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伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き  作者: 実川えむ
第2章 初めてのケモミミ!?
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閑話:メイド マーサ(2)

 屋敷に戻ったかと思ったら、普段着たこともなかった乗馬服に着替え、颯爽と馬に乗って飛び出して行かれたメイリン様。今まで、こんな姿を見たことがなかっただけに、残った我々は暫し、呆然としていた。


「なんとまぁ……あれは本当にメイリンか?……まるで別人のようだな」


 ポツリと呟かれた辺境伯様の言葉で、一気に現実に戻る。

 皆が無言で動き出す。私も急いでメイリン様のお部屋へと戻る。馬車で移動ということは、恐らく、私は囮をしろ、ということだろう。ご本人は、どこまで意図されてたかわからないが、私はメイリン様に任されたことに喜びに震える。


「マーサ、これを持っていきなさい」

「ポール様」


 メイリン様がさきほどまで着ていらしたドレスを、クローゼットに戻していると、執事のポール様が小さな小箱を持っていらした。


「これは?」

「伯爵様から、お前に万が一のことがあったらメイリン様に顔向け出来ない、と仰せでな」


 中には、美しいブレスレット。手にとり、右手に通すと、ふんわりと暖かい空気が身体を包んだ。


「守りの腕輪だそうだ。盗賊などに襲撃されても問題ないように護衛を多くつけるつもりだ。追手も、むやみにこちらと事を構える気はないとは思うが、念には念をいれておくに越したことはない」

「はい」


 キャサリンほどではないけれど、私もメイリン様をお守りするために武術の心得はある。いつもスカートの下に忍ばせているナイフを確認しながら、私は急いで自分の部屋へと戻る。そこにはメイド仲間のローラが、私の荷物の入った小さなバッグを用意していた。


「一泊二日くらいかしらねぇ?」


 呑気な声で言うローラに、ついつい笑い声をあげてしまう私たち。

 メイド服から普段着ているワンピースに着替えると、バッグを受け取り、玄関先へと向かう。まだ王宮からの使者などは来ていないようだ。

 私は目の前に用意された伯爵家の家紋の入った馬車に乗り込んだ。


                *   *   *


 馬車はかなりのスピードで、辺境伯領に向かう街道を走る。馬車の周りには、護衛として辺境伯の私兵が六人、馬に乗って並走していた。

 メイリン様がどの方向に向かったのかはわからなかったが、私たちがまだ追いついていないところを見ると、別の道を選ばれたのだろう。

 これなら私たちは、後からくるかもしれない追手の邪魔をすることは出来そうだ。

 最初の町を通り過ぎ、森を抜け、平原を走る。遠くで狼のような遠吠えが聞こえてきたが、私たちはひたすら前へ進む。

 しかし、所詮、馬車。馬だけで追いかけられてしまえば、すぐに追いつかれるのは予想していたことだった。

 窓のカーテンの隙間から除くと、追いかけてきたのは、四頭の馬。乗っているのは格好からして、王城の騎士か。


「止まれ! 止まらんか!」


 後ろから大声をあげて追いかけてきた壮年の騎士が、馬車の前へと躍り出たせいで、馬車は急停車させられる。


「危ないではないかっ!」

「そちらが止まらぬからであろう!」


 一触即発の場面で、馬車の中から声をかける。


「何事ですか」


 窓にはカーテンがかかっていて、外からは中は見えない。


「はっ! 恐れ入ります。こちらはゴードン辺境伯家の馬車とお見受けします。至急、王都に戻っていただきたく」

「なぜです?」

「申し訳ございません、我々は詳しいことは聞いておらず」


 私はカーテンを大きく開けて、外を見る。壮年の男は私の顔を見て、驚いた様子。もしかしたら、メイリン様の顔を知っているのかも。男はすぐに取り繕ったように、表情を抑えたようだ。しかし、額のところに青筋が立っているのが見える。

 メイリン様のような美少女でなくて悪かったわね、とイラっとしながら見つめる私。


「こちらも急ぎ辺境に戻らねばならないのです。私の父が危篤ということで……」


 かつて魔物に襲われてケガをした父の姿を思い出しただけで、涙が浮かぶ。実際には、殺しても死ななそうな、辺境防衛隊の隊長のファリア様の側近だけど。


「そ、それは、失礼した。その、馬車の中を改めても、よろしいか」

「……何かございましたの?」


 私は何も知らない、という前提。まぁ、中を見られても困りはしないけれど。相手は答える気はないようなので、ため息をつきながらドアを開ける。


「失礼する」


 そう言って無理矢理乗り込んできて、中を見るだけ見ると、さっさと出て行き、挨拶もなく、王都の方へと引き返していった。


「必死ですなぁ」


 辺境伯から話を聞いているのか、護衛の一人が呆れたように呟く。


「自業自得でしょう」


 私の言葉に、他の面々も頷いている。


「とりあえず、我々はこのまま辺境へ向かいましょう。後をつけてくる者がいないとも限りませんから」


 護衛の言葉に頷くと、私は馬車に乗り込む。ゆっくりと動き出したことで、少なからず緊張していたのであろう、私は身体の力が抜けた。


「メイリン様がご無事でありますように」


 私は両手を握りしめながら目を閉じ、必死に祈った。 


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