第二十四話「連合軍」
畝傍さんは来て早々、
「この期に及んでなぜまだ決断しないのですか?」
と、僕に尋ねた。
「もしここで援護の兵を求めれば、六道家や神奈備家がこの機会に乗じて黒法師家を倒す可能性は充分にありえる。しかもそっちからわざわざ出向くとなるとますます怪しいですよね。」
「で、答えはどっち?六道家と神奈備家と和解するかそれとも・・・」
畝傍さんの質問は少し意地悪だった。要するに和解しなければ攻めると暗に示しているのだ。六道家が西方の黒法師家に牽制するのは恐らく北方の神奈備家か南方の例のあいつらに攻め入るからだろう。六道家と神奈備家が同盟を結んでいるということは・・・
「まさか六道家で南方に兵を進めるのですか?」
「そこまで読まれたのなら教えてあげましょう。今、六道家は御三家内でも最も力があります。もし北方と西方が安泰なら南方の華燗を攻めても大丈夫ということです。」
畝傍さんは、きっぱりと言った。しかし、華爛は魔国の南方にある強国で闇の国や六国などよりも強大な兵力を持っている。
「本気でそんなことを?一体何の為に?」
「大いなる目的の為。細かいことを知りたければ条件を呑んでもらえればいいんです。」
最初は講和条約でも結ぶのかと思っていた。こんな大掛かりな話になるとは・・・
「条件を呑みましょう。」
そういえば、なぜ今迄講和条約を結ばなかったのかが不思議でならない。黒法師領は北東に神奈備領、北西に闇の国、東に六道領、西には常荒海と呼ばれる文字通り船を浮かべることすらできないほど荒れた海、そして南には華爛がある。周囲に味方がいない孤軍奮闘の状況を打破するにはこうするしかなかったのだ。
「そういうと思って。」
それまで黙っていた亜弥子が、
「窓の外見てみて。」
と、言って窓の外を指差した。そこには、六道家と神奈備家の連合軍約三千名が隊列を組んでいた。
「黒法師家が条件を呑むことは想定内だったから予め兵を連れてきておいた。」
六道神奈備連合軍は黒法師家の兵よりも装備は旧式だが(聖が軍の改革を行い軍の装備だけは最新鋭のものにした)頗る士気は黒法師家の比べ物にもならなかった。
「これで出陣の準備は出来たわね。」
亜弥子は少し笑みを浮かべていた。
一方、闇の都では。
事を六国の王に報告したユーロ達一行が闇の都に帰ってきた。彼らは南闇都隊の隊室を訪ねたが、案の定僕や亜弥子はいなかった。
「君達もタイミングが悪いな。どうやら、魔国で一戦あるらしいから優達はいないよ。」
「そんなことより朗報です。」
剣が待ち侘びれないように言った。
「水王が闇王に直談判した結果、鴉が釈放されるそうです。」
「それはよかった。」
「で、鴉を迎えに来たんですけど。」
「つかぬことを聞くけど、君達まさか魔国に?」
「はい。それがどうかしましたか?」
「別にいいんだが、聖からの連絡によると魔国で起きている争いは黒法師家内での内乱を発端にした大分複雑な構図の戦争だ。詳細は知らないが変なことには巻き込まれるなよ。」
「わかりましたよ。大丈夫ですよ。」
「それより、優と亜弥子が廼刹を発見したようだ。」
「本当ですか?」
「しかし、翳鬼と接触している可能性が非常に高い。」
「翳鬼ですか。」
「水の国でも一時期大変な騒ぎになった奴だ。優達が生き延びたのはある意味奇跡だよ。」
ということで、ユーロ達一行も魔国に足を踏み入れることになった。これから起こる災難に気付かずに。