第四話「水都事件」
「この書類に書いてあることって、、、」
「そうだ。闇の国の進退を決めかねる重要な任務だ。正直今の闇の国の戦力じゃここを落としたらもう勝ち目はないだろう。事態は急を要するから君には急いで水の都へ向かってもらう。俺も後で行く。」音羽隊正は焦っていた。
それから一日半後、僕は水の国との国境に辿り着いた。不安で心が一杯で何も食べていなかった所為か空腹を感じる。しかしここで兵糧を食べるのは野暮だと自分に言い聞かせていたら、頭上から音羽隊正が舞い降りてきた。
「水の都は、ここからだと国境を越えてすぐだから当然防御が固い。ここを看破するには少数精鋭しかない。そこで、まず俺が囮として敵の前に姿を見せるから、君はその隙を突いて見つからないように水の国に入ってくれ。俺は、敵を振り切った後後続部隊と合流して水の都を攻める。一人で大変だろうが健闘を祈る。」音羽隊正は早口にそう言うと、
「では、始めよう。」と言って国境を越えて言った。音羽隊正は囮としての役目を果たしたのだろうか。恐る恐る僕も国境を越えてしまった。後戻りはできない。その刹那、毒矢が僕の数十cm横を掠めた。
「そこにいるのは分かっている。出て来い。」草薮から身の丈が僕の倍近くある大男が部下を引き連れて現れた。
「こんな子供一人だけを潜入させる訳が無い。他にも味方がいるようだ。お前ら探せ!」大男は部下と共に去って行った。音羽隊正はどうやら僕のような子供一人だけが国境を越えるとは敵は思わないだろうと考えたから僕を一人で行かせたのだろう。本当に侮れない人だ。隊正の言う通り、水の都はそう遠くなかった。任務令状によると、地下の武器庫を爆破しなければならないらしい。地図は同封されていないので自分で探すしかないらしい。戦時中の為か、大通りも閑散としていて、その分、見通しが利く。
「地下の武器庫なんてどうやって探すんだ?」なるべくならこんな所に長居はしたくない。早く任務を済まさなければ。まずどこでもいいから、地下に入ろう。近くの地下鉄の駅に入った。本来なら地下鉄の駅として人々でごったがえしているはずなのだが、今は使われていないみたいで電気すらついていない。昼間とは言え地下深くなので日の光がほとんど当たらず中は真っ暗だった。仕方ないので、僕は光を点した。
「火巫祀光明憑顕現…」僕の傍に光が点った。周囲は、大砲など様々な武器が犇いている。どうやら、これを爆破するらしい。ぼくは、もう一度
「火巫祀火之迦具土神召喚演舞…」と魔術呪詛を唱えた。あたりは、急激に明るくなりその瞬間何も無い空間が広がっていた。
「さて、これで任務が終わったし帰るか。」僕は闇の国境へ戻ろうとした。そういえば音羽隊正や後続部隊が到着していない。途中で何かあったのか、と心配していた矢先、上の方で大きな爆発音が聞こえた。僕は階段を上り地上へと出たら、入ったときとは全く異なる状況だった。
「優、急いで逃げろ!何が起きたかわからないがここは危険すぎる!」音羽隊正が叫んだ。僕は我武者羅に走り続けた。どれだけ走り続けただろうか。気付くと、音羽隊正の姿が見えなかった。そのかわり、目の前には僕と同じ容姿の少年が立っていた。