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眠くなる短編集  作者: 生丸八光


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傷だらけの剣士

傷を追った剣士が、戦いの場に帰って来る話。

 地響きに怒号(どごう)、土埃が舞う中で槍や剣を手に戦い、命を散らしていく・・そこは戦場だった・・


 ザマ帝国が帝国主義の(もと)で領土を広げ、スタタン王国に攻め入り、激しい戦闘が繰り広げられていた。そんな中で倒れた若い剣士、彼の名前はレアルド・・瀕死の状態だが、戦う気力で再び立ち上がろうとしていた・・


 剣を握った(こぶし)で地面を押し上げ踏ん張るが、片足が折れてるのか立てない、そこに背後から兵士が乗っかり動けなくなった・・


 乗っかったのは味方だったが、既に息絶えている・・


「チキショー・・」


 うつ伏せに倒れた目の前では、大男が長槍を振り回して暴れ、仲間を次々と葬り去っていく・・


「あの男もしや・・ヤバい・・このままじゃ全滅するぞ!」


 彼は小隊長だった・・退却の声を上げよとしたが力が入らず、目眩(めまい)に襲われ地面に顔を(うず)め砂を噛みしめる・・意識が薄れる感覚に(あらが)い大きく息を吸い込み、目を閉じた・・




・・『いいか!俺達は泣く子も黙るザマ帝国第一特攻隊だ!振り返るな!突っ走って敵を蹴散らせ!俺達なら必ず出来る!』


 小隊長のレアルドは、50人の部下を鼓舞すると真っ先に突っ込んで行った!


『小隊長に続くぞー!』


 レアルドを先頭に敵陣に切り込み、突き進む!


 レアルドは剣の腕には定評があったが、それ以上に度胸が凄かった。防具を一切身に付けずに突っ込んで行くのだ!


 そんな向こう見ずのレアルドだが今回は少々部が悪かったようで、重装備兵隊が盾を前に陣形を組んでいる所に突っ込んだのだ・・


 槍を交わし盾を足場に飛び上がると、敵の裏側に入り込んで蹴散らして行ったが、突然、足元を(すく)う一撃で宙に舞い、槍が脇腹に突き刺さったのだ!


『チッ!しくじった・・』


 地面に倒れ込むレアルドに見えたのは長い槍・・6メール程ある槍を振り回す大男の姿だった・・



・・ハッ!と目覚めたレアルド・・辺りを見回すと戦線は離れた場所に移っていて、仲間の(しかばね)ばかりが目に入る・・


「チキショー・・」


 怒りと共に背中の死体から()い出て立ち上がろうとした時、激痛に顔を歪め、苦し紛れに転がり仰向けになると青い空・・脇腹からの出血を感じながら、大の字で見上げた高く晴れ渡る空に意識が吸い込まれていった・・



・・『おい、レアルド!長槍を持った大男には気を付けろ!歴戦の猛者だ!奴に全滅させられた部隊もあるからな!』


 剣の手入れをしていたレアルドに隊長が声をかけると・・


『全滅か・・そんなつえぇ奴が居るとは楽しみだ!そいつを探してブッ倒してやる!』


自慢の剣を見上げ、笑顔を見せるレアルド・・


『バカヤロー!奴を甘く見るな!お前は先陣の(かなめ)だ!後続の隊が入り込むまで相手にするな!いいな!』


『はい、はい、分かりましたよ・・』



 ・・再びレアルドが目を覚ますと夕暮れになっていた・・戦闘の気配も消え、(あかね)色に染まる空に溜め息を漏らす・・体はフワフワ浮いている感覚だが動こうとすると、ずっしり重くて動けない・・空を見上げる事しか出来なかった・・


『やっちまったな・・』


 次第に暗くなり、辺りの静けさに気づく、昼間は怒号が飛び交い激しく闘っていた戦場が、今ではシーンっと静まり返っている・・大勢の死体が転がってるなんて思えもしなかった・・


 レアルドは立ち上がろうともせず、軽く剣を握ってボーッと夜空を眺め、時には目を閉じる・・


 夜が深くなった頃、暗闇の中でガサゴソと人の気配を感じ、重い瞼を開くとランタンの明かりがチラホラ・・どうやら遺体から金目の物を盗みに来た()がし屋と呼ばれる連中らしい・・


 連中の一人が俺の前で立ち止まった・・俺の剣が目に止まったんだろう・・この剣は、小隊長になった時に陛下から直接(さず)かった剣で、大きなルビーとエメラルドを埋め込んだ黄金に輝く豪華な剣だからな・・


 俺の手から剣を剥がそうとするのを(わず)かに残る力で引き寄せると、ハッと俺の手を放す・・


「兄ちゃん!この人まだ生きてる・・」



 幾つかのランタンに照らされ、眩しさに目を細める俺を覗き込んだ人影は


「こりゃダメだな、助からねぇよ・・」


 俺のケガの状態を見てそう言い、その言葉で俺は、死ぬ程のケガだと分かった・・


『俺は死ぬのか・・どうりでメチャクチャ苦しい訳だ・・』


 今まで何度も大ケガをしてきたが、気力と体力で乗り越え、今回も我慢してれば良くなると(こら)えていたが『助からねぇ』と言われた事で傷口はズキズキ痛みを増し、呼吸も苦しく意識も薄れていった・・


 レアルドは夢を見てるのか、古い記憶を思い出しているのか、軍に入った頃の記憶の中にいた・・


・・『よーし、今日はここまでだ!みんな良く頑張ったな!疲れたろ、最後に腕立て300な!』


『はい!』


 泥と汗にまみれて腕立てする兵士達・・その中にレアルドもいた・・



『戦場で最後に頼りになるのは、(おの)れの気力と体力だ!根性出して死ぬ気で鍛えろ!』


『はい!』


 レアルドは汗をたらし、歯を食いしばって腕立て・・してたハズなのに、目を開けると仰向けで宙に浮いている・・どうやら板に乗せられ何処(どこ)かに運ばれてるようだ・・


 瀕死の状態のレアルドは、何処へ連れられようと抵抗する気もないが、皇帝陛下から授かった剣だけは、放さないよう精一杯の力で握り込む・・



 真夜中に閑静な町の中を疾走する押し車の上にレアルドは横たわっていた・・


「まだ息はあるか?」

「うん!」

「もう直ぐだぞ急げっ!」


 3人で必死に押す押し車の上でレアルドは眠っているのか、頑丈な塀に囲まれた大きな(やしき)へと運び込まれる・・


 邸の呼び鈴を鳴らし若い娘が顔を覗かせると


「お嬢さん!戦場で息のある男を見つけたんで連れて来ましたよ!」


 娘がレアルドに目を向け

「ひどい傷だわ!早く中へ!」


 慌ただしく中へと運び、4人係りでベッドに寝かせると

「お父様!お父様、早く!」

父親を呼んだ!


 娘の父親は医者で、救急箱を手に駆け付けるとレアルドの状態を見る・・


「どう?助かりそう?」


 心配で尋ねる娘に父は険しい表情を見せ


「ほぼ死んでる・・」


「そんな・・」


 愕然とする娘に、父として医者としても不甲斐ない思いにかられたのか


「出来るだけの事はしてみよう・・」


 そう言って傷口を消毒し、縫合(ほうごう)し出す・・



「お嬢さん・・俺達は、もう帰りますんで、いつものヤツを・・」


「あっ・はい・・」

 

 娘は落ち込んだ様子を見せながらも、ここまで運んで来てくれた3人にお金を渡し


「また、お願いします」


と頭を下げた・・金を受け取った3人は、そそくさと邸を出て行く・・


「兄ちゃん・・あの人助かるの?」


「ダメだな・・腹に穴が空いてたの見たろ・・朝まで持たねぇよ・・」


「そう・・」


 レアルドは、麻酔もないままに傷口を縫われていたが、痛みを感じないのか意識が無いのか、ベッドからダラリと垂れた腕・・床に付いた剣が今にも手から転げ落ちそうになっていた・・




 ・・『おい!レアルド・・レアルドっ!』 


『ん?』

『ボーッとして聞いてたか?』


『何を?』


『ここに皇帝が来るって話だよ!』

『え?陛下が戦場に・・お体の調子がよろしいので?』


『良いわけねぇだろ!戦況が思うように進まねぇから、軍の幹部連中が俺達を鼓舞する為に引っ張り出すんだ!』


『そんな・・』



 前線にテントが設営されると、皇帝を乗せた馬車が到着し、護衛と共に中へと入って行く・・


 皇帝は28歳と若いが心臓が悪く病弱、皇帝を名乗るには余りにも頼りなかったが、聡明でスタイルの良さから民衆に絶大な人気があった・・



『皇帝陛下が(まい)られたぞ!』



 兵士達が戦闘開始の高ぶる気持ちの中で、将軍の大声に視線を送ると椅子に腰掛ける皇帝・・体を椅子に預け、首をかしげて(うつむ)く姿が、いかにも体調の悪さを伺わせ、兵士達の高揚した気分が一気に心配へと移り替わった・・皇帝の前で将軍が兵士に語り掛ける


『我らの不甲斐ない戦い方に、陛下は心を痛めておられる!今日は重い体を引きずり、陛下は(みずか)ら我々を鼓舞しに来て下さったのだ!』


 将軍の声かけで、皇帝が力を振り絞って立ち上がり、兵士達を見渡し静まり返ると・・


『余は・・皆が命を掛け戦って要る事を知っている・・皆の命は余の命・・日々、余の命が削られている事が(くる)しくて(つら)い・・この悲しみが、いつまで続くのか・・余は、この戦いが早く終わる事を願うばかりだ・・』


 と言うと皇帝は苦しそうに息を付き、胸に手を当て倒れ込むように椅子に腰掛けると将軍が


『これ以上、陛下に負担を掛けてはいかん!今日は陛下の為に力の限り戦うぞ!我らの命は陛下の(もの)!我らの雄姿(ゆうし)を陛下に見て貰おうぞぉーっ!』


『おおぉーっ!』


 レアルドも闘志に溢れ、思いっきり拳を突き上げる!


 その日の戦いは、凄まじい勢いだった・・特にレアルドの気合いは凄まじく、敵陣深くまで切り込み敵を蹴散らし、勝利に貢献する大活躍を見せると皇帝から大いに称賛され、小隊長に昇進した。


 戦勝パレードでは、皇帝の豪華な馬車で皇帝の隣に呼ばれ、民衆からの大声援と称賛を浴び、皇帝から直々に剣を渡される・・


『この剣は、余が初陣(ういじん)の時に父から受け継いだ剣だ!次はスタタン王国を攻め落とす!君の活躍を期待して、この剣を授けよう!』


『恐悦至極であります!命ある限り、陛下の為に戦い続けます!』


 レアルドが天国に登った()()ような恍惚(こうこつ)とした笑みを浮かべ、剣を受け取った時、昏睡状態で寝ていたレアルドの手がギュッっと剣を握り締めた・・



 死の淵をさ迷っていたレアルドが目覚めたのは、それから10日後だった・・ぼやけた視界に娘の笑顔が見える・・起き上がろうとすると娘が慌てて


「まだ動いちゃダメ!傷口が開くわ!」


 レアルドは力を抜き、娘に視線を向け


「君が・・助けてくれたのか・・」


「助けたのは私の父です」

とそこに父親が顔を出し


「君の生命力には驚かされたよ・・だが、まだ安心できない・・安静にしてないと命に関わるからね・・」


 娘の献身的な看護とレアルドの生命力で、10日後には食事が出き、更に10日が過ぎると、体を起こせるようになっていた・・が、その間レアルドは一度も剣を手放さなかった・・早く治して体力を付け、また陛下の為に戦おうと言う意識が剣を握らせていたのだ・・


「その剣がよほど大事なんですね!ここに来て1度も手放して無いんですもの!」


 娘の言葉にレアルドは笑みを浮かべ


「この剣を握れば力が湧いてくる!死んだって放さねぇさ!」


 しかし、レアルドが邸に運ばれ3ヶ月が過ぎても、熱っぽさと体のダルさからベッドの上での生活が続き、以前のようには戦えないと感じていた。そして更に、今いる場所が敵国の領地だと分かった・・


『この娘は知ってるのだろうか・・助けたのが敵の者で、味方を大勢殺した小隊長だと・・そして動けるようになったら、また敵として戦う事を・・』


 助けてくれた親子に感謝はすれど、陛下への忠誠心と決意に剣を握り締める!


 レアルドはベッドから転げ落ちるように降り、よろけながらも立ち上がる・・膝はガクガクで力が入らないが気力を振り絞り、両手に力を込め剣を支えに立っていた・・


「レアルドさん!無茶しちゃダメですよ・・」


 慌てて娘がレアルドの体を支え、ベッドに腰掛けさせるが


「お嬢さん、俺は行かなきゃならねぇ・・これ以上2人に迷惑を掛けれねぇしな・・」



「迷惑なんて考えないで下さい・・私達がしたくて、やっている事ですから・・」


「しかし・・」

レアルドは娘に悲しい視線を向け


「俺は、ザマ帝国の兵士・・敵なんだよ・・」


 と言って立ち上がろうとする・・


「あなたが敵方の兵士って事は知ってました・・」


「なっ!敵だと知ってて助けてるのか!」


 レアルドは立ち上がるのを止め、理由を知りたくて娘をじっと見つめると


「私達が貴方(あなた)を助けるのは、自分達の為です・・」


と言って娘は、自分を落ち着かせるよう静かに息を吸い込み、話し出した・・


「私には兄が1人います・・兄は武芸に優れた軍人で、多くの武功を上げ国から沢山の勲章も戴きました。でも戦争で活躍するという事は、それだけ多くの人を殺してきた(あかし)・・戦争とはいえ、医者の息子が大勢の命を奪っている事に、父も私も悲しいのです・・そこで戦場に出入りしている方に傷を負った兵士を見つけた時は、ここに連れて来て欲しいと、お願いしてあったのです・・」


 レアルドは自分が助けられた理由を理解したが、娘の悲しげな表情に、まだ何か話が有るのだと思い沈黙を続けていると、娘は瞳を潤ませレアルドを見つめる・・


「・・運ばれた貴方(あなた)の傷口を見て直ぐに気付いたの・・兄の(やり)だって・・貴方に大ケガを負わせたのは、兄だと思う・・」


「兄貴って、長い槍を持った大男か?」


 「はい・・」


 (うなず)いた娘の瞳から涙が流れ落ち、それを目にしたレアルドはニコやかに微笑む・・


「そうか・・なら、涙を流すのは間違いだな!兄貴を褒めてやらねぇと・・なんたって、この俺を仕留めたんだからな!ハハハハッ!」


 レアルドの屈託のない笑顔で恨みのない様子が見て取れたのか、娘はホッと息を付き


「体が元に戻るまで、焦らずにがんばりましょ!」


と笑顔で元気付け、レアルドも笑みを見せたが


「そうしたい所だが、俺は自分の国に戻るよ・・ただ、その前に兄貴に会わせてくれないか?」


「えっ・・兄に・・」


 兄に会ってどうするのか・・不安を感じたが、レアルドの頼みを無下(むげ)に断る訳にも・・それに、兄の方に会う気があるとも思えなかった・・


「兄に伝えてみますが・・(いそが)しい方なので・・」


漠然(ばくぜん)と応える・・



 娘が兄に伝えると意外にも会うと言う返事が返って来て、5日後に訪ねて来る事をレアルドに伝えると、一瞬グッと目に力を入れ、ニヤリと笑みを浮かべたのを見て、寒さを覚えた・・


 娘の不安をよそにレアルドは日増しに気力を増して行き、複雑な不安を感じながらも5日が過ぎ、兄が訪ねて来る・・


 軍服を着た大柄で堂々とした兄の風貌(ふうぼう)は、知らない者が見れば萎縮するほど威圧的だが、娘には威厳と安心感を与えた・・


「レアルドさん!兄が来ましたよ!」


 レアルドの部屋に入ると、ベッドから出ていたレアルドは、窓を背に剣を(かつ)いで立っていて


「俺はザマ帝国!第一特攻隊小隊長、レアルド・バンデスだ!」


と睨み付ける!


 以前と比べ、()せて力も衰えたレアルドだったが、ザマ帝国の第一特攻隊と言えば周辺国が震え上がる部隊・・その名に恥じぬ力強さと気迫で睨み付けた!そして、その名を名乗る時が、レアルドにとって1番誇らしい瞬間であった・・


「私はスタタン王国、戦略重装備兵団団長、ガゼット・ハミルトンだ!」


 負けじと睨み返す大男の体は、一回り大きく見えたが、レアルドは(ひる)む事なく


「その目!覚えてるぞー!俺に槍を突き刺した男の目だ!」


 大声を張り上げる緊迫した状況に娘が不安と恐怖で震え上がると


「お嬢さん安心しな!ここは戦場じゃねぇ、話するだけだから俺達2人にしてくれ!」


 兄もそうするように目配(めくば)せすると、娘が部屋から出て行き、更に増す緊迫感の中でレアルドは


「てめぇには不意討ちを喰らったが、俺は、この通りピンピンしてるぜ!残念だったな!」


不敵な笑みを見せる・・


「君が生きていたのは驚きだが、不意討ちとは心外だな・・君に隙があったのでは?」


「隙?俺に隙なんかねぇさ!ちょっと油断しただけだ!いいか!今度戦場で俺を見た時が、てめぇの最後だ!覚えとけ!」


レアルドの威勢に、ガゼットは思わず笑みを漏らす・・


「フッ・・勢いは凄いが、君は状況を把握するのは苦手らしい・・」


「どう言う事だ!」


 詰め寄るレアルドをガゼットは上から威圧的に見下ろし


「君は戦場で私と偶然に出会い、槍で突かれたと思っているだろうが、それは違う・・私は君が来るのを待っていた・・君を狩る為に重装備兵が陣形を組み待ち構えた・・つまり君は、狩られるべくして狩られたと言う事だ・・」


「なるほどな・・俺を(ねら)い、罠にはめたって訳か・・だが同じ手は2度と通じねぇ!覚悟しとけ!」


「さっきも言ったが、君は状況を全く理解してないようだ・・」


「何ぃ!・・」

馬鹿にされた気になり、何か言い返そうとしたレアルドだが、思い付かず言葉が出ない・・するとガゼットは


「君がいた第一特攻隊は、もうない・・君が倒れた日に壊滅した・・」


「そ・そんな馬鹿な・・」


「戦況は我々が圧倒的に優位な状態にある。近い内に帝国主義を崩壊させる事になるだろう・・せっかく助かった命だ・・ここで治療を続け、この国で暮らす事を考えた方がいいと思うがな・・」


 レアルドは、まさか帝国が危うい状況だと思いもよらなかった・・だが、こういう時こそ燃えるのがレアルドだった!


『陛下の力にならねば!』


その思いと共にガゼットの目の前に剣を突き出す!


「この剣は、陛下より授かった剣!俺の命は陛下の為にある!」


 闘志溢れる目で突き出したレアルドの剣を見たガゼット・・


「大した剣には、見えんが・・」


「黙れ!」


声を荒げてレアルドは歩き出す!


「戦場でまってろ!」


 おぼつかない足取りでヒョコヒョコと歩いて行くが、鋭い目付きで先を見据え進んで行く・・廊下で悲しげな表情を浮かべる娘が見えるが、目を合わす事もなくレアルドは進んで行った・・



 3日間歩き続け、ヨロヨロになりながらもザマ帝国に戻ったレアルドは困惑していた・・ここに来るまで兵士を1人も見掛けなかったし、戦闘の気配もなかった。街の雰囲気も変わり、通りに人の気配が無いのだ・・


『みんな何処に行ったんだ・・』


 人を捜してフラフラと歩き続け、かつてパレードで走った道の片隅に座り込むと、当時の華やいだ光景が思い出された・・


・・しばらく余韻に浸ってボーっと街を眺めていると、人影が横切り我に返る・・


 人影を追って行くと人だかりが見えた・・そこは皇帝が住む宮殿の前で、武器を手に大勢の人が集まっているのだ・・


 殺気立った民衆が門の鉄柵に登り、ガンガン叩いているのを見て、レアルドは民衆の1人に尋ねる


「なんだ!この騒ぎは?」


「皇帝を呼んでんだ!」


「なぜ?」


「ワシは戦争で2人の息子を失った!皇帝に責任をとって貰う!」


「なっ、なに言ってんだ!そんな事、陛下に言うな!」


 レアルドは民衆の先頭に行き、門を叩いている男を引き降ろすと民衆に向かって


「この場から、すぐ立ち去れ!」


剣を突き立てる!


「何だ、お前!」


レアルドを取り囲み、襲いかかろうと殺気立つ・・


「俺は!第一特攻隊小隊長!レアルド・バンデス!陛下に楯突く奴は俺が許さん!」


気迫を込めて言い放った!


「第一・・特攻・・」


 第一特攻隊と言う言葉に一瞬(ひる)んだが


「そんなもん!もういねぇ!」


石を投げ付け、レアルドを袋叩きにした!


「クッ!・・」


集団で踏みつけられ、立ち上がろうにも力が入らず、気を失うレアルド・・


「その辺で止めておけ!」


 倒れたレアルドを肩に担ぎ、連れて行く男・・この男は、かつて第一特攻隊で隊長を務めた男だった・・


「う・うぅ・・」


 隊長の背中で意識を取り戻したレアルド・・


「おっ!目覚めたか!」


「そ・その声は・・隊長?」


「おう!そうだ!」


「い・生きてたんスか!」

「それは俺のセリフだ!今まで何してた!」


「ちょっと、死にかけてまして・・」

「今も、死にかけてるぞ!」


「ハハハ・・面目ない・・」


「たくっ!バカヤローが!でも、まぁ・・生きてて何よりだ・・」


 隊長は、痩せて弱々しくなったレアルドを背中に感じ、涙ぐみながらも微笑んだ・・


「隊長・・下ろしてくれませんか・・俺、自分で歩けますんで・・」


「バカヤロー!そこで、じっとしてろ!」




 レアルドは隊長の家に連れてこられ、椅子に下ろされ一息付くと


「俺がいない間に、この国は、どうなっちまったんスか・・」


 隊長は溜め息を付きながらコーヒーを入れ、1つをレアルドの前に置き、穏やか表情で腰掛け


「まさか生きてたとはな・・」

しみじみとレアルドを見つめ、コーヒーを口にすると話し始めた・・


「お前が殺られたと思った第一特攻隊は、仇を討とうと全軍で突撃し、続いて第二、第三特攻隊も加わり敵を押し込んで行った・・だが、それは罠で四方を囲まれた地形に追い込まれ、その日で5000以上の兵士を失った・・」


 レアルドは責任を感じたのか、溜め息を漏らし


「俺がヤられっちまったせいで・・」


と呟くと隊長が


「相手が上手(うわて)だったんだ・・」


そう言って(ちゅう)を見つめ


「スタタン王国の重装備兵が強すぎて攻略出来なかった・・その後も戦闘の(たび)に戦死者は増え続け、軍の幹部も戦略を立てれずに()()()()()いる時、兵士の士気を下げる衝撃が走ったんだ・・」


「衝撃?」


「あぁ・・皇帝に付いて、ある噂が流れた・・」


 隊長はレアルドを見て、一瞬話すのをためらったが話を続ける・・


「皇帝は心臓が悪く病弱と言われてたが、実際は病気でも何でもなく、征服した国の女を集めてハーレムを作り、毎晩追い掛け回してるって・・おまけに略奪した富や財宝を軍の幹部と分け合い、皇帝は国民を(あざむ)いているぞ!って・・まぁ、スタタン王国が広めたんだろうけど・・」


「そんなデタラメ誰が信じる!」

レアルドが怒りに声を荒げたが・・


「それが・・デタラメって訳でも無さそうなんだ・・この噂が広まって真っ先に将軍が姿を消し、軍の幹部も国外に逃げ出したからな・・おかげで兵士の士気は下がり、民衆は裏切られたと騒ぎ出す・・この国は崩壊寸前だ・・」


「そんなバカな・・」

ショックを受けるレアルドを不敏(ふびん)に感じたが、隊長は更に


「お前が、大事にしてる剣も怪しいぞ・・俺は前から宝石じゃなくてガラス玉だと思ってたが・・切れ味も悪かったろ・・」


「ウッ・・」

言葉を詰まらせ、剣を見つめるレアルド・・


「陛下も逃げたんですか・・」

呟いた・・


「まだ宮殿に残ってるって話だが・・」


 それを聞いてレアルドは重い体を持ち上げ、立ち上がろうとする


「止めとけ・・この国は、もう終わりだ・・時期スタタン王国が制圧しにくる。街の連中も逃げる前に文句を言いたかったんだろうが、時間を無駄にするだけだ・・」


「隊長は逃げないんですか?」


「俺は、この国の最後を見届けるさ・・帝国主義の最期をなっ・・」


 隊長の言葉が悲しくて、(むな)しさに溜め息を漏らすレアルド・・そんなレアルドを見た隊長は


「これでいいんだ・・俺達は、生まれた時から戦争しか知らねぇ、戦争に明け暮れ生きて来たが、最近やっと気付いてな・・帝国主義が糞だって事が、平和に暮らしてる国を侵略して行くんだからな・・悲しみと復讐の連鎖しか生まねぇよ・・滅ぶべきだ・・」


そう言ってレアルドを見つめると


「お前は、もう十分戦った・・せっかく助かった命だ・・平和な土地でのんびり暮らせ・・」


「のんびり暮らす・・」


 レアルドは、のんびり暮らす生活を想像しているのか、しばらく沈黙すると決意を込めて一気にコーヒーを飲み干し、その勢いのまま立ち上がる!


「隊長!俺、やっぱり陛下に会ってみます!」


「そうか・・まぁ、好きにすればいい・・()めたって止まらねぇからなぁ、お前は・・だが、スタタン王国が来る前には引き上げろよ・・」


「はい・・」


 レアルドは隊長の家を後にし、皇帝の宮殿に向かった・・



 宮殿の門に付いたが、もう民衆の姿は見えず、鉄柵をよじ登り中へと入って行く・・


 広々とした宮殿の中を歩き回っても人の気配がない・・『皇帝も逃げてしまったのかも・・』と思いつつも歩いて行った・・


 レアルドは1度だけ皇帝の部屋に呼ばれた事があり、その部屋に向かい入ってみるが、誰もいない・・(あきら)めて帰ろうとした時『ゴホッ・ゴホッ・』咳き込むのが聞こえ、隣の寝室に行くと皇帝がいた!皇帝は広い寝室のベッドに1人、上半身を起こし苦しそうに咳き込んでいた・・



「陛下ーっ!」


レアルドは精一杯の力で駆け寄る!


『何が病気じゃ()()()()!顔色は悪いし、以前より(やつ)れてしまってるじゃないか!』


「ゴホッ!ゴホッ・ゴホッ・・」


 苦しそうに咳き込む皇帝に何も出来きずにアタフタしてレアルドは


「おい!誰か、いないのか!陛下が、陛下が苦しんでおいでだぞ!」


大声を上げた!


 すると皇帝は片手を横に振り


「ゴホッ・ゴホッ・・誰もいない・・ゴホッ・君も早く逃げるんだ・・」


「陛下は逃げないんですか?」


「ハァ、ハァ・・余は、ここにいる・・ゴホッ!君は早く逃げなさい・・ゴホッ・ゴホッ・もうすぐ敵が・・ここまで来るから・ゴホッ・・」


 皇帝が苦しそうに息を付き、咳き込む様子に気を()みながらも


「陛下が逃げないのなら、私はここで戦います!」


 レアルドの言葉で皇帝は顔を上げ、レアルドの顔から足先へ視線を下げ、剣に目を止めると


「余が(さず)けた剣・・レアルド・・生きていたのか・・ゴホッ・ゴホッ・・」


「槍を突かれ死にかけましたが、戦う為に戻って参りました!」


「ゴホッ・ゴホッ・・生きていて良かった・・でも、もう戦わなくていいんだ・・この国は、負けたんだよ・・」


「すみません・・私の力が足りず・・」


「君が、謝る事はない・・余が弱かったから負けたのだ・・余が弱かったから・・ゴホッゴホッ・・」


 皇帝は、咳き込みながらも悔しさに顔を(ゆが)


「余が弱かったから・・将軍達の悪行にも気付けなかった・・余が弱かったから・・ゴホッ・ゴホッ・」


「陛下は弱くないです・・ご自分を責めないで下さい・・」


 レアルドの困り顔に、陛下が優しく微笑んで見せると


「君が生きていて、良かったよ・・」


 改めてレアルドが生きていた事を喜び、少し落ち着いたのか穏やかな表情を見せ


「余は、君に憧れていた・・君の戦う姿・・真っ先に敵陣に斬り込み、次々と敵を倒して進んで行く姿に・・」


そう言って、レアルドの剣を見つめ・・


「余が初陣(ういじん)の時に父から(さず)かった剣・・1度も振るう事がなかったが、君のように戦う事を夢見ていた・・だから君に余の剣を授けた。余の代わりに戦って貰おうと・・どうだった?・・余の剣は?切れ味は良かったのか?」


「最高の切れ味です!陛下!私が生きてるのは、この剣があったからです!」


キッパリと応えたレアルドに皇帝は


「そうか・・」

子供のような笑みを浮かべ、遠くを見つめていた・・


「この最高の剣で、必ず陛下を守りますので!」


「その必要は無い・・」


「陛下・・」


 皇帝は遠い目をしたまま、意識も遠くへ向かっているのか・・


「余は、もう死ぬ・・体の感覚も無いし目も霞んできた・・ふぅーっ・ふぅーっ・・だから、戦う必要は無い・・」


皇帝が肩で大きく息を付く・・


「陛下・・少し、お体を休めて下さい・・」

レアルドが休むよう勧めても皇帝は話すのを止めない・・


「余が父から受け継いだ・・この国・・国を大きくすれば、皆が豊かで平和に暮らせる・・父の思いも受け継いだが・・余が・・弱かったせいで・・国を滅ぼしてしまった・・」


 皇帝が(くや)しい思いに悲しんでいる時、遠くで『ガーン!ガーン!』と鉄柵にぶつかる音が聞こえ、レアルドが窓から様子を見ると、スタタン王国の兵士が宮殿の門を打ち破ろうと大きな丸太をぶつけている音だった・・


「陛下!俺が奴等を追い払って来ますんで、見てて下さい!」


 闘志に燃えるレアルドが、力強く剣を握り、皇帝に目を向ける!



「陛下・・」


レアルドの気の抜けた悲しい声・・


 皇帝は頭をガックリと下げ、息絶えていた・・衝撃が体中を駆け巡り、深い悲しみに陥ったレアルドだが、窓から射し込む光が皇帝を優しく照らし、温かい光の中で微笑みを浮かべる安らかな顔を見て、レアルドも優しく笑みを浮かべていた・・




「ガァーン!ガァーン!ガシャーン!」


 スタタン王国の兵士が鉄柵を破壊すると、重装備兵が隊列を組んで中へと足を進めるが、ピタリと足を止めた!


 正面にレアルドが待ち構えているのだ!


 重装備兵は二手に別れ、レアルドを取り囲む位置に付くと、ガゼットが姿を見せる!


「君1人だけか、戦う気があるのは・・」


「俺は特攻!1人でも戦うさっ!」


 軍勢を前にレアルドの闘志()れる目を見たガゼットは


「何の為に戦う・・その体で・・死にたいのか・・それとも恨み?復讐か?君の闘争心を()き立てるのは何だ?」


「戦うのは忠誠心!感動が闘志を燃やすんだよ!」


「そうか・・」

ガゼットは納得したのか重装備兵に


「手は出すな・・私が相手をする!」


そう言うと同時に、長い槍を振り回し構えた!


 ガゼットが構えた瞬間にレアルドは斬り込んでいく!透かさず飛んで来るガゼットの激しい突きを素早く避け、突っ込むレアルド!


 槍先を交わすと、更にスピード上げ(ふところ)へ飛び込み、ガゼットが素早く槍を左右に振り込むのを巧みに交わして、渾身の一撃を脇腹目掛け打ち込んだ!


『もらったぁーっ!』

「ガキィーン!」

一際(ひときわ)大きい金属音が鳴り響く・・


「チッ!」


 レアルドは、長槍の弱点である懐に飛び込み脇腹を(とら)えたと思ったが、ガゼットは瞬時に槍を手放し、腰の剣を抜きレアルドの剣を受け止めていたのだ・・満身創痍のレアルドにとって、この一撃が止められ悔しさが滲み出る・・


()しかったな・・」

そう言いながら剣を構えるガゼット・・


 ガゼットは剣の扱いにも()けている上に全身に鎧を(まと)い、左手には盾が装備されている。防御においても鉄壁だった・・それでもレアルドは互角に戦い続ける。ガゼットの鋭い剣を受け流し、変幻自在の動きで力強い連続攻撃を繰り出していた!


『数日前まで、やっと歩いていた男が・・』

 ガゼットはレアルドの動きと力に驚かされていた・・


「その体で、よくこれ程の攻撃を・・我々が君を狙い、倒しておいて正解だったよ・・」


「へっ!俺が、てめぇに狙いを定めてたら、この戦争、俺達が勝ってた!」



 激しい攻防を繰り広げた2人だったが、レアルドに限界が近付いて来る・・(すで)に体は限界を超えていたが気力を奮い起こし、無理やり動かしていた。


 そして遂に限界の時が・・ガゼットが振り降ろした剣を受け流さずに、受け止めてしまったのだ・・剣の勢いに耐えようと全身に力を入れてしまい、その時一瞬だけ隙が出来てしまった!


 その一瞬をガゼットは見逃さない!盾の付いている左手を振り上げ、レアルドの左顎に盾を喰らわせ、ブッ飛ばした!


 レアルドの体が宙を舞い、意識もブッ飛んだのを一瞬で引き戻し、受け身を取ろうとしたが、体は動かなかった・・地面に打ち付けられ、立ち上がろうにも力が入らない・・



 目の前に剣を突き付けられるレアルド・・

 

「負けを認め、剣を放すんだ・・」


「殺れ・・」

死を覚悟した・・


「妹が君の心配をしている・・傷付けたくない・・」


 レアルドは剣を見つめる・・


『陛下から授かった剣・・』


 皇帝を思い、剣を見つめ皇帝の最期に見せた安らかな笑顔が思い出されると、レアルドの手から剣が(こぼ)れ落ちていた・・



 剣を取り上げられ、後ろ手に縛られたレアルドは、全てを出し尽くし力が入らないのか、気が抜けたのか地面に座り込み、ガゼットの「宮殿にまだ兵士が残っているのか?」とか「皇帝は中にいるのか?」との問いに首を振り、(うなづ)いて応える・・


 ガゼットが重装備兵を呼び寄せ


「皇帝を生きたまま捕まえて来い!」


 と指示を出すとレアルドは

「それは無理だ・・陛下は、すでに亡くなられている・・」


力なく応え


「病気でな!」

と言葉を強めて睨み付けたが、ガゼットは

「・・そうか」

素っ気なく応えた・・


「フンッ!」

(いきどお)るレアルドをよそに、あれこれ指示を出すガゼット、そこに1人の兵士が駆け込んで来る!


「団長!」


「何だ?」


「軍の本部を制圧しました!」 

「抵抗する者はいたか?」


「いえ、すでに逃げ出し!藻抜(もぬ)けの(から)でした!」

「そうか!」

ガゼットは満足した様子で応えると


「よぉーし!我が国の国旗を掲げろー!」


晴れやかな声が響き渡る・・



 ザマ帝国の旗が外され、宮殿はスタタン王国の旗で満たされ、満足感で見上げたガゼットが、至福の笑みを浮かべた瞬間、遠くで怒号が沸き上がった!


「何事だ!」


 軍勢の後方が襲撃されていた!


「何者だ!」

「分かりません!」


 大軍の中を正体不明の何かが進んで来る状況に不安を感じたその時、伝令が飛び込んで来る!


「相手は1人!」


その言葉でレアルドも覗き込むと・・見覚えのある兜に鎧・・


「隊長・・」


レアルドが呟いたのを聞いたガゼットは

「隊長?」

レアルドに視線を向けると、レアルドは目を輝かせて立ち上がり


「ザマ帝国!第一特攻隊、隊長!デューク・ヘリオス!」


その名を(たか)らかに叫んだ!



「特攻か・・」


ガゼットは特攻隊と分かると重装備兵に

「捕らえて、連れて来い!」


「生け捕りですか?」


「殺しても構わん・・死にたいのであろう・・」


 隊長は勢いを増し、一直線に進んで行く!後ろを振り向かず、目の前の敵を蹴散らし、死を恐れず突き進む!その姿は、まさにザマ帝国第一特攻隊隊長にふさわしい特攻だった!


 隊長の進む先では重装備兵が待ち構え、重装備兵の姿を視界に(とら)えた隊長は

「見つけたぞ!」

目を輝かせた!


 多くの特攻隊の命を奪った重装備兵・・隊長の狙いは重装備兵だった・・陣形を組み、待ち構えている所に正面から突っ込んで行く!


「ガシャーン!」


 隊長の強烈な体当りが重装備兵を盾ごとブッ飛ばし、斬り込んで行く!


 重装備兵が取り囲む中で戦う隊長の顔は、活力に溢れ、なぜか(うれ)しそうに()()見える・・見上げた空は、青々と晴れ上がっていた・・



「団長・・終わりました」


 重装備兵が引きずって来た隊長をガゼットの前に横たわらせる・・兜は剥ぎ取られ、だらりと垂れた頭が地面の上でピクリともしない・・


「隊長ーっ!」


 レアルドが縛られた体を投げ出し、隊長の横に滑り込む!


 「隊長!」


 レアルドの声に隊長の片目が僅かに開き、レアルドの顔を見て


「バカヤロー・・ここで・何してる・・」


 隊長が生きてて笑顔が(こぼ)れるレアルド・・


「俺、捕まっちゃいました・・ハハハ・・」


「ったく・・バカヤローが・・」


「隊長の方こそ、無謀な事を・・」


「俺は・・いいんだ・・隊長だからな・・大勢の隊員を特攻で死なせた・・隊長の俺が、生き残ってたら示しが付かねぇだろ・・最後に・・ひと花咲かせねぇとな・・」


 苦しむ中で、隊長は笑顔を見せ


「どうだった・・俺の特攻は・・」


「そりゃ最高でしたよ!最後にドーンと花火が上がった見たいで!」


レアルドも笑顔で応えると


「なら良かった・・」


と言って静かに目を閉じる・・


「たっ隊長ーっ!」


 レアルドの声が、晴れやかに続く空に、悲しく響き渡って行った・・



(終わり)




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