第三十話「荊園死す」
聖は突然の荊園の発言に驚きを隠せなかった。
「どういうことだ?」
「人質をとったのです。」
「なにが目的だ?」
「私はただ黒法師家のことを考えて生きて参りました。その折、魔鉱石の存在を知り得たのです。」
「魔鉱石が欲しいのか?」
「いえ、もう魔鉱石が必要とされる時代は終わりました。私はこの度魔国王に即位するのです。」
「どういう意味だ?当主ですらないあんたが?」
「私は当主ではありません。しかし、私は他の御三家の当主よりも遥かに優れております。もちろん、あなたさまも優遇しますよ。」
「そんな勝手なまねしてどうする?それより、桃子は?」
「あの小賢しい娘はこの近くにいる。ただし、引渡しの条件として葉竹亜弥子を連れて来い。」
「なんで亜弥子を?」
「翳鬼様が御希望だ。」
聖は何故翳鬼が亜弥子を欲しがっているのか分からなかった。しかし、荊園と翳鬼が繋がっていることは証明されたのだ。
「亜弥子ならば華爛にいる。」
「ならば、話が早い。華爛には私がもう手を打ってある。華爛軍に捕虜として捕まった暁には直接翳鬼の所へ身柄を送る。翳鬼の所に葉竹亜弥子が着き次第、神奈備桃子は解放する。」
「なんで、亜弥子の身柄が欲しいのだ?」
「彼女は六道家の当主でこそございませんが、葉竹六道以来の名魔術師としての才能を兼ね備えています。」
「翳鬼は亜弥子の戦力が欲しいのか?」
「どうでしょう。」
「いい加減にしろよ!」
聖はその刹那、荊園に掴みかかった。周りでこれまでずっと黙っていた剣と雷と幽羅は必死に止めたが、聖はそれを振り払って荊園の肋骨付近を刀で抉った。
「聖様、本当の敵は私ではない筈…」
荊園は息絶えた。しかし、荊園の死は全ての始まりでしかなかったのだ。