第十話「六道家の真意」
―――その頃、魔国六道領では。
「あなた、今までとこ行ってたの?」女が言った。
「闇の都に…。」亜弥子が言った。
「闇の都?」女は少し苛立っているようだ。
「うん。」
「あなたが闇の都なんかに行っている間に、六道家と神奈備家は突然の当主交代で魔国中がえらい騒ぎになったのよ!なんか、黒法師家も当主交代したっていう話だし。そうそう。亜弥子、闇の都で何やってたの?」
「魔術局で仕事してました。。。」
「あ、そう。私てっきりただ遊び歩いていたんだと思っていて。まあ、あなたも六道家の人間なんだから少しは自重しなさいよ。」
「ところで、お姉ちゃん。黒法師家の当主のことなんだけど…」
「闇の都で何か手がかりでも掴んだの?」
「っていうか、魔術局にいて私の同僚だったっていうか…」
「で、殺したの?」
「え?」
「だから、殺したのかって聞いてんの。」
「殺したってそんな…」
「まさか、あなた取り逃がしちゃったの?折角のチャンスを無駄にして!」
「殺せるわけないじゃない。私の命を助けてくれたようなもんだし。」
「どうせ、素性隠して近寄ったんでしょ。」
「いや、六道家の人間だって言ったんだけど。」
「向こうが殺して来なかったの?」
「うん。」
「黒法師家の人間、しかも当主が六道家と自ら名乗っている人間を手にかけないはずがないのに…」
「違うよ。優も聖もそんな人じゃないから。」
「じゃあ、当主が変わったら方針も変わるっていうの?これまでは【御三家を武力で征圧する】が基本方針だったじゃないの。」
「お姉ちゃん。黒法師家全体にそういうイメージ持ってる?」
「私だって持ちたくないわよ。」亜弥子の姉は少し黙った。因みに、亜弥子の姉で葉竹珊瑚は、六道家の当主であり、亜弥子より四つ年上である。
「亜弥子ちゃん。」この場にいてこれまでずっと黙っていた神奈備桃子が話し出した。
「黒法師家の人間はあなたの信頼を得て、六道家や神奈備家に取り入ってから六道家や神奈備家を滅ぼすことだって十分に考えられるのよ。闇の魔術局なんか辞めて魔国六道領内に住めばいいじゃない。黒法師家と縁を切って。」
「いやだ!」亜弥子はきっぱりと言った。
「あなたが人に騙されるようなバカじゃないことは知っている。たとえ黒法師家の人間でもあなた自身が彼らを信用出来るなら彼らの元に行ってもいいんじゃない。」珊瑚が亜弥子に告げた。
「でも、私は亜弥子ちゃんがみすみす死んでいくようなところは絶対に見たくない!」桃子も負けじと反論する。
「これは、私達の一存でどうにかなる問題じゃない。朝臣議会に諮ってみるわ。」
「結果はどうだった、畝傍?」畝傍とよばれる部下の一人が亜弥子たちに言った。
「朝臣議会で話し合った結果、亜弥子様には魔国六道領にいなければならない、との判決が出されました。」
「そうなの。ありがとう、畝傍。」
「畝傍も言ってたじゃない。ここで縁を切っても黒法師家にはどうすることもできないのよ。御三家の中で今一番衰退している家なんだから。」桃子が亜弥子を宥めようと言ったが、亜弥子は何も言わずにその部屋を去って、自分の部屋に帰っていった。