第二十話「再会と疑念」
昨今の戦争で闇の国の受けた被害は大きい。南闇都隊も例外ではなく、戦後処理に明け暮れていた。そんな中、闇の国に六国の使者がやってきた。今日の闇の都は大雪で交通機関もストップしており、使者を迎える部隊が魔術局本部に来れなかったらしく、南闇都隊が代わりに使者の接待を引き受けることになった。
震える寒さの中、僕と亜弥子は使者の為に魔術局の掃除をしていた。
「葉竹火長。」僕が、亜弥子に囁いた。
「私が少し火長に昇進したからって、何でそんなに恭しくしてるわけ?」
「冗談だよ。それより、使者っていつ来るの?」
「分からない。」
「なんで知らないの?」
「突然の事で聞いてない。」
「そうなのか。」なんて喋りながら作業を進めるうちに、
「おい、二人とも。六国の使者が来たぞ!」と、玄武火長に呼ばれた。僕も使者には興味がある。一目見ようと思い、急いで出迎えようとしたら、聖が僕の目の前に立ち塞がった。
「どうしたんだ。どいてくれ。」
「驚くなよ。優。お前ならこの使者は絶対に知っている筈だ。」聖は興奮しながら言った。
「誰だよ。僕の知っている人って?」
「俺達だ。」目の前には、僕の知り合いの七宝剣が立っていた。剣を含めて、この使者の面々は皆知り合いだ。聖も彼らのことを知っていたのは少し意外だったが。
「久しぶりだな。」僕が剣たちに声をかけた。
「ねえ、優。」亜弥子が僕に尋ねた。
「何?」
「この人達とどこで知り合ったの?」
「剣と浄階は黒法師家の分家の末裔だから、僕の親戚。雷と風伯と鴉は黒法師家に代々仕えている家の人。幽羅と焔摩は一時期僕と一緒に色々と新しい魔術を開発したり、黒法師家に伝わる魔術の研究をしてた。」
「そんな接点があったなんて、初耳。」亜弥子はすこし感心した様子で聞いていた。
「で、その人は?」聖が一番奥に立っている金髪の僕と同じくらいの年の美少年を指差した。
「この方はな。水の国の皇太子のユーロ・ウォルズ様だ。」幽羅が少し自慢げに話した。
「皇太子まで連れてきたのか?」
「連れてきたっていうか、本人の希望だけど。」
「よく、ラティウス王が許してくれたな。」
「あれ。聖ってラティウス様を知ってんの?」
「お前らもご存知の通り僕は水の都に住んでたからな。それに、会ったこともある。」
「そうだったのか。」
「そういえば、さっきから一緒にいるこの子は?」焔摩が僕に聞いた。
「この方はな。六道家宗家の葉竹亜弥子様だ。」僕は幽羅と同じように少し自慢げに焔摩に言ってやった。焔摩は笑いながら、
「六道家の人間も闇の魔術局にいるのか。まさか神奈備家の奴もいるんじゃないだろうな。」
「さすがにそれはいない。」
「あ、少し意外。」僕は焔摩と暫く雑談を愉しんだ。
「そういえば鴉は?」風伯がふと言った。そういえば、先ほどまでいた鴉がいない。元々物静かな奴だから気付かなかったけど。
「どこ行ったんだ、あいつ?」僕達は一日中探したが、その日は帰ってこなかった。
鴉が消えてから数日後。なんと、何事もなかったかのように鴉が帰ってきた。
「今迄どこ行ってたんだ?」
「熱が出て一人で休んでいた。」しかし鴉は完全に治っていたようだ。
「マジかよ。俺達真剣に探したんだぞ。」焔摩が言った。
「おい、大変なことになったぞ。」夜叉丸火長と良岑火長が南闇都隊の部屋に駆け込んできた。
「どうしたんですか?」
「餓王廼刹が脱獄した。外部からの誰かの手を借りて。」暫くは誰も、何も喋らなかった。廼刹との血戦は記憶に新しいので皆が鮮明にその時のことを覚えているからである。そして、視線が鴉の方に集まった。
「お前、まさか。」
「違う。僕はやっていない…」鴉は弱々しく言った。
「しかし、この状況は怪しいな。」良岑火長が追い詰める。
「絶対にしてない…」鴉の顔は恐怖で崩れていた。
「本当にしていないのか。」
「・・・」あまりのことに、鴉は失神してしまった。
「使者が早速裏切るとは。六国の王達は一体何を考えているんだ?」良岑火長は怒っていた。
「それより、鴉を連れていくか。」僕は、一瞬信じられなかった。鴉とは昔からの知り合いだ。だから、鴉がそういう奴じゃないと信じたかった。そんなようなことをするように感じさせる一面は持ち合わせていなかった筈だ。僕を始め、聖や剣、雷、幽羅、焔摩、風伯、浄階全員が唖然としていた。
「確かに、普段からあんまり喋らない奴だったし、いまいち本心は分からなかったけど、悪い奴じゃないよな。」浄階がそう口にした。
「六国の王は何もそんな指示を出していないのか?」
「そんな指示は出していない。しかし、、、」
「しかし?」
「誰にも言うなよ。うちの極秘情報だから。」
「何だよ?」
「ラティウス様直々に、闇王を暗殺せよとのご命令が出されている。遂行するかどうかは僕達に任せるらしい。」
「やっぱり、ただじゃ和平使節なんて出さないよな。変だと思った。」
「で、鴉のことだけどどうする?」
「まあ、やってないんだし最悪証拠不十分程度で釈放されるのがオチじゃないの?」僕達はこの時は少し楽観視しすぎたようだ。