第九話「冬の幕間」
僕達は無事闇の都に帰還した。水の都を占領した犯人は、餓王廼刹と名乗る男だった。餓王なんて苗字は滅多に無い。恐らく、彼もどこかの一族の末裔なのであろう。取調べに対しては、黙秘を続けているらしい。
「まあ、そういう訳だ。取調べは我々の管轄外だから、しばらくはゆっくりしてもいいらしい。」音羽隊正は言った。ここは、神功旅帥や仙静旅帥、音羽隊正、雲月隊正の四人で構成される魔術師部隊南闇都隊の仕事場。今日は、音羽隊正と雲月隊正、そして僕しか来ている人はいない。
「こんな任務って日常茶飯事なんですか?」
「そんなわけないだろ。一応大国水の国の都が占領されたんだ。それも一人の男の手によって。こんなことがいつもどこかで起こっていると思うか?」
「そういえば、その餓王廼刹の影で糸を引いている組織とか人物なんかはいるんですか?」
「その可能性は多分ない。可能性があるとしたら、餓王廼刹が何かの組織の上層部であるということだ。」
「組織の上層部を送り込んでまで、水の都を占領する必要があったんですか?」
「理由は分からないが、その組織の目的途上で重要な部分を占めていることには間違い無いだろう。単独での犯行だとしても、ここまで大胆なことをするくらいならそれ相応の対価があるはずだ。」
「水の都を占領することと等しいほどの対価か…」
「今はあれこれ考えたってわからないから、このことは考えないでおこう。」雲月隊正が帰って来た。
「どこに行ってたんですか?」
「任務の報告と事後処理よ。あれだけこいつは任務に張り切っているのに、事後処理となると全部私に押し付けて。そんなことしてちゃ、そのうち竹箆返しを食らうから優君も気を付けときなさい。」雲月隊正には逆らわないように気をつけておこう。三人だけというのも、何か特別な雰囲気を感じる。特に音羽隊正と雲月隊正の間には。
「そういえば、亜弥子ちゃんのことなんだけど二人とも聞いた?伍長を飛ばしていきなり火長昇格だって。」火長というのは、一般的に准士官的なクラスの役職のことをさす。
「この前の軍功からしたらまあ妥当な人選なんじゃないの?確かに、まだ十歳だけど。」なんてことを話していた。
次の日も、昨日と同じ三人しか仕事場にはいなかった。昨晩聞いた話によると、神功旅帥と仙静旅帥は、早くも次の任務に着任して桃源郷村という闇の国東南部の景勝地付近に行っているらしい。聖は、怪我がまだ完全に治っていないらしく、治ったらすぐにでも魔術局に入るつもりだと言っていた。亜弥子は昇格後しばらく、休暇をとって魔国六道領に帰って姉や神奈備桃子を探しに行くらしい。今日も昨日と同じような感じなんだろうなあ、と思いつつ仕事場の扉を開けた。
「・・・・・・・・!」僕は目の前の光景に驚いていた。昨日までただの同僚関係だった音羽隊正と雲月隊正の距離が異様に縮まっている。いや、これはもはやカップル・・・・・。
「お、お、おはようございます。」
「優君、聞いて。私達付き合うことになったから。」雲月隊正がいつも以上に明るい声で言った。カップルとカップル以外の第三者が一人だけ、というのはその第三者にとっては非常に過ごしにくい。仕方がない、ロビーにでも行くか。突然のことに驚いて少し意識が遠のいていたのだろう。
「痛っ!」誰かにぶつかってしまった。
「すいませんすいませんすいません…」
「君か。音羽隊正が言っていた史上最年少で魔術局に入った天才魔術師ってのは。」顔を上げると、四人組の男(十七~八歳くらい?)が僕の周りを取り囲んでいた。