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第十三話「亜弥子と桃子」

 亜弥子は僕と音羽隊正に事情を話してくれた。

「そうだったのか。それより、六道家と神奈備家が手を組んでいることの方が驚いたな。」

「今の状況だと、六道家も神奈備家も単独だとやっていけないのが現状だからこうするしかなかったのよ。」

「場合によっては、黒法師家は危険の芽を潰す必要性が出てくるかもしれないな。亜弥子、両家の当主に合わせてくれないかな。」僕は一応、六道家と神奈備家を牽制する発言をしておいた。しばらくすると、六道家の当主がやってきた。

「私が六道家当主で亜弥子の姉の葉竹珊瑚。よろしく。」

「黒法師家当主の黒衣優だ。神奈備家の当主はここにはいないのか。」

「いないよ。」

「そうか。」

「で、私に何の用?」

「六道家と神奈備家が手を組んで、今度こそ本格的に黒法師家を倒しに来るつもりか?」

「そんなつもりは今のところないわ。あなたは心配しなくていい。」

「これまでの歴史の中にも相手を油断させておいて攻め込んできた例はいくつもある。その程度のごまかしで黒法師家を騙せると思うな。」双方の間に嫌悪感が流れた。

「あなたこそ、何のつもり?こんな所に短剣入れて。」珊瑚が僕の服の裏ポケットに手を入れて短剣を取り出した。

「六道領に入るときの護身用に決まっているだろう。たった二人の軍勢、しかも一人は闇の魔術局員だ。そんな自殺行為をするように見えるか?」

「そうピリピリしなくてもいいじゃない。私達に敵意はない。」

「・・・」

「優、その程度にしておけ。何度も言うが戦争に来たわけじゃない。」音羽隊正が僕を宥めた。

「あなたには関係ない。それより、早く六道領を出たほうがいいんじゃないんですか?次の任務もあることだし。」僕だって争い事は嫌いだ。然し、ここで黙って六道家の言いなりになるのはもっと困る。拘りあわないのが最善策だと思う。

「優。」亜弥子が僕に言った。

「何だ?」

「どうせ六道家とは拘りあわずにおこうなんて考えているでしょ。あなたも黒法師家の当主なんだから、逃げようなんて思わないことね。」亜弥子は珍しく機嫌が悪かった。機嫌の悪い亜弥子を見るのは初めてだ。六道家に対しての僕の態度に怒るのは致し方ないが。

「優、あなたは自分と黒法師家どっちが大事なの?」亜弥子は語気を強めて言った。

「黒法師家は僕の全てで、僕は黒法師家の全てだ。」

「一族に殉ずるの?」

「殉ずる?せめて僕の代の内は、黒法師家は六道家や神奈備家に潰されないようにしてやる。」

「強気ね。どこにそんな根拠があるの?」

「根拠は、六道家や神奈備家の敵意に基づいている。亜弥子が知らないのに、なんで黒法師家の人間が知り得るんんだ?」亜弥子はそれ以上何も言わなかった。音羽隊正は自分達の前を進んでいて、僕達の会話は聞いていない。

「帰りは桃源郷村を通るぞ。」音羽隊正が僕達に向かって言った。桃源郷村は闇の国と六道領との国境にある村だ。多分、神功旅帥と仙静旅帥の所に行くのだろう。

「それと、二人とも何さっきから喧嘩してるの?ちゃんと聞こえてたから。」音羽隊正が言った。

「何度も言うがあなたには関係ない。」

「そりゃ、俺は黒法師家や六道家には何の関係もない。だが、お前らの上司だ。」

「魔術局の上司にそんな権限は…」僕が言おうとした時、

「優が六道家の当主を見ていたときの目、憎しみに満ち溢れていたな。何か六道家との間にいざこざが昔あったんだろう。」

「・・・」

「そうなんだろう。」

「・・・」

「あったわ。」亜弥子が代わりに答えた。

「今から数年前、私達が確か六~七歳の頃に六道家と黒法師家の軍が天神山で衝突したの。合戦は数ヶ月に及んで、双方とも数千人の犠牲者を出した。優、まさかあなたあそこの軍にいたんでしょ。」

「うん。あそこで指揮を執っていたのは僕だ。あの時、僕は初めて人を殺したし仲間が殺されるのを見た。あの時はとても戦慄した。死ぬかと思った。それに、あの時六道家側の指揮を執っていたのは葉竹珊瑚だ。初めて亜弥子にあったとき、俺は殺すかどうか迷っていた。あのとき殺していたら、今はもうすでに黒法師家と六道家は空前の規模の大戦争が起きていただろう。」

「わかった。それなら、あなたの結論を聞かせて。六道家や神奈備家と戦争するか、それとも和解するか。」

「今すぐには黒法師家には戦争を始められるほどの軍力は不足している。だが、和解する気もない。機が熟したら、いつでも事を起こすつもりだ。僕達はお互いそういう運命なんだ。」

「運命はいくらでも変えられる。あなたが嫌なのは六道家や神奈備家と和解することじゃなくて降伏する事。非戦協定さえ結べればそれでいいって思ってるでしょ。」

「その策は平和を求めているように見えて、臆病風に吹かれているだけだ。」言い終わるか言い終わらないかの内に、亜弥子が僕に掴みかかった。

「優。あなたは六道家と神奈備家を滅ぼすことしか能がないバカなの?こっち親切に敵意がない事を明白にしてやったのに、それでもまだ不満なの?それとも殺戮が楽しいの?」亜弥子は完全にキレていた。その時、僕は自分がしたことに気付いた。

「亜弥子、ごめん・・・」亜弥子はまたいつもの美少女に戻った。

「あなたには失敗を犯させてほしくない。それだけよ。」僕は六道領に行って良かった気がした。

「さ、ここが桃源郷村だ。」音羽隊正の案内で僕達は桃源郷村に着いた。なぜ神功旅帥と仙静旅帥を訪ねたのかは分からないが、音羽隊正の事だから何か意図があるのだろう。僕の頭は次の任務の事で一杯になった。

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