第1話
この話より第12節に入ります。
今後とも超光戦機フォトングラストをよろしくお願いします。
前回のあらすじ
五機のクロノギアスを相手に圧倒されたレイ部隊を救ったフォトングラスト。縁は決死の覚悟でジョン・ドゥ率いるクロノギアス相手に立ち向かう。
数多の敵を意思の力で蹴散らした縁はジョン・ドゥ諸とも彼の乗るクロノギアスを両断するが、遂に体が限界を迎え力尽きてしまった。
ジョン・ドゥ率いる無人クロノギアス七機部隊が壊滅してから三日、クロノイド制圧軍基地は先の戦闘の事後処理に追われていた。
「ちぃ……ずいぶんな置き土産を遺してくれたな……!」
執務室でペンを手に取り書類にサインを記していくジェネルは、思わず先の戦闘で出撃したパイロットに対して悪態をつく。
彼が搭乗していたクロノギアス・ウィッパーはジェネル管轄の軍部でもリーリス管轄の諜報部でも、ましてやシュタイン管轄の技術局でも無い所属不明の機体で、事後処理の際に送られてきた差出人不明のデータから初めて名前を知った機体であり、それ故に何処の責任問題となるかここ三日大いに揉めていた。
技術局ではクロノギアスを開発した記録が無かったがあれ程のクロノギアスを作り出せるのは技術局しか無いと軍部に責め立てられ、諜報部を挟んで一旦の休止となっているが諜報部が何かしらの情報を掴んだとなると事態が急変する状態となっている。
そんな緊迫感の中でも戦闘結果の報告書を書かなければならないジェネルは苛立ちの余り手にしていたペンを握り潰すと、執務室の扉からノックが鳴った。
「入れ」
ノックで昂っていた気が落ち着き、冷静さを取り戻したジェネルはノックをした者を部屋へと招き入れる。
「邪魔するよ」
すると扉を開けてリーリスが執務室へと入ってきて、ジェネルに一瞥すらせずに来客様のソファーへと腰を下ろした。
「邪魔しに来ただけなら帰れ」
「ああ、あんたは報告書を書かなきゃいけないんだっけ?大変だねぇ」
「……邪魔しに来ただけなら帰れ、三度目はない」
部屋に来ては早々好き勝手に振る舞うリーリスにジェネルが青筋を浮かべながら釘を刺すと、リーリスはお手上げといった様に両腕をあげる。
「あせんじゃないよ、あたしは情報を伝えに来たんだから」
リーリスの言葉に書類を記すジェネルの手が止まる。彼女──もとい諜報部が今集めている情報と言えば一つしかない。開発元不明のクロノギアス・ウィッパーの開発記録と、パイロットの素性の調査だ。
「いい知らせと悪い知らせ、二つがあるんだけどどっちからがいい?」
「ふざけているのか貴様……」
それなのに情報を出し惜しむ様な振る舞いをするリーリスにジェネルは再び青筋を浮かべるが、深呼吸して落ち着きを取り戻すと小さく「いい知らせからだ」と呟く。
「これはあんたにとってのいい知らせだね……クロノギアス・ウィッパーの開発記録、見つけたよ」
「っ!そうか、そして俺にとっていい知らせということは……」
「ああ、開発元は技術局さ」
技術局で開発されたといわれ、ひとまず責任の所在が明らかになった事にジェネルは安堵の息を零す。これで会議を終わらせられると安堵していたが、そこでリーリスの言った言葉を思い出した。
「……悪い知らせというのは……?」
まだ悪い知らせを聞いていない、それを聞く前に結論を出すのは早いと判断したジェネルは残る知らせを問う。
リーリスは懐から一枚の写真を取り出し、執務机に伏せて差し出した。
「これが、あのクロノギアス・ウィッパーのパイロットの顔さ」
「パイロットが判明したのか?だがそれはいい知らせに含めていい気がするのだが……」
パイロットの写真というもう一つの証拠に、ジェネルは何故それが悪い知らせに含まれるのか眉をひそめながら写真を表にする。
そして、そこに写っていた男の顔を見て、ジェネルは思わず目を見開く。
「なっ!?こいつは……!?」
「ザード・サクリテール、クロノイド制圧軍に対する数多の殺傷事件を引き起こした凶悪犯として、あんた達軍部が拘束した男さ」
驚愕の表情を浮かべるジェネルに対しリーリスは冷静に写真の男について説明する。写真には件のザードが、今まさにクロノギアス・ウィッパーへ乗り込もうとしている光景が写し出されていた。
「馬鹿な!?この男は……!」
「そう、こいつは犯した罪状が罪状なだけに、一般の刑務所じゃなくて軍部が管轄する監獄へと投獄されている……はずなのさ」
軍部が管轄する監獄の囚人がパイロットになっていると知り、動揺で目が揺れるジェネルをリーリスはジロリと睨み付ける。
ジェネルは慌ててパソコンを立ち上げ監獄の情報を纏めているサーバーへとアクセスし囚人について調べ、再び目を見開く。
「なっ!?これは!?」
監獄のサーバーにはしっかりとザードの出所履歴が記録されていたが、それを初めて目にしたジェネルは驚愕の余り口をパクパクと開閉する。
「更新の日付は……駄目だね、こっちもか」
混乱するジェネルの横からいつの間にか立ち上がったリーリスがパソコンを覗き込み、サーバーの最終更新日を目にするとそこには今日のつい十秒前の時間が記されていた。
「技術局でも似た様なものさ、向こうもシュタインがいつの間にか行われていた開発に目を見開いていたよ」
「……トップである我々にすら内密の行動か……」
ジェネルの推測にリーリスは頷く。だがそれと同時にジェネルには一つ疑問が浮かぶ。
「それにしても、ただの凶悪犯かと思っていたが、この男がマーダーズの一員だとはな……」
シュタインやリーリス、そして自分に内密で動き戦闘を行ったザードを目にしながら、前にリーリスに聞いたマーダーズの幅広さに困惑する。仮にも皇帝の私兵であるのに、この様な男が取り立てられている事がジェネルには信じられなかった。
「……悪いけど、そいつはマーダーズじゃないよ」
「!!」
「本当のあいつらは痕跡すら残さない……こいつはただの使い捨ての駒さ」
だがジェネルの考えを否定する様に告げられたリーリスの言葉にジェネルは驚きの表情を浮かべるも同時に彼女の説明を聞いて納得するが、同時に恐ろしさに背筋も寒くなる。
自分達トップの三人にも秘密を貫き、いざ実行の際には捨て駒を出すといった徹底した秘匿性、そんなもの達が自分達の周りに居るなど考えたくもない。
「……とりあえず、あんたは報告書をどうにかしな。どう書くかはあたしに不利益にならなければ、全部あんたに任せるよ」
そう言うとリーリスは執務室を出て行き、部屋にはジェネルだけが取り残されて自分一人しか居なくなった執務室で、ジェネルは小さく溜め息をつく。
「主犯に関する情報……どう書いたものか……」
技術局の表のデータにはないクロノギアスと軍部の監獄に収容していた筈の凶悪犯のパイロット、その二つの情報を元にどの様に報告書を書こうか、ジェネルは頭を悩ませた。
五機のクロノギアスの襲撃、そしてそれを撃破したフォトングラストのパイロットである縁の死から三日後、フォトンフォートレス内のブリーフィングルームにて、光平を初めとするフォトンガードナー運営陣とシュリウスを初めとするレイ部隊、そしてスーツを身に纏った国連からの監視員達が一堂に介している。
彼らは、フォトンガードナーの戦闘行為禁止の禁を破った事に対する件での審査のために集まっていた。
「……では、フォトンガードナーは以降も引き続き活動するという事でしょうか?」
「ええ、元々我々はそのための組織です」
手元のバインダーに挟まれた報告書を目にしながら確認を取る監視員に、光平は何の迷いもなく頷く。そもそもフォトンガードナーが国連所属となった時期は、二機のクロノギアスが撃破されてからだ。それまで以前は独立して活動していたため、それが元に戻っただけである。
「しかし、シュリウス氏の報告では戦闘行為に関する禁止令が出されております。その件につきましては、光平氏はどうお考えで?」
「……確かに、国連で開発されたレイならば、ある程度のクロノギアス相手に戦う事は可能でしょう。ですが、有人機であったり特異な武装を有するクロノギアスを相手にするには、フォトングラストを用いる必要があると考えております」
「それが、禁を破る事になったとしても?」
「ええ、現に前の戦闘で我々が禁を破らなければ、滝音市は壊滅していたと断言出来ます」
光平のその発言を聞いてシュリウス達が拳を握りしめるが何も言わない。彼ら自体が、光平の発言が正しいと身をもって知っているからだ。
レイ部隊の隊員達が自らの無力さに苛立つ傍らで、監視員は再びバインダーへと目を落とす。そこに記されているのは被害報告、そこには一人の少年の名前が記されている。
「しかし、見た所一番大事なCT01のパイロットが死亡している様ではありませんか」
「……それに関しては問題ありません。こちらをご覧下さい」
そう言うとブリーフィングルームの壁面に設置された大型モニターが点灯し、シミュレーターの映像が映し出される。映像では三十機のクロノドローンを相手に戦闘を行う、フォトンランダーの姿が映っていた。
「こちらは彼の引退に備えて作成されていた人工知能『A.E』によるシミュレーションの映像です」
映像では集中砲火に晒される中、フォトンランダーが降り注ぐビームの雨を潜り抜け懐へと潜り込んで行き、クロノドローン部隊の中心へとたどり着くと機体上部のパーティクルミサイルのハッチを開き直上のクロノドローン部隊目掛けてミサイルを放つ。
放たれたミサイルに対して外周に居たクロノドローンは迎撃を選び、中心部に固まっていたクロノドローンは回避を選ぶが放たれたミサイルはそう簡単に撃ち落とされず避けきれなかった五機のクロノギアスに命中し爆発を起こした。
五機落とされて残り二十五機クロノドローンがミサイルを撃ったばかりのフォトンランダー目掛けてビームを集中させ、フォトンランダーの周りに着弾したビームが砂埃を巻き起こして機体の姿を隠す。
カメラがフォトンランダーの姿を見失いセンサーを視覚センサーから熱源探知に切り替えようと僅かにビームの雨が止んだ瞬間、砂埃を突き破ってクロノドローンと同じ高さにまでフォトングラストの下半身へと変形したフォトンランダーが飛び上がってくる。
そのまま近くにいたクロノドローンを蹴り飛ばすとふくらはぎの位置からスラスターを展開し回転し始め、周囲へミサイルをばら蒔く。
回転と共にばら蒔かれたミサイルは周囲を囲うクロノドローンを的確に捉え、フォトンランダーが地面に着地すると数多の爆発が起き、そこで全部倒し終えたのかシミュレーションの映像は終わった。
「ずいぶんと派手な動きをするものですね、実機でどう動くかどうか……」
「人工知能には機体の状態を加味した上で、どう行動するのが最適か判断する様に教育しています。そして、今のシミュレーションの設定では三日前のフォトンランダーの状態を指定しています」
三日前のフォトンランダーなら、今のシミュレーションの動きも再現出来ると言う光平に、監視員は小さく頷くがシュリウスは複雑な表情を浮かべており、彼の表情に気付いた光平が目を伏せて口を開く。
「貴方の言いたい事は解ります。何故三日前に使わなかったかでしょう?」
「っ!……ああ、そうだ。三日前にこれを使えていれば、今頃……」
「それに関しては我々も思う所です。このA.Eが実戦に出れるレベルで学習を終えたのが、一昨日になった直後だったので……」
「一日……いや、半日間に合わなかったという訳か」
たった半日、それだけの時間で縁の生死が別れていたという事実にシュリウスは顔を俯かせる。人工知能の学習が半日遅れた原因が、自分達による基地の接収だと気付いてしまったからだ。
「済まない……我々が、無茶な接収を行わなければ……」
「貴方方が謝る必要はありませんよ。あくまで命令を遂行しただけの話なのですから」
自分達の行動が原因で一人の若者が本来死ぬ筈であった自分達の代わりに命を落とした事に、レイ部隊全員が光平達に向かい頭を下げる。
フォトンガードナーから会談の場に来た何人からか怒気を向けられるが、それを制する様に光平が先んじて口を開く。だがそれは、シュリウスの気に障る一言だった。
「何故だ!何故そう言える!お前達には我々を責める権利がある!何故それを行使しない!」
「では一つ聞きますが、貴方方を責めた所で彼が帰ってくるとでも?」
激情で叫ぶシュリウスに対して酷く冷めた声でそう口にする光平に、シュリウス達は背中に氷を直に押し当てられた様な悪寒を感じる。
それでも自らの気が済まないシュリウスは、会談に来ているフォトンガードナーのメンバーへと目を向けて、ある事を聞いた。
「ならばせめて、彼のチームメイトであったあの二人に位は頭を下げさせてくれ……」
そう懇願するシュリウスに光平は何も表情を変えずに淡々と口を開く。
「申し訳ありませんが、あの二人は今はA.Eの現物と共に実機を用いたトレーニングの真っ最中でして、今フォトンフォートレス内にはいないのですよ」
会談の予定は前々から知らされていたのにも関わらずその様な予定を入れていた事に、シュリウスは最初からあの二人に会わすつもりはなかったのだと気付き、フォトンファイターに乗れずに終わって以来燻り続けレイのパイロットとなった事で持ち直していたプライドが、粉々に砕ける音を耳にした。
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