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伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き  作者: 実川えむ
第4章 面倒な相手に出会ったようです

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閑話:王妃エリザベート(2)

 王妃は、自分は国王に王子を見せることが出来なかったからこそ、まだ、仕方ないと思えた。しかし、メイリンのそれは違う。まだ、婚約以前の状態なのだ。反故にされては、こちらが困る。


「相手の娘というのは」

「スタール侯爵のご息女で……」

「あの女狐か」


 スタール侯爵も食えない男ではあったが、その娘も学校での評判は芳しいものではない。

 しかし、あの程度の女に嵌るとは、王太子も情けない。その上、女を抑え込めずに、科の者の妄言をメイリンに聞かせてしまうとは。王妃は呆れるしかない。


「はぁ……。所詮、身体だけであろう。まったく……王太子は暫く北の塔へ閉じ込めておけ。女狐は地下牢へ。罪状は国家反逆罪」

「なっ、それは、厳しすぎるのでは……」

「何を言うか。メイリンが戻らねば、我が国は滅びの道しかないのだぞっ」


 苦々しく言う王妃の言葉に、王族でないと受け継げない『守護の枝』の存在を思い出し、近衛たちの顔が強張る。

 

「認識の甘さは、親の教育もあろうがな。国王陛下も、スタール侯爵も、仕置きを与えねばならんな……して、メイリンはどうした」


 近衛騎士たちはビクリと身体を震わす。


「メ、メイリン様は城を飛び出していかれました……申し訳ございません」

「ふぅ。閨教育もまだな14の子供には早すぎたか……急ぎ、辺境伯邸へ迎えにいけ」

「はっ!」


 近衛騎士達は、速やかに部屋から出ていった。


 ――せっかく私の言うことをよく聞く娘に仕立て上げたというのに。


 ギリリッと歯を食いしばる王妃。

 王妃には『守護の枝』の他に『洗脳』という、王妃へと好意を持つ相手に対して行える能力があった。けして強い力ではない。もっと強ければ、国王も側妃にべったりとはならなかっただろう。

 王妃は、まだ幼く、母を恋しがるメイリンを手懐け、自分の思うような大人しい王太子妃候補へと育ててきた。


 ――王妃である自分に対して、反抗的なことができないように。


 そして、魔法も使えないように、学ばせなかった。何かあっても、辺境伯や実母の元へと連絡などさせないために。

 まさか、連絡以前に、本人が飛び出すとは予想もしていなかった。あの大人しいメイリンが、飛び出すほどのショックを受けたということに、使えない王太子を忌々しく思う。

 王妃は再び冷たいベッドに、一人横たわる。


 ――どうせ、すぐに王宮に戻るしかないのだ。メイリンはあんな王太子でも愛しているのだから。


 そう思い、王妃は目を閉じる。


 しかし、王妃は知らなかった。

 その時、すでにメイリンが王都を飛び出していたことを。

 その報告を聞いたのは、翌朝のこと。

 王妃は激怒したが、大事にするわけにもいかず、内密に近衛騎士の一部に、メイリンの探索を命じることになる。


 しかし、その頼みとなる近衛騎士が、使えない副長とその部下たちだったのは、彼らが空手で戻ってくるまで、知ることはなかった。


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