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伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き  作者: 実川えむ
第8章 狼は実は大型犬だったようですわ

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第52話

 獣人がスキンシップが多いのは理解した。獣人同士だけではなく、人に対しても、頭をなでたり、ハグしたり、好意の表れなのは、わかっているつもりだ。

 ただ、その中でも、私が言いたかったのは……獣人特有の、所謂、発情期の発散させる行為のことだ。

 それを身近な年長者が行うというのは、彼らにしてみれば、オムツを変えるような行為と一緒なのだと、聞かされた時には、唖然とした。


 ――()()()()()


 そう、人として、ありえない感覚なのだ。

 だけど、彼らにしてみれば、それが常識であり、一般的に行われているのだというのだ。その延長で、そのまま恋人になったり、婚姻につながる場合も、稀にあるらしい。

 パティの場合、そうなりたいと思ってしまったのかもしれないけれど、元々、へリウスにはその気はなかったのだろう。


 しかし。

 その獣人にとって普通なことであっても、私には、許せないのだ。

 私は、ゴクリと唾をのみこみ、どう言うべきか、言葉を選びながら話し始める。


「えと、その……貴方がパティにしたようなこと、これからも他の誰かにもするんだったら、絶対、無理」

「……パティにしたこと?」


 首を傾げているあたり、全然、まったく、思い当たっていないことが容易に想像できた。

 女の私から、こんなこと言わせるなんて。恥ずかしくて、頬が赤くなる。


「はぁ……」


 思いっきり溜息をつくと、ビクンッと肩を揺らして、一気に不安そうな顔になった。


「わ、悪い、どうにも、思い浮かばなくて……ど、どの行為のことを言ってるんだ?」

「……貴方、ミーシャが言ってたこと、覚えてないんではなくて?」


 こっちは恥を忍んで、言っていたのにっ!


「え、あいつ、なんか言ってたっけ……」


 まったく理解していないへリウスに、堪忍袋の緒が切れた。


「まぁっ! あんな破廉恥な行為をしておいて、覚えていないなんてっ! 獣人には当たり前であっても、私たち人族には不貞行為にあたるのよ! それを理解していないなら、絶対、無理! 嫌! さっさと城から出てって!」


 立ち上がって叫ぶ、私の猛烈な怒りに、へリウスの顔色が真っ青になる。


「ふ、不貞行為!? え? あ、もしかして、発情期のアレかっ!」


 アレか! じゃないわよっ!

 これ以上叫ぶのははしたない、と思って我慢するんだけど、体がブルブルと震えるのは抑えられない。


「あ、いや、アレは、しない、大丈夫だ!」

「何が大丈夫なのよっ!」

「アレは、番がいない者しかできないんだ」

「貴方には、私がいたじゃないっ!」


 そう、番がいたらできないなんて、言い訳に過ぎない。


「ちゃ、ちゃんと、番っていないとダメなんだよ!」


 ……はい?


「だから、その、ちゃんと番になっていると、アレはできなくなるんだ」

「なによ、それじゃ……私と番っていないから、ああいう行為をしたっていうの?」

「あ、う、うん、まぁ、それが、普通のことだったし……」


 私の顔から表情が抜け落ちた。


「じゃぁ、何。へリウス。その理屈だと、貴方は、私が他の男性と、そういうことをしても、理解できる、ということよね?」

「なんだと! そんなこと許さないっ!」


 そう叫んで立ち上がったと同時に、自分がしたことを思い返したのか「あっ」と声を漏らして、固まった。


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