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伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き  作者: 実川えむ
第4章 面倒な相手に出会ったようです

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閑話:王妃エリザベート(1)

 夜更けに寝室のドアを、激しく叩く音が響く。

 王妃、エリザベート・オル・トーレスは、顔を顰めながら、一人寝の広く冷たいベッドからゆっくりと身体を起こす。


「……何事です」


 寝入りばなだったこともあり、声は不機嫌そのもの。


『も、申し訳ございませぬっ。至急、至急、お伝えしたき事が』


 押し殺した声は、王太子付きの近衛騎士のモノ。

 何をやらかしたのだ、と苛立たしく思いながら、王妃はガウンを羽織り、立ち上ると、指先を動かすだけで寝室のドアを開けた。

 複数の近衛騎士たちが、恐縮しながらドアのそばで立ち止まる。


「お、お休みのところ申し訳ございませんっ」

「……アレが何かしでかしたのか」


 王妃が『アレ』というのは王太子しかいない。

 冷ややかな王妃の言葉に、騎士達は背中に冷や汗が流れていく。


「はっ……王太子様が、メイリン様以外の女性の部屋にて……」

「ふんっ、それはいつものことであろう」


 自分の腹を痛めた子供ではないが、国のためにもと諦めて、王太子としたのだ。当然、エリザベートは王太子の動向は把握していた。

 どんな愚かな行為をしていようと、ただ見守るだけ。それを諫め、育てるのは王妃の仕事ではない。母である側妃や国王が為すべきことだと思っている。

 王妃が育てるのは血の繋がりのある、メイリンのみ。


「そ、それが、メイリン様が、その……部屋の中をご覧になってしまわれまして……」

「何だと……まぁ、それも時間の問題ではあったか……だが、その程度であろうが」


 自分など、ずっと国王の訪れもないのだ。それでも、王妃の地位を守らねばならない。それがこの国を守る王族の役目。

 メイリンへの妬ましい気持ちを抑え込み、そう思ってきた。


「し、しかし、王太子様が、その」

「はっきり言えっ」

「その娘を側妃にすると約束していると、メイリン様がお知りになりまして」

「なんだとっ!」


 ――そんなことは、聞いていないっ。


 王妃の怒りの表情に、近衛騎士たちも身体を震わす。


「お、お戯れにおっしゃったのかもしれませんが、その相手の娘が、メイリン様の目の前で、そのように王太子殿下に取り縋りまして……」


 エリザベートはギリギリと歯を噛みしめる。

 あの時、辺境伯から提示された婚約の条件など、聞くのではなかった。


『側妃は結婚から十年間は置かない。十年の間に王子が産まれなかった場合のみ、側妃を認める』


 側妃の存在の忌々しさは、王妃であるエリザベートは嫌と言うほど、理解していた。

 そして、それを知るからこその、辺境伯からの条件なのだろうとも。


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