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第2話

前回のあらすじ


前回の戦闘より三日後、意識を失っていた縁が目を覚ます。

診察と博士の言葉より、観月は縁が気絶した理由がP波動に耐え切れなくなりだしているのだと知る。

「有沢君大丈夫?怪我したって聞いたけど……?」

「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」

「怪我大丈夫だよな!?明日の練習試合の助っ人なんだから!?」

「判ってる、医者からも大丈夫だってお墨付きをもらってるからね」


縁が目を覚ました翌日の常磐高校、二年三組は三日振りに学校へ来た縁を取り囲む様にクラスメイトが募る。

クロノギアスによる襲撃があった翌日は、縁が目を覚ましていなかった事もあって欠席しており、その時の欠席の理由が『クロノイド制圧軍による破壊活動の被害を受けて怪我をした』という形で学校へと報告され、その事が公表された時は教室の空気が一気に重くなり、今日は今まで縁が居なかった反動か平時の倍近く騒がしい。


「あー……うるせぇ……」

「高坂は毎日見舞いに行ってたものね、それじゃあここまで騒がないか」


縁の帰還にざわめく教室に耳を塞ぎながらジト目を向けながら光がそう呟くと、同様に騒ぎから距離を取っている花音が苦笑いを浮かべながら溜め息混じりに人だかりを目目にして口を開く(なお、花音の言葉は耳を塞いでいる光には届いていない)

そんな彼等の元へ、同じ様に縁に向かって行くクラスメイト達を見て溜め息をついている久遠と、右手首に包帯を巻いているゼシアがやって来た。


「三日空けただけでこうなるとはな……」

「それだけ、高坂君が信頼されているって事でしょ?それよりもゼシア君は大丈夫なの?」


クラスメイト達に囲まれる縁の状態を見て溜め息混じりに呆れる久遠に、花音がそう答えると今度は目線を縁からゼシアへと変え、光達も視線が彼の右手首の包帯へと向く。


「大丈夫だ、流石に三日も経てば痛みも引く」


そう言って彼は右手首に巻かれた包帯を外してその下にあった湿布を露にし、さらに湿布を剥がして包帯と湿布の下にあった手首を三人へと見せると、そこには小さな青アザが出来ていた。


「本当だな、かなり小さくなってら」

「前に見た時は手のひら位の大きさだったのに、治りが早いわね」

「回復速度から考えて、完治まであと二日程か……」


三人は湿布の下の青アザを見るや光は前に見た時と大きさを比較して彼の言う通り治癒が進んでいるのだと実感し、花音も光と同様に前の時と青アザの大きさを比較してその治癒速度に舌を巻く。

久遠は青アザの治り具合から完治にどれだけの日数が掛かるかおおよそ計算して口に出すと、ゼシアはそれに頷いた。


「ああ、医者からも五日程で完治すると言われている。あと二日だ」

「そうなんだ、だったら体力測定には間に合うわね」


あと二日で完治すると聞き、来週に行われる体力測定は無事に行えると花音が言うとゼシアは頷く。来週の月曜には体力測定が行われ、そこで光と縁、ゼシアの三人は勝負を行う事となっている。


「二人が怪我をしたって聞いた時、部長は大変荒れてたのよ?」

「あー……済まんな、一人に対処任せて」

「別にいいわよ、過ぎた事だし……二人にも事情があったしね」


二人が怪我をした事で三人の勝負を記事にするという計画がポシャりそうになってしまい、荒れに荒れた白部の相手を押し付けてしまった事を光と久遠が花音へ頭を下げるが、苦笑いしながら手を振って二人を制す。

花音は二人が縁の見舞いに行っていた事を知っており、縁の本当の欠席の理由も二人から聞かされていた。


「コホン……それよりも、有沢君も学校に来た事だし、今日はちゃんと顔を見せるよのね?」

「あ、ああ、今日は俺達も部室行くわ。な?」

「ああ、縁が来ているという情報を部長なら既に掴んでいるだろうし、そんな状態で来ないとなると、明日が恐ろしい……」


話を変える様に咳払いをして今日の部活について来るのか確める花音に、光と久遠は揃って頷く。

久遠の言った様に白部ならばこの騒ぎから縁が学校に復帰した事も既に気付いていると確信し、その様な状態で無視して帰るとなると、明日に絶対白部からの追及が来るのが目に見えていた。


「流石に今日は荒れてないと思うけど……一応覚悟しといてね?」

「了解」


縁が来ているから今日は荒れてないだろうと花音は言うが、万が一の事を考えて三人に覚悟を促すと光は頬をひきつらせながら頷き、久遠は呆れた様な溜め息をつきゼシアは苦笑いを浮かべる。

そんなやり取りをしていると朝のホームルーム開始五分前を告げるチャイムが鳴り、教室の騒ぎが収まり始めた。


「それじゃ、ちゃんと覚悟しといてね?」

「おう、また後でな」

「それじゃあ、僕も戻らせてもらう」


光達に手を振って自分の席へと戻って行く花音に光はそう言いながら手を振り返し、ゼシアも光に苦笑いを浮かべながら小さく頭を下げると花音に続いて自分の席へと戻って行く。

そうして光と久遠が残されると、二人の元にクラスメイト達から解放された縁が苦笑いを浮かべながら戻ってきた。


「みんな心配してくれてたんだね」

「そりゃあそうだ、今までの積み重ねってやつだな」


縁は自分がここまで心配されていた事を想像していなかったと言いたげな口振りでクラスメイト達を見回すと、光が呆れた様子で答える。文武両道、容姿端麗、ジャナ部に所属する以前は様々な手伝いを学校内外で行い、ジャナ部に所属して以降も、彼の手を借りたいと申し出てくる人達が居る程、彼の人気は凄まじい。

そんな縁がクロノイド制圧軍による襲撃で怪我をして学校を休んだと言われたら、彼の手を借りていた人達は大いに心配していた。


「そうなんだ……あんまり意識した事は無いんだけどね」

「お前が意識してなくても、お前が思っている以上に注目を集めてるって事だよ……っと、そろそろ先生が来るな」


自分の評価に対して無頓着な発言をした縁に、光が他者の視点からどう見られているのかを説いているとその最中に担任の足音を聞き取る。


「とりあえず、今日は部活に顔を出せよ?俺は顔出しに行くからな?」

「私も顔を出す。縁に関しては、無理強いはしないがな」

「うん、ありがとう」


足音が近付いてくるのを耳にしながら光が話を切り上げ、縁にジャナ部に顔を出す様に言うと久遠はあくまで無理強いはしないと補足する。それを聞いて縁が小さく頷いていると、教室の扉が開き廊下から担任が入ってきた。


「ひぃ、ふぅ、みぃ…………よーし、今日は全員居るな、それじゃあホームルームを始めるぞー」


担任は教壇に立つと生徒達の人数を数え始め、縁が来ているのに気付くと僅かに目を見開くがすぐに戻して数えるのを再開して全員の出欠を確認すると、力なくホームルームの開始を告げた。







「あー……長かった……」

「仕方無いじゃない、今まで明確に怪我人が出なかったけど、有沢君やゼシア君が怪我しちゃった訳なんだから」


授業の全てが終わり帰りのホームルームを終えた放課後、ジャナ部の部室に向かって光達五人が歩く最中、疲れた様な声をあげて光が溜め息をつき、そんな光を見て花音が呆れた声をあげる。

本日の昼休み後、残るは五時限目と六時限目の授業を控える際に、突如として避難訓練が敢行されたのだ。

突然の避難警報に明確な原因が解らなかった生徒達はパニックに陥り、光と縁、久遠の三人はパニックになる教室の中で思わず外にクロノイド制圧軍が来ていないか確認したが何も来ていない事に困惑し、担任が教室にやって来て抜き打ちの避難訓練だと告げるまで騒ぎが収まる事はなかった。


「だがあそこまでパニックに陥るとは思わなかったぞ……」


久遠も突如鳴った警報でパニックに陥った教室を思い出して大きく溜め息をついてそう言うと、縁が顎に指を宛てながら答える。


「どんな事が起きてるか目に見えて無かったからじゃないかな?目に見えていたらどんな事が起きてるか理解出来るから、どう対処すればいいのか判るからね」

「有沢君の言う通りだ。原因不明の災害の方が人はパニックに陥りやすいからな」


縁の推測にゼシアが頷きながら肯定する。それを聞いて花音はなるほどと納得した様に頷くが、久遠はそんなものかと首を傾げ、光はそんな久遠に呆れた様な溜め息をついた。

そんな風に話し込んでいると五人は部室の前へとたどり着くが、誰一人として扉を開けようとはせず入口前に立ち止まる。


「……どうしたの高坂?」

「いや……えらく静かだな……って思ってさ……」


扉に手を伸ばそうとしてそのままの姿勢で固まる光に花音が不思議そうに声をかけると、光は困惑した様子で室内の様子を語る。光の言う通り普段であれば新聞作りに集中していない限りは白部の声が聞こえる部室は、不気味なまでの沈黙を保っている。


「……何か新聞のネタでもあったか?」

「私何も聞いてないんだけど……」


新聞のネタになりそうなものを見つけて、それの記事を書いているのか昨日部室へと顔を出していた花音へと光は問いかけるが、花音が首を振って知らないと言うと頬をひきつらせる。


「いいから開けるぞ。変に入口で屯する方が後が怖い」

「「あっ!?」」


そんな二人の躊躇いなど何処に吹く風と言わんばかりに、久遠が先に立つと扉を開けて部室へと入り、縁とゼシアも彼女に続いて部室に入って行く。


「「…………」」


残された二人は唖然として互いに顔を見合わせるも、久遠が言った様に早く顔を出さないと後が怖いと思い、意を決して部室へと入った。


「…………」

「ぶ……部長?」


部室に入った二人を出迎えたのは一人黙々とキーボードを打ち続ける白部の姿だった。新聞のネタになる様な事は無かったと言った花音に光が疑いの目を向けると、花音は知らなかったと言わんばかりに首を振り、先に入った三人も入室と共に気付かれるのかと思っていた様で、一心不乱にパソコンと向き合う白部を見て言葉を失っている。

五人が部室に入ってしばらくすると、作業が一段落したのか白部がエンターキーを叩く音が部室へと響く。そして思いっ切り伸びをした所で、五人の入室に気が付いて目を丸くして口を開いた。


「む、諸君来ていたのか?」

「来ていたのか……って、どれだけ集中してたんですか」

「すまんすまん、修羅場だったものでな……っと、高坂部員と滝音部員は三日振りだな」

「どうも……」

「そちらは、変わり無い様で」

「有沢部員にタキオライト部員も、怪我の調子はどうだ?」

「あ、何とかなってます」

「もうすぐ完治するのでお構いなく」

「よし、これなら体力測定での勝負企画はポシャりそうにないな」


ようやく五人が来ていた事に気付いた白部に花音が呆れた口調で問い詰めると、後頭部を掻きながら謝罪をして久し振りに顔を出した四人へと話しかける。

縁とゼシアには怪我の調子を問いかけ、二人から快調だと聞くと白部は笑みを浮かべて小さく頷くと再びパソコンへと目を向け、机に置いてあったメモ用紙を取り出すと何かを書き写し、花音へと手渡す。


「これは?」

「第二プランで用意した卒業生が活動している職場に対する感想取材、その取材先の住所だ」


花音へと手渡されたメモ用紙には『有岡幼稚園』と記されておりその下には滝音市の住所が記されていた。


「企画がポシャる事前提でスケジュールを組んでしまったからな、それでも許可を取った以上行くのが筋というものだ」

「そういえば、三人の勝負がポシャった場合の企画はすぐに用意するっ!みたいな事、三日前に言ってましたね……」


メモ用紙をもらい白部の話を聞いた花音が、思い出したかの様に頷きながら答える。

縁とゼシアが怪我をして、企画がポシャりそうになり大荒れした際に白部が口にしていた事を花音は思い出した様で、一人納得している所を光にジト目で睨み付けられた。


「コホン……それで、取材する日は決まってるんですか?」

「ああ、明日だ」


光の視線を誤魔化す様に咳払いをした花音は何時取材を行うのか白部へと確認を取り、告げられた明日という言葉に目を見開く。


「あ、明日!?本当に言ってるんですか!?」

「元々三人の勝負企画がポシャった際の第二プランだと言っただろ。だから早期に行われるのだよ」

「お、おい……」


明日取材を行う事に目を丸くして白部から説明を受ける花音だったが、その最中に何処か引いた様子の光が口を挟む。


「ど、どうしたのよ高坂……」

「め、メモよく見ろ……」


何事かと花音が問いかけると光はメモ用紙を指差し、花音も光が指差した先へと目を向ける。そこには──


「……へ?『PM2:00から』って……二時から!?まだ学校ですよ!?」


メモ用紙の住所の方に目が行ってて花音が気付かなかった場所には、午後二時から取材を行うと書いており、それを認識した花音がぎょっとした表情で白部を問い詰める。


「仕方無いだろう、向こうの時間が取れたのがその時間だったのだから。わざわざ園児達が居る風景を撮れる様に調整してくれたんだぞ?」

「で、でも学校が……!」

「既に許可はもらっている。そこで働いている卒業生の様子も見てきてくれって、その卒業生の担任だった教師に言われたな」

「ほ……本当ですか……?」

「目で判る証拠がほしいなら許可証があるが」


花音の懐疑的な視線に対して白部は頷くと、許可証を部長机から取り出して見せつける。そこに記されていた日付を見て花音は事実だと見せ付けられ頬をひきつらせ、覗き込んだ光達も各々の反応を返す。


「うーわ、マジだ……」

「むぅ……」

「ず、ずいぶんと行動力があるんだな、光の部長は……」

「僕、病み上がりなんだけどね……」


光は花音と同じ様に頬をひきつらせ、久遠は滝音コーポレーションからの迎えの事を考えたのか難しい顔をし、ゼシアは僅か三日でここまで漕ぎ着けた行動力に舌を巻き、縁は病み上がりであるのにいきなりのハードスケジュールに苦笑いを浮かべる。

花音を含めた五人のそんな反応を見てもスルーした白部は手を叩いて注目を集めると、五人に向かって口を開く。


「とにかく、明日はその有岡幼稚園にて取材しに行く事となっている。準備はしておくように!」


そう高らかと宣言する縁に、光達はただ頷く事しか出来なかった。


(『有岡』……まさか、ね……)


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