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第三十一話「忘れ物」

 荊園の訃報は瞬く間に廼刹や翳鬼、華爛王府に届いた。廼刹や翳鬼はあくまで個人の為、この報せを受けた後には暫く身を隠す必要性があった。しかし、華爛は荊園死せりと聞くと軍を大挙して爛魔街道(魔国と華爛を結ぶ街道)伝いに攻上ってきた。聖たち荊園方面の部隊や魔国府や神奈備領の部隊、城下守護の部隊も急いで合流して、爛魔街道の宿場町である籠鳥(ろうちょう)に陣を構えた。

 籠鳥は奢州と似たような都市であるが、有史には華爛が攻めて来るという記述が残っていないように、一切要害としては意味を成していない。

「荊園はただの謀叛だが、華爛は本国もちゃんとある。どうすればいいんだ?」

 聖が皆に尋ねた。皆は悩んでいたが、僕の脳裏に、ふと、ある作戦が思いついたのだ。

「奢統威がいない今、ここにいる全員が戦争の経験が皆無だ。そのため、戦術は華爛に劣るだろう。でも、裏を返せばその分華爛は魔国の戦術を侮っていることになるのだから、戦術なんて考えずにただ猪突猛進していけば逆に不意打ちになるんじゃないの?」

 全員が、こんな馬鹿馬鹿しい軍師なんて前代未聞だ、と思っているのが表情から窺える。ただ一名を除いては。

 その一名とは、他ならぬ葉竹亜弥子である。

「私は優の言う通りだと思う。だって下手な戦術たてて時間食うよりは、絶対スピーディーに動いたほうがいいじゃない。」

 まさか、この案を亜弥子一人だけが賛成してくれるとは思いもみなかった。亜弥子は普段から僕の戦術を始めとする様々な所で文句をつけたりしている。僕は亜弥子の表情を見てみたが、亜弥子は僕の方に向かって笑みを浮かべていた。彼女は妖艶な色気こそないが、可愛げがある。しかし、亜弥子の表情が急に真剣になった。

「ねえ。」

「何?」

 一同が亜弥子の方に顔を向けた。

「何か大事な事を忘れてない?」

「うんうん。」

 何十人もの人間が同じ反応をとるのは滑稽にも見えた。

「で、何が?」

 亜弥子はすこし呼吸を落ち着かせながら口を少し動かした。

「※▲○?йπ⇒」

「何、もう一回言って。」

「桃子ちゃんはどこなの!!!」

 亜弥子は大声をあげて叫んだ。

 一瞬にして、その場の空気が凍りついた。そういえば、神奈備桃子の姿が見えないのである。

「まだ荊園の城に幽閉されている。僕が急いで探しに行くから、みんなはここで華爛に備えて!」

 聖は急いで無人の荊園城に向かった。

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