勇者の伝説
3人の勇者が伝説になった話
もうすぐ、一つの物語が終わろうとしている・・・
暗い森の中で焚き火を囲む四人の男・・彼らは、それぞれ遠く離れた地から来た戦士・・
世界が魔王に支配され、暗闇になった世界から光を取り戻そうと、魔王を倒すべく、魔王城の前に広がる森の中で偶然に出会ったのであった。
「僕は、もう行くことにするよ!」
一人の男が立ち上がる!
彼は北の大地から来た戦士、色白で金髪、細身だが内に秘める闘志にあふれ、今にも走り出そうとしていた。
「魔王を倒し、闇の世界から光りを取り戻す!」
拳を強く握り締め、魔王城を睨み付けた。
「僕も一緒に行く!」
西から来た戦士が立ち上がると
「私も行きましょう!」
と、東の戦士も立ち上がる。
立ち上がった三人は、互いに視線を合わせ、血がたぎる高揚感と沸き上がる闘志で、まだ座っている男に視線を向けた。
「君はどうする!行かないのか!」
北の戦士の問いに、座っている男は
「そんなに急がなくてもいいんじゃね?オレ達は、まだ名前も知らねぇし」
それに対し、北の戦士はニッコリ微笑むと
「僕は北のアルマ王国から来たイリヤだ。もし僕が戻って来なかったら、魔王と激闘の末、あと一歩で力尽きたと心の片隅にでも留めて置いてくれ!」
そう言うと足を進め様とする。
「ちょっと待てって!急いで行って倒せる奴じゃねぇぞ!それに戦ってもねぇのに激闘って・・・オレは、五日前に魔王と一戦交えたが一緒にいた仲間は一撃で虫の息になった・・オレは肩と腕を負傷し一旦退き、傷が治れば仇を討ちに行くつもりだが、奴はメチャクチャ強ぇぞ!」
男の言葉に戦士達は一瞬、尻込みする様子を見せたが、そこは何度も命懸けの戦いを切り抜け、ここまで来た戦士、直ぐに自分を奮い起こし魔王の元へと行こうとする。すると座っている男は戦士達に
「魔王は強い上にメチャクチャ残酷だぞ!奴は倒した相手を食べるんだからな・・」
その言葉に戦士達はピタッと足を止め、息を飲み込む・・・
「オレは、この森に五日間いて色々知ることができた。城に出入りしている魔物を捕まえたら、そいつがおしゃべりでな・・とりあえず腰を下ろして、オレの話を聞きなって!」
戦士達は顔を見合わせ、話を聞こうと腰を下ろした・・
「いいか!正面から戦っても倒すのは絶対に無理だから・・奴の一振りで全員吹っ飛ばされて近付けねぇし、心臓を殺らないと再生力が強くて不死身だからな!」
それを聞いて三人の戦士達は考え込んむ・・・
「・・君は、何かいい方法を知っているのかい?」
西の戦士が男に尋ねると
「へへへぇーまぁな・・」
得意気に鼻を擦り話し出す・・
「魔王が寝ている時を襲うのさ!『ガァガァ』いびきをかいている時をな!奴は、イビキをかいて寝ている時は何をしても起きないんだとさっ!で、そこを忍び寄って心臓をブスッっと突き刺すんだ!」
「なっ!なんと卑怯な・・・」
東の戦士が呆れると北の戦士イリヤも
「そんな卑怯な戦い方をする位なら死んだ方がましだ!」
と怒りを込め
「たとえ死ぬと分かっていても、戦う時は正々堂々正面から戦いを挑む!それが戦士ってもんだろ!」
拳を突き上げ、立ち上がった。
残りの戦士達も時間を無駄にした顔を見せ立ち上がると、座っている男は
「君達は本物の戦士だな!まさに勇者だよ・・」
と言い、まだ聞いてない二人の名前を教えて欲しいと言った。
「僕はロシニアのストック!」
「私はレイランドのガルシアだ!」
名前を聞くと男は、最後にこれだけは覚えておいて欲しい、と三人を見上げて
「魔王は簡単には死なせてくれないから・・人間を料理するのが好きらしい・・生きたまま皮を剥いで、ギャーギャー悲鳴を上げるのを聞いて楽しみ、塩、コショウをたっぷりすり込んで下味を付けると、熱々の鉄板や鍋で料理するから覚悟しておいて欲しい・・」
戦士達は、話を聞くにつれ段々顔が強張り青ざめ、しばらく呼吸が止まっていた・・・
北の戦士イリヤは、拳を強く握り自分を奮い立たすと、座っている男に向かって
「もし、僕が戻って来なかったら、魔王の腹の中におさまったと思ってくれ!」
と言って、勢いよく城に向かって走り出す!
ストックとガルシアも、遅れながら後を追いかけた!
「おーい!イリヤ、待ってくれよ!」
ストックが声をかけるが、イリヤは更にスピードを上げ走った!イリヤは決めていた・・北の戦士イリヤは、勇猛果敢に魔王と戦い死んでしまったと・・このまま城を通り過ぎ走って、何処かの町で名前を変え、ひっそりと暮らす事にしようと・・・後ろの二人をぐんぐん引き離しスピードを上げ走っていった・・
ストックは、イリヤに追い付こうと必死で追いかける。イリヤがスピードを上げ走ったが、ストックも足には自信がある。必死で走り、なんとか城門の前でイリヤに追い付いた・・・
「はぁ・はぁ・イリヤ・・君は足が速いなっ・・」
「はぁ・・はぁ・・君の方こそ・・・」
イリヤは死ぬ気で走ったのに追い付かれてしまい、仕方なく魔王と戦う覚悟を決める・・・
ストックは膝に手を当て、しばらく息を整えると
「イリヤ・・僕は君に謝ろうと思う・・僕は怖じ気付いてしまって魔王と戦うのを止める事にした・・・だから僕は、この門の所で君が帰って来るのを待つことにするよ。そして、もし君が帰って来なかった場合は、君の国へ行き、君のご両親や友人、君の国の人々に君がいかに勇敢で立派な男だったか伝えに行くつもりだ!」
ストックの話を聞いてイリヤは優しく微笑むと
「戦わないと言う決断も勇気のいる事だよ・・」
「ありがとう・・イリヤ・・・」
ストックも微笑んだ・・・そこに、ガルシアが追い付いて来た。
「はぁ・・はぁ・すまない待たせてしまって・・・さぁ、行きましょう。魔王を倒しに!」
ガルシアが勇ましく、天に剣を掲げ見上げるのを見たイリヤは
「君は勇ましいなぁガルシア・・・よしっ決めた!魔王を倒すのは、君に託す事にするよ!」
「えっ?・・」
ガルシアが、どう言う意味か戸惑っているとイリヤが
「僕はもう、魔王に殺された事にした!」
「はぁ?・・」
益々意味が分からなくなって来た・・・
「僕は、魔王と戦うのが怖くなってしまったんだ!ここで君が帰って来るのを待つ事にするよ。もし君が帰って来なかった場合は君の国へ行き、君がいかに勇敢に戦ったか伝える事にする!」
ガルシアはイリヤの思いもよらない言葉にストックの顔を見て
「ストック・・」
と言うと、イリヤは
「彼は僕の故郷に行って、僕が魔王と勇敢に戦い、死んでしまった事を伝えてくれるんだ。だから僕達二人は、ここで君を待っているよ」
「そ・・そうなのか・・・」
ガルシアはストックの顔を見る・・
ストックは静かに頷いた・・
・・・ガルシアは剣を見つめ二人と視線を交わすと決意を固め。
「よしっ!じゃあ!私は西へ行こう!」
ここに三人の勇者が誕生した!
北の戦士イリヤは東のガルシアの国へ、ガルシアは西のストックの国へ、ストックはイリヤの国へと、それぞれ魔王と勇敢に戦い死んでしまった事を伝えに旅立つ・・・
3人が旅立って二日後・・焚き火の所にいた男は、三人の戦士が魔王の城から戻って来なかった事に深い哀しみを感じ、魔王の元へ行く決心をする。魔王城の門に耳を当て、イビキが聴こえるのを確認すると中に入っていった・・・
闇に包まれた世界に光が射し込む・・・
魔王を倒した男は、三人の戦士が魔王と戦い命を落とした事に敬意を払い、勇者として最後に戦いを挑んだ三人のおかげで魔王を倒せた事にした。
アルマ王国のイリヤ、ロシニアのストック、レイランドのガルシアの三人は勇者として、その名は伝説となった・・・
(終わり)