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伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き  作者: 実川えむ
第8章 狼は実は大型犬だったようですわ

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第46話

 憂鬱な気分に押しつぶされそうになった時、部屋のドアが叩かれた。


 ドンドンッ


 ドアをノックする音で、相手がわかる。使用人たちは、もう少し遠慮気味にノックする。こうも遠慮のない叩き方をするのは、ミーシャだ。


「はい」

『入ってもいい?』


 やっぱり。

 短い滞在期間だというのにすぐにわかってしまって、つい笑みが零れてしまう。


「どうぞ~」

「……あれ、寝てた?」

「あ、ううん。ちょっと横になってただけ」


 ベッドから身を起こしたところを見られた。まぁ、ミーシャだからいいか。


 彼女が、まさかの日本人だと言うのを教えてもらったのは、こちらに戻った翌日のこと。それも、私のように転生ではなく、死にかけのところを強引に召喚されたらしい。その召喚した連中は、すでにそれなりの報いを受けているそうだ。

 そして、今では薬師として、あちこちを点々としているとか。


 私が転生者だというのは、『ロリコン』というキーワードが決定打になった。そりゃそうだ。こっちにはそんな言葉はないもの。

 その上で、神様から聞いた話、ということで転生のことについて教えてもらった。

 なんでも、地球からの転生自体が珍しいことなのだとか。ミーシャがこちらに来て、まだ数年らしいのだが、そんなところに、短期間のうちに私がいるのはおかしいらしい。

 もしかしたら、すでに私自身が過去に一度、あるいは、何度か、こちらで輪廻転生の輪に入っていたのではないか、というのだ。

 でも、私とミーシャの会話の感じからも、大きな時代の誤差は感じられない。ほぼ同時期じゃない? って思うのだけれど、もしかしたら、地球と、こちらの世界とでは、時間の流れというのも、違うのかもしれない。

 なんとも不思議な話で、そもそもが神様と話をした、なんて、普通なら信じられないし、そうなの? としか言いようがない。だけど、自分の前世、なのか、前々世なのか、その記憶があることを考えると、一概に信じられない話ではないのかもしれない。


「そろそろ帰ろうかと思って、挨拶に来たの」

「え、帰るって」

「うん、これでも一応、お世話になっている家があるのよ。その保護者から、そろそろ帰ってこいってお達しが」


 苦笑いしながら言うミーシャ。そんな彼女にも帰るところがあったことに、少し、ホッとする。


「それでね。メイリンちゃんに渡しておきたいものがあってね」

「え、何々」


 ミーシャが掌を私の方に差し出した。


「……うん?」

「あ、見えないか」


 空っぽの掌を見せられて、首を傾げている私に、ミーシャが今更気付いたみたいに言葉にする。


「姿を見せて」


 ミーシャの言葉に、ぽわんと淡く緑に光る玉が掌の上に浮かぶ。


「え、な、何、これ」


 ふわふわと浮かぶソレに目が釘付け。


「この子は風の精霊」

「せ、精霊!?」

 

 その言葉に反応したのか、スルリと宙を舞う光の玉。そして、驚きで声がでない私。

 魔法のある世界にいるのは自覚してはいたものの、精霊までいるとは知らなかった。

 光の玉は私の方に近寄ってきたので、私も掌を開いてみせると、その上にとまった。顔があるわけでもないのに、何やらこの子はご機嫌なのが伝わってくる。


「普通は姿は見せないんだけどね。一応、精霊魔法を使う人とか、一部の人には見えるみたいだけど。この子を置いていくね。ていうか、メイリンちゃん、王都で勉強してたって聞いたけど、なんで、そんなに驚いてるの?」

「……魔法関係はまったく教えてもらえなかったのよ。おかげで、伝達の魔法陣も使えないの。前世で使ってた電話とかメールとか思い出したら、もう、不便で不便で。逃亡中の苦労ったらないわ。今思うと、なんでって思うくらい魔法とは接してなかったわ」


 私の掌の上で、ポヨポヨ浮かぶ光の玉に自然と口角があがる。うむ、可愛い。


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