街を一望しながらコンビニで買ったおにぎりとお茶で満足な気分を味わう・・が、空を見ると雲り空・・不安になる・・
『せっかく来たのに、雲で見えないってのは勘弁してくれよ・・』
日が暮れると緊張感が増して来きた・・
『もう直ぐだ・・父ちゃんが来る様子もない・・』
雲の後ろにぼんやりと光る月が、雲の切れ間から顔を出すのを待つが、中々出て来ない・・
『くぅ~っ・・早く来い、早く!』
逸る気持ちに苛立ちながらも待ち続け、月が夜空に高く上がった頃にやっと雲の切れ間から光が差し込む。
『きっ来たぁ~!』
沸き上がる興奮と期待に目を輝かせ、神々しい光りを食い入るように見つめると、どんどん姿を現し、遂にまん丸のお月さんが見える瞬間、目の前が真っ暗になった!
『えっ?』
突然の出来事が理解出来ない所に、誰かに押さえ付けられ、縄で後ろ手に縛られる!
『なっ!』
「ふぅ・・危なかった・・」
父ちゃんの声だ・・
「功太!満月を見るのは1年早ぇぞ・・」
じいちゃんまで来てる・・どうやって俺の居場所を・・
「何で俺の場所が分かった!」
「お前には、GPSが埋め込んであるからな・・」
「マジかよ~・・」
ガックリと力が抜けた・・
夜空には、満月がぽっかりと浮かび上がっていたが、俺は頭から黒い頭巾を被せられ、うつ伏せの背中にじいちゃんが乗っかっていた・・
『チッキショ~・・あと少しだったのに・・』
満月が直ぐそこにあるのに・・滲み出る悔しさの中で・・
『まだ諦めねぇぞ!』
俺は自分を奮い立たせ、思いっきり足をバタバタさせると同時に頭を振って、頭巾を振り払おうとした!
「たくっ!悪あがきするな!」
父ちゃんの手が頭を押さえ付け、じいちゃんは俺の両足を抱え逆エビ固めに!
「ヴッ・いてててぇ~・や・やめろ~・・」
父ちゃんは更に力を強め
「スマンなぁ~功太!今日は満月だから、つい力が入っちまう・・」
頭蓋骨からギシギシ軋む音が鳴り、じいちゃんの逆エビ固めが俺をグイグイ攻め上げる!
「満月を見ると力が沸いて来るわい!」
「ヴッウゥ・・こ・殺す気かよ・・」
狼男の血筋が2人を凶暴にしているようだが、俺だって諦めない・・痛みに耐え、苦しみながらも頭巾を噛みちぎろうと必死に食い縛る!
「ムギギギギィ~!」
「功太!満月を見るのは諦めろ!じゃないと朝までこのままだぞ!」
父ちゃんは更に力を強めた!
「ぐぁ~・・チキショー・・諦めてたまるか!俺は変身してぇんだ・・せっかくの血筋・・変身しなきゃ意味ねぇ・・父ちゃんも、じいちゃんも本当は変身したかったんだろ!自分達が出来なかったからって、俺の邪魔をすんじゃねぇよ!」
「功太・・狼男に変身すれば、いずれ後悔する事になる。だから満月を見せんのじゃ、お前の為じゃぞ!」
そう言って、じいちゃんが逆エビ固めを強めると
「ボキッ!」
俺の背骨が折れた・・
「ガハハハッ!ちょいと力を入れ過ぎたワイ・・」
じいちゃんは、おかしいのか笑っていて、父ちゃんも面白かったのか手を放すと
「痛いか?でも病院に行くのは明日だからな!」
嬉しそうに言った・・俺は、力を抜いてバッタリと地面にひれ伏していたが、まだ諦めてない!
噛み締めた頭巾の小さな穴から、光が零れていた・・俺は片目を穴に近付け覗き込み、そのまま空に目を向けると満月が見える!
「ドックン!」
満月を見た瞬間、心臓が大きく脈打つ
「ドクッ!ドクッ!ドクドクドドドドドッー!」
鼓動が速まり激しさを増し脈打と、俺の体は硬直し、意識が薄れて行った・・
「ん?」
異変に気付いた父親が功太を注意深く見ると、頭巾の綻びの小さな穴から覗く功太の目に気付き、目線の先を見ると満月があった・・
「ヤバべぇ、じいちゃん・・功太の奴、満月を見やがった・・」
「なっ、本当か!」
じいちゃんが頭巾を剥がすと、功太は泡を吹いて痙攣している!
「変身する・・おい!一族を集めるんだ!」
じいちゃんに言われ、父ちゃんは一族全員に一斉メールを送信・・功太の目は真っ赤に充血し、激しく痙攣しながら唸り声を上げた!
「ウゥ~ッ・・ウウゥ~ッ!」
血管がビクビク波打って浮き上がり、盛り上がる筋肉が服と縄を引き裂き、体が大きくなると同時に全身に毛が生え、手足に鋭い爪が伸びる!
「ワオォォーッ!」
狼男に変身した功太は、2メートルを越えた体でギラギラした目付き、鋭い牙の口からダラダラと涎をたらし、岩の上で満月に向かって吠えていた!
その時の遠吠えが街まで響き、人々を震え上がらせたらしいが、俺には遠吠えどころか、狼男に変身した記憶さえなかった・・
父ちゃんが言うには、俺は初めて狼男になって、訳が分からす理性も本能もぶっ飛んだらしく、じいちゃんのお陰で大事に成らずにすんだんだぞ!だって・・
俺が狼男に変身している時に、じいちゃんが鋼鉄の首輪と鎖で俺を岩に繋いだらしい・・俺が暴れようとしたが首輪と鎖が外れず、岩の周りから動けなかった・・山の頂上には、20歳を過ぎた一族の男達が500人ほど駆け付けていて、俺の様子を見ると
「あれが狼男か・・こぇ~っ・・」
「本家の47代目だろ・・あの化け物・・」
「本当に功太なのか?」
「俺、満月を見るの我慢して良かったよ・・」
「俺も!あんな化け物に成らなくて良かった!」
そんな中で、功太は涎をたらし唸り声を上げ、威嚇しまくっていた。
「何か・・すげぇ怒ってるな・・」
「功太って浪人生だろ・・ストレスか?」
「浪人が人浪ってウケる!」
「あっ!ウンコした!」
「食った!今、ウンコを食ったぞ!」
中には肝だめしで狼男に近づき、からかう者もいた・・
「こっちだ!こっち!」
「うわぁ!ウンコ投げて来た!」
「うぇ~・・顔についたぁ~・・」
「きったねぇ~っ」
「俺!セーフ!」
次第に狼男に飽きたのか、雑談で盛り上がる者や、からかって遊ぶ者、ワチャワチャしてる内に朝日が差し込み始める。
狼男が日の光に照らされると、体が小さくなっていき、手足や顔も元に戻ると、首輪をはめた素っ裸の功太がポツンとしゃがみ込んでいた・・
我に返った俺が、素っ裸で大勢を前に恥ずかしそうにしていると、じいちゃんが俺の前に立ち一族に向かって
「皆見たじゃろう・・功太の醜態を・・我ら一族には醜い野獣の血が流れておる・・皆の子孫には20歳まで満月を見せるなよ!」
一族の皆は、素直に納得して帰って行った・・
じいちゃんは、俺に恥を掻かせ、晒し者にするために一族を集めたんだ・・しかし俺は、あの日の事を後悔してない・・俺は変身したかったから・・自分が何者か知りたかったし、有名になりたかった・・一族の誰かが、その時の動画をYouTubeに投稿したが「フェイクだ!」「AI 画像だな!」ってバスる事もなく、おまけに受験にも失敗した・・だが俺は後悔してない!
『なぜなら俺は、満月を見れば変身できるんだ!』
俺は今、あの満月の夜から10年が過ぎ、当時の自分を思い出している・・結局、俺は大学にも入れず就職もしなかった・・この先も自分の人生に明るい未来を感じない・・しかし、あの満月の夜を後悔してない・・そして今こそ、俺の思いを遂げる時・・自分の力を発揮する時だ!街中で狼男になってやる!
「俺は、無敵だぁー!」
俺は、満月までの日数を数え、にんやりと微笑でいた・・
(おわり)




