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伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き  作者: 実川えむ
第6章 もう我慢の限界ですっ!

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第37話

 あまりの勢いに、咳き込む私。


「ああ、すまん!」

「ゴホッ、ゴホッ」


 私の隣に座り、背中を撫でるヘリウス。


「はぁ、はぁ、なんだって言うんですか。触れないでって、言ってるでしょ!」

「ああ、そんなことを言わないでくれ」


 耳をペタリとさせてオロオロするヘリウスに、今までの彼の姿がまったくと言っていいほど重ならない。あまりの違いに、困惑する。


「どうしたというんです。今までの貴方だったら、高圧的にモノを言いそうなのに」

「くそっ」

「ヘリウス様」

「ああ、俺だって、ここまで抑えられなくなるとは思いもしなかったんだ」

「ここまで?」


 ヘリウスが大きくため息をつくと、長くなるが、と前置きをしてから話し出した。


 獣人には番という関係が存在するという。

 これは、結婚によってできる関係とは違い、本能的なもので誰にも止めることができないものらしい。例えば、既婚者であっても、番になる者と出会ってしまえば、番の方を優先してしまう。

 それが許せない者は離婚することもあるし、最悪は夫婦関係にある者が、番を殺すなどということもあるらしい。その逆もしかり。

 獣人同士であれば、互いの匂いで番の存在を知ることが出来るのだが、中には、人族やエルフ、ドワーフなどの他の亜人の場合、まったく気付かないらしい。

 だから時々、獣人による誘拐騒ぎが起きるとか。


「まさか、私が貴方のその『番』だとでも言うの?」

「ああ、そうだ」


 そう言うと今度は私を抱きしめて、襟足の辺りに唇を寄せてくる。


「ちょ、ちょっと、ヘリウス様っ!?」

「この匂いがたまらない……」


 ふんすふんすと鼻息が荒いヘリウスに、私の方は目が白黒。

 獣人にそんな特性があるなんて、知らなかった。そもそも、ヘリウスに出会うまで、生で獣人に会うこともなかったのだもの。

 大きな手が私の身体をまさぐり始めて、焦る私。


「へ、ヘリウス様! まだ、話、途中っ!」

「あ?」


 あ? じゃないっ!


「私が、その、ヘリウス様の『番』だというけど、そんなの、いつから気が付いてたのよ」

「そんなの最初からさ」

「さ、最初!?」


 私たちとヘリウスが出会ったのは、まだ王都から逃げ出して間もない頃。あんな時期から、気付いていたというの?


「え、でも、その割に、普通というか、むしろ、放置気味というか」


 今の彼の振る舞いと比較したら、雲泥の差。

 というか、あれで、その『番』なる存在に好かれているとか思わないわよね?


「それは、まだあの頃は我慢できたからさ」

「我慢?」

「ああ、番の匂いといっても、最初は微かなものだ。獣人同士ですら、ぼんやりと意識しだしてから、互いの匂いが徐々に濃くなっていく。メイの場合、成人前ということもある。そこまで番の匂いは強くはなかった。だから耐えられた」


 それが、互いに行動を共にするようになり、私の匂いが徐々に強くなってきていたのだという。そんなの、自分じゃ全然わからないわよ。

 だいたい、その『番』なる存在に対して、突き放したような態度だったり、それこそ、他の女といちゃついて見せるとか、絶対、ぜーったい! おかしい!


「いちゃつくと言われても」

「え、あれを違うっていうの? いや、むしろ、あのレベルじゃ獣人じゃ普通なの? あれが普通だったら、やっぱり、獣人無理」


 へリウスたちのは、ただの仲間同士でするようなスキンシップのレベルじゃないよね? あのイチャイチャ具合はさ。


「待て待て、だいたい、相手はパティだぞ。あんな子供など、相手にしてないし」

「いやいやいや、私とかキャサリンから見たら、どう考えても男女関係ある風に見えるし。ていうか、あんたたち、セフレなんじゃないの? 朝っぱらから、いやらしい」

「だ、男女関係!? せ、せふれ? なんだ、それは」


 思い出したら、鳥肌がたってきた。


「ああ、嫌だ。気持ち悪い。離れてよっ」

「メイ、誤解だ!」


 ヘリウスの悲痛な叫びが部屋の中に響いた。


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