【悲報】我魔王、人々の魔力を集めでぶつける技をコツコツチャージしながら勇者がやって来たの。勝てるかこんなん。
タグに婚約破棄が入っていますが主役は悪役令嬢でも王太子でもなく、婚約破棄はこの話のギミックの一つです。
ギュンギュンギュンギュン
「魔王!覚悟しろ!この勇者がお前を退治してやる!」
こんにちは、魔王です。今、我は魔王城に乗り込んできた勇者と対峙してます。
ギュンギュンギュンギュン
で、さっきから勇者の頭の上でギュンギュンうるさいのが勇者の必殺技の魔力ん玉です。
「さあ、勝負だ魔王!」
「タンマ」
「何だ!トイレか?ハンカチ忘れたか?」
「いや、その、勇者くん、それ何?」
我がバカみたいにでかい魔力ん玉を指摘すると、勇者は嬉しそうに笑った。
「世界中の人から集めた魔力ん玉だ!ここに着くまでにこんなにでっかくなったぞ!」
「そうなんだスゴい。じゃなくて、魔力ん玉ってそういうのできへんだろ。我は先代勇者ともやり合ったから詳しいのだ」
そう、我は魔力ん玉の仕様に詳しい。勇者専用スキルである魔力ん玉は理論上はいくらでもチャージして火力を上げられるが、数々のデメリットが存在する。
まず、玉の維持に集中しないと直ぐに霧散するから、他の行動が取れない。移動すらしんどいはずだ。
そしてコスパも悪い。魔力ん玉は勇者が最後に習得するスキル。だから十分育った勇者が普通に殴る方がダメージ効率が良い。
さらに言うと、この世界の人間の大部分は自分の事しか考えないクズだから、そもそも魔力を勇者に分けようとしないはず。
「答えよ勇者。それだけの魔力をどうやって強欲な人々から集めた?どうやって維持したまんま我が軍勢を突破しここまで来た?教えてくれるまで戦闘はナシだ」
「え?え?聞きたい?しょうがにゃいなあ~。ならば教えてあげよう。そう、あれは一年前、俺が勇者の力を授かったばかりの頃…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「アーロー波ー!」
ビ〜ム!
「うむ!勇者の基本技アロ波もいい感じになってきたのう!」
勇者となった俺は直ぐには魔王退治には向かわなかった。国王様によって先代勇者のじっちゃんの家に送られ、基礎をひたすら学んでいた。
「なあじっちゃん、俺はいつ旅に出られるんだ?もう、基礎は全部教わったし、早く魔族に試し撃ちしてえぞ」
「あせるでない。まだ最後の教えが残っとる。ワシからの最後の授業、魔力ん玉の使い方じゃ!」
遂に来た。勇者の最終奥義にして人々の憧れの技、魔力ん玉!
「魔力ん玉キター!俺すっげえワクワクしてきたぞ!あ、でも魔力ん玉って実際は大した事ねえんだろ?それに、俺が使うにはまだレベル足んねえし、今教わっても意味ねえかな」
「安心せい。確かに魔力ん玉はこの世で二番目のガッカリスキル。じゃが、ワシは引退後この技を研究し国王と力を合わせて最高の技に昇華したのじゃ」
じっちゃんはそう言うと、右手を高々と上げて豆粒ぐらいの魔力ん玉を発生させた。
「ハアハア、これはワシ一人の魔力で作った魔力ん玉。威力はアロ波の半分以下じゃゼーゼーハーハー」
じっちゃんは消耗しきっている。今なら俺でも勝てそうなぐらい弱っている。
「やっぱ効率悪いよ。魔力ん玉はロマン技だよじっちゃん」
「いんや、こっから人々に呼びかけ魔力ん玉を大きくするぞい。えー、ただいまより臨時の魔力ん玉チャージタイムに入りまーす。ご希望の方は腕を大きく上げて魔力をお送り下さい」
シーン
じっちゃんが念で人々の脳内に語りかけるが、魔力ん玉のサイズら豆のままだった。やっぱ駄目じゃんと思ったその時、じっちゃんの次の言葉で状況は一変した。
「今回の魔力チャージにご協力していただいた方は、魔力値に応じて税金が免除されまーす」
ギュイーン
玉が一気に膨らみ、俺の金玉より大きくなった。
「さらには、魔力値に応じて王国からの返礼品が贈られまーす」
ギュイーン
玉が俺の金玉二個分になった。
「今回はお試しキャンペーンなので、申し訳ありませんが百万魔力値到達で締め切らせていぢきまーす。次回のキャンペーンをお待ち下さーい」
魔力ん玉はバレーボールぐらいの大きさ、俺の金玉の五倍ぐらいまで成長が止まり、安定した。
「ふう、ざっとこんなもんじゃよ」
「凄えよじっちゃん!他人が苦しんでも見て見ぬふりしてる国民から秒で百万魔力集めちまった!」
「ほっほっほ、国民が欲深いならそこをつつけば動く。気づいてみれば簡単な事じゃよ。お前も魔力ん玉を使える様になったら色々試してみるとええ」
「俺にもできるかなあ…。俺、勉強とか苦手なんだよな」
「若者よ恐れるな。魔力ん玉とは人々の力の集まり、人々の望みを知ればどこまでも育つのじゃ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「と、まあこんな感じで俺は魔力ん玉の真髄を先代勇者のじっちゃんから教わった。そして、旅に出て魔力ん玉が使えるまで成長した時、じっちゃんのやった様に、免税と返礼を付けて魔力を募ったんだ」
「いや待て、それだと魔力ん玉を大きくする説明しかしとらんではないか。これをキープしたままどーやってここまで来た?」
「ああ、それはこーゆー事さ」
勇者は魔力ん玉に手を付き、ゆっくりと半回転させた。すると、十人ぐらいの人間が魔力ん玉にぶら下がっているのが見えた。
「紹介しよう。魔力ん玉キープ担当の王国貧民層の皆さんだ」
「君ら、なんでこんな危険な仕事してんの?」
我は思った事を素直に口にした。いくら貧乏でも、戦う力の無い奴が勇者の旅に同行し、いつ暴発するか分からない魔力ん玉をキープする仕事なんてやらないはずだ。つーか、我ならやらん。他に仕事はいくらでもあるだろうに。
「ちょっと我、納得出来ないかなー。お前ら底辺とはいえクソ王国民じゃん。勇者についてく納得する理由教えてくれなきゃ、その魔力ん玉は食らってあげられないなー。実際どーなんよ?」
我が貧民に聞いて見ると、彼らは涙ながらに自らの現状を語り始めた。
「去年王太子が婚約破棄して国が衰退し、帝国の属国になって技術革命したがや」
「帝国のレベルについてけない中年男性王国民はマジで仕事ねーんだがや」
「わしは魔力ん玉フェチで一度でいいから魔力ん玉を直に触りたかったんだがや」
「俺は王太子のクラスメイトってだけで最前線送りにされ、頭が悪いからってここに回された」
「私、王太子に罰ゲーム告白したら、真実の愛とか叫ばれてなんやかんやで貴族じゃなくなり、それで娼館か魔力ん玉しか働き先が無かったんです」
「僕は王太子!」
ちくしょう、納得するしかねえ!負けを認めた我は両手を広げ、魔力ん玉を受ける姿勢を取る。
「あい、分かった。その魔力ん王を産み出し運んできた勇者よ、お主の勝ちだ。さあ来い!我が人生に悔いは結構あるが、面白かったぞ!」
「ならば喰らえ!うおおおおー!魔力ん玉ー!」
ギュインギュインギュインギュイン
勇者とキープ役達に押されて、魔力ん玉が我に迫る。我は即座に第二形態に変身し受け止めるが、やはり徐々に押されていく。
「くそっ、我が我がこんな…!!」
「これが人々の力だ!」
「こんなクズどもの魔力に我が負けるのが!?」
「魔王よ、確かに人間にはクズもいる。いや、クズばかりだった。しかし、クズはクズなりに使い道がある!クズを切り捨てようとしたお前は、クズから搾り取った俺に負けるんだ!」
「馬鹿なー!」
「これで終わりだぁー!えー、ではここで高額魔力納付者のお名前を読み上げさせていただきます」
勝利を確信した勇者は、原稿を取り出し感謝の言葉を読み始めた。
「ループマン公爵様三十億魔力ポイント、騎士団長シュンサツ様十一億1110万魔力ポイント、国王ヨハネス五世様十一億魔力ポイント、じっちゃん十億3400万魔力ポイント」
こいつら、節税できるからって魔力送りすぎだろ。我を四回ぐらい倒せる魔力送りやがって!
というか、人間がその気になれば勇者抜きで魔族を撃退するのは可能なのだ。お前ら本当今まで何してたんだ。
「では、これにて今回の魔力ん玉キャンペーンを終了とさせていただきます!また、次回の魔王復活をお待ち下さい!魔王、最後に何か言いたい事はあるか?」
死にかけの我に勇者がマイクを向けてきた。言いたい事なんて色々ある。例えば、魔力を納付した人間は丸一日ぐったりしてるから、魔力ん玉に協力すれば会社を休める様にすべきとか、我のドロップアイテムを次回の返礼品にすればより魔力が集まるとか、公爵が危険すぎだとか、本当言いたい事だらけだ。
だが、間もなく我は消滅する。言いたい事も言えないこんな状態じゃあ、一番言いたい事だけを大声で叫ぶべきだろう。
「勇者の金玉でかすぎー!!」
そして我は死んだ。
この話の元ネタは、あの世界一有名なフィニッシュ技(フィニッシュできるとは言ってない)です。皆さんもこのタイプの技はどうすれば有効に使えるか妄想したでしょう。私もその一人、今日はその妄想を形にした話でした。