第二十六話「御三家抗争縮図」
まず①班の様子から窺うことにしよう。
聖と桃子の関係はとてもじゃないが良好とは言えない。
「同じ班っていうのはくじ運が悪すぎるだろ。」
「それはこっちのせりふよ。なんで私があんたと組まなくちゃいけないの?」
「仕方ないだろ。僕だって嫌だよ。」
このように、お互いに罵詈雑言が飛び交うこと数時間。二人は荊園領との境まで来てしまった。
「どうすんの?」
「あんたも少しは考えなさいよ。」
ここ数ヶ月の出来事のせいか、元々四方が黒法師領のこの地には関所のようなものがなく、往来は自由といってよかった。
「そういえば荊園って何者?」
桃子が不意に聖に尋ねた。
「黒衣荊園ってのは、僕と優にとっては大叔父にあたる人間だ。普通の親戚ならそれでいいんだが、如何せん独占欲や物欲が強くて黒法師領の税率は上げるわ自分の側近を重用して歯向かう者には制裁を加えるわで大変だったんだ。そして、とうとう独立するとか言い出して。」
「でも、荊園もそれまでは黒法師家に対して尽くしてきたじゃない。それがいきなりまだ私達と同じ年の優が当主になって実権を握ったらそりゃ反抗するんじゃない?」
「何も分かってないんだな。荊園が黒法師領に蔓延らせた賄賂を断ち切ろうとして優は投獄されかけもしたんだ。荊園はいくら当主だからとはいえ遠慮なしだ。それに、父さんを殺したのは一説には荊園の手の者とも言われてるくらいだぞ。」
「ほんと、欲のかたまりね。」
「僕らが荊園に恨みを持つ理由、分かっただろう。だからお前も少しは協力しろ。」
「それとこれとは別よ。大体いくら地元とはいえなんであんた超上目線なのよ!これでも私は神奈備家の当主よ!」
「じゃあ、お前は僕と対等に渡り合える手柄を今回立てることができるのか?」
「やってみせるわよ!あんたにできることが私にできないわけないじゃない!」
実は、その一部始終を②班のメンバーが見ていた。
「あいつら遅いと思ってたらこんな所で喧嘩してたのか。」
幽羅が呆れながら言った。
「でも、あの二人なかなかいい感じじゃん。」
雷も続けて言った。
「お前らさあ、戦場に来ているって自覚ある?よくこんな場所でそんな話を出来るな。」
剣は二人を止めようとするが、
「「そんな大声出して聖たちに見つかったらどうすんだよ!」」
幽羅と雷がつい大きな声を出してしまった。
「お前ら御饌津から回ってきたのにもう追いついたのか。」
案の定、聖にみつかった。
「御饌津の方はどうだった?」
「なんもいるわけないじゃん。相手油断しすぎじゃない?」
「逆にそれが相手の策略かもしれないだろ。」
「聖は深く考えすぎだって。」
「なんで僕が幽羅に説教されなきゃいけないんだよ?」
(どうして男ってこんなにバカなの・・・)と、桃子は呆れていた。