第十九話「六国使節」
水の都で、水・光・獣・火・風・音の六国が同盟を結んだことは、あくまで内密にしておいてあった。しかし実際に闇の国に自らの嫡子を送るには完全秘密というわけにはいかないのだった。そのことで、水王ラティウス・ウォルズは悩んでいた。
「どうすればいいのだ?」彼は側近の七宝翡翠に意見を求めた。七宝翡翠は、魔界でも由緒ある名家であり、彼はその中でも最も優秀な人材として、水の国の大臣にまでなっている。
「ユーロ殿下に幾人かの従者をつけて、あくまでも和平使節として送り込んでみてはどうでしょう。」
「従者に良い心当たりはないか?」
「これは、親馬鹿かもしれませぬが、私の息子の剣などをお用いなさっては?」
「よかろう。あとは、余自身が優秀な人材を探す。仕事に戻ってよいぞ。」ラティウスは一先ず一人は見つけたが、彼は少なくともユーロを含め七~八人以上は必要だろうと考えていた。
翌日、ラティウスは六国の他の王に対して、
「誰か、余の息子のユーロの従者に相応しい人材をご存じないか?」と尋ねたところ、光王サンドラ・ライトが、
「光軍では火長だが、その高い魔術力には評価がある天魔雷という者がいる。もしよかったら、彼を使われよ。彼は、我輩の警備の為に水都に来ている。ご要望とあらば今すぐお呼びいたすが、いかがされましょう?」ラティウスは幸先よく二人目が見つかったことが満足だったのか、自分の足で、彼を迎えに行った。
光王が宿泊している宿では、天魔雷だけでなく七宝剣もいた。
「二人ともここにおったのか。そちたちには、余の息子ユーロと共に、闇都へ行く仕事を与えたいのだが。」
「話は、父から聞いております。僕にも心当たりがありますので、ご安心ください。」剣がそう言うと、
「では、そちに任せる。」と言って、ラティウスは帰って行った。
「杜埜幽羅は確定だな。」雷が剣に確認した。
「あの天才魔術師のか。姮娥風伯と火龍焔摩はどうだ?」
「誰だ、そいつら?」
「魔術研究者だ。俺達と年はさほど変わらないが、魔術の腕前はやばいほど強い。」
「そういえば、八幡浄階という奴が、音王に従軍して来ているが、そいつがなかなか面白い奴なんだ。」
「あとは、黒咲鴉だろ。あいつは、何が起きてもパニックにならないから、ああいうのが一人いてくれると助かるだろう。」
「それに忘れちゃいけないのが、黒衣の兄弟だろ。」
「でも、あいつら今どこにいるんだ?」
「さあ。この前、水都で餓王廼刹とかいうやつが、暴れまわった事件があったじゃん。あの時、闇からの援護部隊の中にいたって噂もあるけど。」
「それ本当か?」
「まあ、そんなことは闇都についたら分かることだろう。」
「あいつらがいないのは少し残念だがな。」
「もし、あいつが闇の魔術局にいて、僕たちと敵対することになったら?」
「それは、面倒だな。何せあいつらは黒法師家の魔術を駆使するから、僕らとは相性悪いじゃん。」
「そういえば、優と聖って一緒にいたところ見たことないけど。」
「そりゃそうだろ。あいつらは双子だから、後継者争いを防ぐために敢て離しておくんじゃないの?」
「あいつらは、二人揃われると、厄介な事極まりないだろうが、一人なら大丈夫だろう。」
「じゃあ、二人とも闇の魔術局にいたら?」
「そのときは、死を覚悟しよう。」剣は笑いながら言った。
「そんなことないよな。」
「もし、そんなことがあったら、僕らは命乞いをするしかないよな。」そんなことが本当に起こるなんていうことを彼らは考えても見なかった。しばらく、話しているうちに、杜埜幽羅と火龍焔摩、姮娥風伯、八幡浄階、黒咲鴉、そしてユーロ・ウォルズがやってきた。
「結構早かったんだな。」
「急がされたんだ。急を要することになった。」幽羅が言った。
「で、この人が水の皇太子ユーロ・ウォルズ様だ。」焔摩がそう紹介した。
「できれば、無礼講でお願いしたい。堅苦しいのは王宮の中だけで充分だ。」ユーロは呆れながら言った。
「で、なぜ急を要するんだ?」
「敵の面子に問題がある。」幽羅は少し落ち込んでいた。
「黒衣兄弟が二人とも闇の国の魔術局にいる。」焔摩のその一言で、剣と雷は閉口してしまった。