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第一話「始まり」

 冷たい風が吹きつける。まだ十一月なのに、本格的な冬が訪れてきたらしい。結局今日も何もなく無駄な一日を過ごしてしまったようだ。悴む指を息で暖めつつ、急いで家路につく。この坂道を登りきったら僕の家だ。家といっても毛布とダンボールでできた質素なものでこれが住居といえるかどうか、自分でも不思議に思っていた。

 一ヶ月前までは、僕は黒法師家という魔界でも七王家に匹敵するほどの有力な一族の跡継ぎとして、育てられた。父親は物心ついた頃から僕に処世術のようなものばかり教えていた。母親は僕が産まれてすぐに病死して、姉だけが僕を可愛がってくれた。その時は、毎日食事にありつけた。今思うと幸せだったのかもしれない。しかし一ヶ月前のある日、事は起こった。黒法師家が親戚も含め皆殺しにあった。僕は辛うじて逃げ出したが、他の家族とは離別してしまい、路頭に迷っていた。誰が犯人かは皆目見当もつかない。父親が、黒法師家とは二千年来の敵対関係にある一族がある、という話をしていたことを覚えている。何にしろ、犯人は非常に恐ろしかった。死人のような目で、反抗した僕の家族や親戚を数分の内に屠ってしまった。僕は犯人の強さと残忍さに戦慄した。

 そんな回想をしているうちに、坂道を登りきった。僕の家が見えた。いつも通りのマイホーム。ある点を除いては。

 僕の家で僕と同じくらいの年の少女が眠っていた。近所の住人だろうか。それにしては、様子がおかしい。恐る恐る声をかけてみた。

「あ、あのー…」

彼女は眠ったまま起きようとはしない。そうとう熟睡しているようだから起こすのをやめようと思った瞬間、

「ご、ごめんなさい!」

彼女は目を覚ましたようで勝手に寝ているのがばれて慌てている。

「こんな所で寝ていると風邪ひきますよ。」

少し話題をそらしてみた。彼女は少し安心した様子だ。

「どうしたんですか?」

僕は尋ねてみる。彼女はしばらく口を閉ざしていたがやっと話し出した。

「実は私、家族が死んでとりあえず上京したんですがホームレス生活を送るしかなかったんです。」

話を聞いていくうちに、彼女が闇の都ではなく魔国六道領から来た事、姉と生き別れになったこと、そして家族が皆殺しにされたことなどを話してくれた。「家族が皆殺し」という彼女の言葉を聞いて、少し驚いたが突然の事で彼女に何も言葉をかけられなかった。しばらく二人の間に沈黙が流れた。もう一度話題をそらすことにしよう。

「あなたは、今晩どこで寝るんですか?」

「今晩寝るところですか。実は…」

すこし彼女は言いにくそうにしていたので、

「どうしたんですか?」

「実は今晩寝る場所がなかったから、あなたの毛布とダンボールを勝手に使ったんです。」

「そうですか。よかったら、僕はあっちのベンチで寝ますんで、ここ使ってください。」

「ありがとうございます。」

「ところで、お名前は?」

「葉竹亜弥子です。あなたのお名前は?」

「黒衣優です。」

ちなみに、黒法師家というのは、初代当主の通称が黒法師だったという二千年も前の逸話からきていて、本当の苗字は黒衣なのである。

「え、黒衣?」

彼女は何かを言いたそうだったが、それ以上は何も言わなかった。



 翌朝、目を覚ますと既に彼女は起きていた。

「昨晩はありがとうございました。なんとお礼をいったらいいか。」

「こちらこそどうも。それより、今晩の寝床なんですけど僕の使い古しでもいいんなら…」

言い終わらないうちに彼女は、

「そんなことしなくても結構です。」

と軽くお辞儀をして走り去ろうとした。その刹那、彼女の首にかけている宝石がついた首飾りが目に飛び込んだ。

「きれいな首飾りですね。」

彼女は立ち止まった。

「実はこれ、二千年前から我が家に伝わる魔鉱石とよばれる宝石なんです。」

「二千年前か、、、」

「あなたもしかして黒衣ってことは黒法師家に何か関係ありますか?」

これは予想外の質問だ。彼女に敵意はなさそうなので正直に答えよう。

「そうですけど。」

「実は私、六道家の人間なんです。」

六道家。以前父親が言っていた。黒法師家と敵対関係にある家柄。彼女の清楚で優しげなイメージとはとても似ても似つかない。僕と彼女のカミングアウトにより話すことが増えた。そして、彼女とは寝食を共にするようになった。(寝食といっても食事の機会なんてほとんどないのだが。)

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