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第二十七話「別離」

 荊園領は比較的山がちな地形であるせいか、卯月を迎えても未だに寒さが残る。①班と②班は合流して荊園の元へと急いだが、この地形のせいで足止めを食らっていた。荊園は峡谷を渡す橋を破壊してしまい、唯一のルートが確保できなくなったのである。

「これは、まずいな。」

 剣は途方に暮れたように云った。山落橋(さんらくきょう)とよばれるこの橋は、名前の通り交通の難所で、もともとまともな橋もなく、沢山の人間がここで命を落としていった。しかし、その橋があっただけまだよかった。橋がなかったら、十里も遠回りしなければならないことになる。どうするかと迷っていたとき、聖が偵察から帰ってきた。

「案の定、十里先の山道も三十里先の大道も全て敵がいて、ここを通るしか時間的には無理そうだ。」

「強行突破ってのはできないの?」

「突破できても、敵に自分達の存在を気付かれたら終わりだろ。」

「あんたたち、ごちゃごちゃ言ってないでとっととこんな谷くらい飛び越えなさいよ。」

 と、突然不意に桃子が口を挟んだ。

「どうやって飛び越えるんだよ?」

「あんたたち何の為に魔術使えんの?」

「空を飛ぶ魔術なんてあるわけないだろ。」

「風巫で強い上昇気流を起こしたら飛んでるみたいになるわよ。」

「じゃあ、お前からやってみろよ。」

「わかったわよ、そのかわりやったら着いて来なさいよ!」

 桃子はそういうと、ひょいと一丈ほどの岩に乗った。

「風巫地疾場。」

 因みに、魔術の呪文は読み方は特になくこれらの漢字は意味的なものを含んだ記号にすぎない。実際は、口に出してはいないが魔術者ならこの記号の大意を理解することが出来る。

 桃子はふわりと宙に浮いた。そして慎重に空気中を一歩ずつ進んでいく。端から見たら異な光景であった。真夏のアスファルトの上の空気が歪んで見えるように、彼女の足元の強い上昇気流も歪んで見えた。

「一体どんだけ力加えてるんだ?」

「馬鹿力だけは認めてやるよ。」

「見た目は可愛いのにこれじゃあ・・・」

 などなど、桃子は罵詈雑言を浴びせられていた。それに気を悪くしたのか、桃子は他の四人を置いて先に行ってしまった。

「どうすんだよ。間違いなく俺達が悪いだろ。」

「ああいう態度をとった桃子にも非があるだろ。」

 結局彼らは成す術なく十里先の山道を強行突破したのである。

「大分遅れをとったな。あいつまさか、荊園とっくに倒してもう帰ってるんじゃないか。」

「その可能性は充分だな。あの強さは人間じゃない。」

「聖様でございますか。」

 その刹那、聞き覚えのある声が。

「領内に神奈備家の人間が入り込んだので獄に下ろしました。聖様、この手柄はどうなさいますか。」

 意地の悪い笑みを浮かべながら、荊園は言った。

「どういうつもりだ?」

「そういうつもりでございます。」

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