第二十三話「魔鉱石と叛乱」
魔鉱石。六道家の開祖が作成したとされる魔界屈指の魔道具である。しかし、六道家を含む御三家の者以外には操ることが出来ないような構造になっており、他の魔術研究者が研究できないので、魔術研究者の間では未知の領域として誰も研究する者はいない。そして、この魔道具のもう一つの意味。それは、御三家の者が使用可能という点からも分かる通り、その昔御三家の関係は非常に良好だったと思われる。だが、時が経つにつれその関係はますます悪化している。僕は御三家の本来の姿、そして翳鬼を追い払った程の強い魔力を思い浮かべつつこの魔鉱石を亜弥子に返還した。
そして、さらにその流れに拍車をかけようとする事件がおきた。
黒衣荊園が魔国黒法師領で革命を起こしたのである。荊園率いる革命軍は【大黒主義】を掲げて黒法師城から郊外数里の所で挙兵した。大黒主義とは言うまでもなく、黒法師家単独の魔国統一を目指すということであった。勿論、あまりの強固策に反論の意見は止まず黒法師領は二分される形となった。この報せを聞いた僕と聖は急遽黒法師領に向かった。当然、六道家や神奈備家にもこのことは知れ渡った。すぐに各将軍を集めて会議に諮った。
「荊園の勢力は?」僕は聞きたい事がたくさんあったが、とりあえず太宰に聞いてみた。
「恐らく黒法師領内の勢力の七割を占めています。」
「こちら側の方が不利なのか。」
「当主の権限を用いて何か出来るのでは?」賺さず飛梅から助言が入る。
「敵は大黒主義を掲げている。これをも打ち破るほどの強固策は流石にとらないだろう。」と、聖。
「だけど荊園も同族。僕と聖を亡き者にすれば自分が当主になれるだろう。」
「ならば、この戦争は勝つしかないのか。」
「どうやって勝つんだよ?」
「・・・・・・・こんなことをしていいのか分からないが・・・・・・・」
「何?」一同が聖に注目した。
「神奈備家や六道家と協定を結び兵の援助を出してもらうしか・・・」
「その手があるか。」
「お待ちください。」それまで黙っていた一人の老将軍が口を開いた。
「どうされました、稲荷将軍。」
「昨今の情勢から六道家や神奈備家は黒法師家に対して和解するという方針でここまできています。ですが、こちらから協定を結ぶための使者を遣わしてすぐに兵を貸せと頼んでも兵を提供してくれるのでしょうか。むしろ、その兵を用いて自分達を攻めて来るという疑いの念すら抱くでしょう。そうなれば、六道家や神奈備家との和解は当面は困難を極めることとなります。」流暢に自論を展開するのは御饌津稲荷。年齢は七十を過ぎているが、若き頃は当代最強の魔術師であった。今も自らの戦歴を活かして黒法師家参謀として職務を全うしている。正直、五十年以上も軍にいる彼はこのような場では当主よりも頼りにされ権限も強いのである。
「では、どうすれば。」
「優様と聖様には葉竹亜弥子という六道家の知り合いがおりますね。彼女に取り入ってみては以下がでしょうか。」優しい口調で稲荷は言った。
「ではこの中で使者をやってくれる人はいな・・・」
「そっちから出向かなくてもこっちから出向いてやったわよ。」
城門の所に亜弥子と畝傍さんが立っていた。