第1話
初めましての方は初めまして、ご存じの方は拝読ありがとうございます、サクツキです。
新作小説・超光戦機フォトングラスト、投稿開始です。
桜が咲き乱れる3月の最終日、常磐高校のグランウドにて歓声が上がる。
グランウドではサッカーの試合が行われており、一人の選手の手によってボールが運ばれていった。
「行け──っ!!高坂──っ!!」「それを決めれば同点だ──っ!!」
グランウドの一角にあるベンチ──ボールを持った選手のチームのだろう──から監督と思われる壮年の男と、年若い部活動の顧問と思われる男性教諭の声援か上がる。
その声援と共に沸き立つベンチメンバーの歓声を受け、ボールを持った選手──高坂光は顔に微笑を浮かべて敵陣へと走り抜ける。
「そいつにだけは決めさせるな──っ!!そいつさえ止めてしまえば、後は此方の勝ちなんだ!!全員で止めろぉ──っ!!」
相手チームのベンチから怒号が上がり、DF全員が光を止めんと向かって来る。それに対して光にはサポートして貰える仲間は自陣から向かってる途中で、到底間に合いそうにない。
四対一という絶望的な状況に、監督と顧問が情けない声を上げてベンチからも悲鳴が上がる。
そんな状況にも関わらず光は笑みを絶やさずに足を止めると、向かって来るDFを引き付け、ボールを高く蹴り上げた。
『なっ────!?』
突然の行動にフィールド内外の視線がボールに釘付けになる。その隙を突いた光はDFの壁を抜け、ボールの落下地点に向かう最中で飛び上がり、ボールが落下する前に空中で蹴ろうと体を捻った。
「お……オーバーヘッド!?」
「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
光が何をしようとしているのか勘づいた一人が目を剥いて叫ぶと、光も雄叫びを上げてボールを蹴り抜く。
類希なる身体能力から繰り出されたシュートは一直線にゴールへと向かっていき、その勢いにキーパーでさえ顔を青くする。
その様子からゴールを確信した味方チームからは歓声が上がり、敵チームからは悲鳴が聞こえる中、一人の人影がボールを追い越して立ち塞がった。
「はあっ!!」
追い越した人影は今まさにゴールに向かって飛んでいくボールに足を伸ばし、受け止めた勢いに負けずに足を振り抜き、ボールを光に向かって蹴り返す。
「へ──?ぶばっ!?」
着地して価値を確信していた光は向かってくるボールに一拍遅れて気付き、蹴り返されたボールを顔面に受けて思いっきり倒れた。
「試合終了──っ!!二軍対一軍の試合、一軍の勝ち!!」
『た……高宮──っ!?』
試合終了のホイッスルの音が光の耳に遠く聞こえ、彼を呼ぶ二軍の声がどんどん遠ざかっていき、光はそのまま意識を失った。
「いつつ……加減しろってんだよ……」
「だ、大丈夫?高坂……」
鼻頭に付けられた絆創膏を指で触りながら文句を言う光に、布巾を手にして鼻周りの汚れを取っていく少女──水代花音は心配する声をかける。それに対して光は花音から布巾を受け取ると、顔周りの汚れも一緒に拭きながら眉を寄せて答える。
「何であいつ……縁はいっつもいっつも俺の邪魔をするんだろうな……」
「邪魔をするも何も、有沢君敵チームだったじゃないの」
「いーや!絶対に邪魔してるだろ!?俺がこういう競技事に参加するとな、毎度毎度と俺の敵になるんだぞ!?」
光の言い分にあった言葉に花音は腕を組んで考え込む。最後に光のシュートを蹴り返した選手──有沢縁は文武両道、容姿端麗と天が一物二物を与えた様な男であり、更に気さくな性格で才覚を妬む人間よりも惹かれる人間の方が多いという人物だ。
光も当初は凄い同級生としか認識していなかったが、光の言った通り光が競技事に参加すると必ずと言っていい程光の敵となって現れ、打ち負かしていくのだ。
それ以降光にとっては自分を打ちのめしていく不倶戴天の敵として扱われており、一部では光が縁に勝つか二人が味方のチームになるのか、どちらが先かの賭け事が行われているらしい。
「絶対にあいつには裏がある……俺の直感がそう言うんだ……」
「全く……っと、高坂、階段」
縁に対して恨み言を垂れ流す光に花音が呆れた溜め息を吐くと、近くの階段から誰かが上がってくる足音が聞こえてきて光に静かにするよう注意する。
光も良識は弁えており見知った人間以外に愚痴を溢さないよう静かにしていると、階段から件の縁が上がってきた。
「高坂、水代、お疲れ様」
「……おう」
「有沢君もお疲れ様……ところで、何で有沢君は第二校舎に来たの?有沢君、部活入ってないから用事がない限りこっちには来ないと思ってるんだけど……」
「ああ、ちょっとね」
花音の疑問に縁はズボンから携帯を取り出して、『両親』と記された着信履歴を見せつける。第一校舎では人目があるから文化部系の部室しかない第二校舎で折り返し電話をかけようとしているのだろう。
「あっそ、それで屋上の踊り場にか?」
「そんな所さ」
「そっか。高坂、早く部室に戻ろう?下手に突っ込む話題じゃないよ」
「そうだな……ああそうだ、次は俺が勝つ!」
「もう!……それじゃあね、有沢君」
光からの宣戦布告と花音からの謝罪を縁は笑って受け止めると、二人は階段前から姿を消す。それを見ると縁は携帯を操作し始め、光達に見せていた『両親』と記されていた番号へと電話をかける。
「もしもし…………ええ、例の彼は相変わらずですよ…………っ!?へぇ、彼女も来るんですか?それは…………」
明らかに両親にするような物ではない会話、それを電話に出た相手としながら縁は光達が去っていった通路を見て笑みを浮かべて電話を続けた。
「ただいま帰り「ヴェ──ハハハハ!!」うるさいですよ野々原部長!!」
二人が自分達の所属する部活動である常磐ジャーナリスト部──通称・ジャナ部の部室に入って早々、部室内に狂った様な笑い声が響き渡る。
その笑い声の元凶に向かって花音が怒鳴ると、笑い声の元凶──ジャナ部部長野々原白部は、グランウドを一望できる窓際から振り向いて花音に向かって小馬鹿にした様な口調で語りだした。
「やあやあ水代部員、サッカー部の試合結果はどうだったかね?」
「う……一軍の勝ちです……」
「そうだ!!よって君の考えていた『サッカー部、レベルアップ!メンバー全員に目覚ましい成長!』の企画は没だぁ!!」
鬼の首を取った様な宣言に花音は唇を噛み締めて悔しさに耐え、白部は高笑いを浮かべながら小躍りをする。
そんな様を見ながら光は思わず溜め息をついて愚痴をこぼした。
「サッカー部内の勝負はともかく、それに俺が関わってる時点で自演乙とか言われねぇか……?」
「はーっはっはっはっ!!高坂部員にも言われたなぁ!!」
「うう……っ!!」
光の愚痴を耳聡く聞き取った白部が花音に向かって嫌みったらしく言い、花音は拳を膝で握り締めて体をプルプルと震わせる。
そしてキッと白部を睨み付けると、部室の椅子へとドカリと腰掛け開き直った様に大声で叫んだ。
「ええ分かりましたよ!!次の月の記事は部長の案ですね!!で!!そのネタは有るんですか!?」
そう問い詰める様な圧で問い掛ける花音に光が戦く中、白部は待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべると部長席から一枚のコピー用紙を取り出して二人に広げて見せる。
「えっと……『滝音コーポレーションの暗部に迫る!!』……ってこれ一介の学校新聞が担当するような物じゃないっすよ!?」
「そもそも、何処からこんなネタ拾ってきたんですか!!」
コピー用紙に書かれていた白部が持って来たネタを見て、二人が反対の声をあげる。白部はそれを気にせずに部室を出ると、グランウドとは反対側にある廊下の窓から見える湖を見ながら説明し始める。
「君達はまず滝音コーポレーションに対してどんなイメージがある?」
「何ですか急に……」
「イメージ……」
白部からの突然の問い掛けに困惑するも、律儀に答えようと頭を捻る。しばらくして光が答えを口にした。
「パッと思い付くのは、この街一の出世頭っすかね……?」
「確かに、世界規模でシェアがあるものね」
光の答えに花音が追従する。滝音コーポレーション、十五年前にこの滝音市にて設立された会社で、様々な電化製品の部品を販売しており、その部品を使った製品の信頼性から一気に名を上げて、今やこの企業の部品を使っていない物を探すのが困難だと言われる程にシェアを広げた企業である。
「そうだとも!!そんな企業が、あんな場所に本社を置くかね!?」
光と花音の答えを聞いて満足そうに頷いた白部は、そう叫んで窓から見える滝音市の山岳部にある湖を指差す。
そこには湖の中央に浮かぶ小島に建つ景観を無視した建物──滝音コーポレーションの本社が建っていた。
「滝音湖は市街地から物理的な距離は離れてないとはいえ、交通の弁は非常に悪い!!設立当初はともかく、世界的シェアを獲得して資本金もたんまりある企業が何時までもあんな不便な立地に構えるかね!?」
「言われてみれば……」
「確かに……」
白部の証言を聞いて光達は白部の言葉に納得しかけるが、はっとなった花音が首を振ると白部に向かって問い掛ける。
「でしたら!部長は一体何でそこに本社を置いているのか解っているのですか!?」
「それは知らん!!けれど、目星はついている」
「目星……」
「それは……?」
目星はついていると決め顔で言った白部に、光達は息を呑んで問い掛ける。それに対して白部は、間違いないと言わんばかりに両腕を広げて答えた。
「ロボットだ!!」
「「……………………は?」」
白部の突拍子の無い発言に二人は呆然として固まる。それを見て白部は気を良くした様に話を聞きながら続ける。
「ふっふっふっ、驚きのあまり固まってしまった様だな」
「いやいやいや、だってそうでしょう?」
「ロボットって……現実を見てくださいよ」
「いーや!間違いないとも!電化製品に使われている高品質の部品は、ロボット開発の副産物だ!」
そう間違いないと言う白部に、光達は呆れた表情を浮かべて溜め息をつく。賭けに負けた以上彼等はその記事作成に付き合わされるのだから溜まったものではない。
「はぁ……予備プラン、考えるか……」
「ええ……」
変なやる気を出している白部を他所に、学校側から没を食らった際に掲示する真面目な記事を二人が考えようとした瞬間、突如として地面が大きく揺れて三人は尻餅をついた。
「な、なんだぁ!?」
「地震!?」
「建物の倒壊は無いか!?」
突然の揺れに混乱する光と花音、そんな二人を他所に白部は一足早く復活し部室内に入って市街地がどうなっているのかを確認する。
窓際に立って外の様子を見ようとした白部は外の様子を見た瞬間、さっきまでの勢いが嘘のように静まり返って外を見ていた。
「ぶ……部長……?どうしたんですか……?」
「も、もしかして大惨事……!?」
勢いが無くなった白部を見て不気味に思った光は呼び掛け、花音は勢いが無くなる程の大惨事になったのではないかと顔を青くする。
「…………君達、立って外を見てくれ」
白部はその問いに答えず、ただ二人に外の様子を見るよう促す。白部に促された二人は立ち上がって窓の外へと目を向けると、そこに広がっていた光景に驚愕の表情を浮かべた。
「か……怪獣……!?」
体を戦慄かせながら窓の外を見た光が、ようやく捻り出せた言葉を呟く。
常磐高校の先にある市街地にて、突如として現れた見たことの無い存在がその猛威を振るっていた。
金属質の鎧と言っても過言ではない外殻に身を包んだ巨体は、高さだけで二十メートル以上あり、臀部から伸びる長い尾は一振りするだけで周囲の建物を吹き飛ばしていく。
怪獣映画から出てきたような存在を目の当たりにし、三人は呆然としていた。
「……………………はっ!?水代部員!!今すぐ光◯力研究所か早◯女に連絡を入れるんだ!!」
「そんなものある訳ないでしょう!!すぐに避難しますよ!!」
「馬鹿を言うな!!あんな特ダネ、早々お目にかかることは無いぞ!!」
「無くて結構!!むしろありたく無いですよ!!」
怪獣を目にしても言い合いを始める白部と花音を他所に光は怪獣を見続け、ふと空に小さな閃光が走ったのを目にした。
「何だ、今の閃光…………っ!?」
光が閃光の正体について意識を向けた瞬間、閃光が走った所から一筋の影が飛来して怪獣に向かって激突する。
突然の襲撃に怪獣は大きく吹き飛ばされ、影は回転しながら地面に着地して、その姿を露にした。
「ろ……ロボット……!?」
「「……………………」」
ビルの合間から姿を表したそれを目にした光が思わず呟く。
怪獣と同じくらいの二十メートル近い大きさで、青と白のボディに所々クリアグリーンのラインが走っており、人によく似た二つ目に鼻と口とスーパーロボット的な顔を持った巨大ロボが現れ、先程までぎゃあぎゃあ言っていた二人すらポカンとして外の光景に目をやる。
そんなことを他所にロボットは怪獣に向かってボクシングのファイティングポーズを取ると、怪獣も起き上がって自分に攻撃を加えたであろうロボットに対して威嚇の鳴き声をあげると、ロボットに向かって一直線に走り出した。
ロボットも背中のスラスターを吹かして怪獣に向かって急接近し、その腹部に拳を叩き込んで怪獣を後ろに後退させる。
後退した際に生じた隙を更に突かんとロボットは怪獣に向かって拳打のラッシュを放ち、怪獣が防御姿勢を取ると下半身に蹴りを入れて再び怪獣を蹴り飛ばした。
「み、味方なの……?」
「判らない……けど、怪獣と戦ってるのは事実だな……」
怪獣と戦う姿を見てロボットを味方だと思う花音に、光はまだ判らないと首を振って言う。その間にもロボットは吹き飛ばした怪獣の上に馬乗りとなって拳を振り下ろし、着々と怪獣にダメージを与えていく。
それに対して怪獣は短い前足で顔を庇って防御し、突然前足を開くと口を開けた怪獣が火炎放射を吐き出してロボットを吹き飛ばした。
「「「ああ……っ!!」」」
ロボットが吹き飛ばされた光景を見た三人の口から揃って悲鳴が出る。そして吹き飛ばされたロボットに向かって怪獣が走り出そうとしたところで、それは起きた。
「っ!?空を見ろ!!」
突如として白部が叫んで空を指差し、二人は指が差された方へと目を向け、そこにあったものに言葉を失う。
空には赤紫色の暗雲が立ち込める巨大な穴が開いており、時折雷がその中で鳴り響いている。
怪獣はその穴を見るや足を止めて穴を見上げ、そのまま動かなくなる。すると穴から紫色の光が怪獣に向かって降り注ぎ、怪獣の体が紫の光になると穴の中へと吸い込まれていき、穴は小さくなって跡形もなく消え失せた。
起き上がったロボットは居なくなった怪獣を探すように首を左右に振って辺りを見回すと、ここには居ないと判断したのか空へと顔を向けると背中のスラスターを吹かし始め、跳躍と共にスラスターを吹かして空へと飛んでいった。
「「「……………………」」」
とんでもないものを目にしてしまった三人はしばらくの間固まり続け、市街地から自衛隊のヘリのローター音が聞こえ始めてようやく正気に戻った。
「……………………はっ!!こうしては居られない、今すぐ記事にしなければ!!」
一番最初に正気に戻った白部は、急いでパソコンの前に座ると即座にパソコンを起動させる。
その光景で正気に戻った花音は、編集ソフトを起動させる白部に対して問い掛けた。
「あの、本当に記事にするんですか!?」
「仕事の邪魔だ!!君達は帰るといい!!」
「ちょっ……!?」
記事にするだけでなく邪魔だと言われた花音は白部の態度に青筋が浮かぶ。そんな彼女を宥めるように光が肩に手を乗せて言う。
「ああなった部長は梃子でも動かねぇよ。俺達は邪魔をしないよう帰ることしかできねぇ」
「高坂……」
光の言葉を聞いた花音は困ったような視線を白部に向けると、疲れたように大きな溜め息をつく。
「それでは、私達は帰りますかね……」
「お疲れ様でした」
二人は部室の外へと出ると、一旦室内へと振り返って作業している白部に向かって頭を下げる。それを無視して記事の作成に夢中になる白部を見て、二人は溜め息をついて部室から下駄箱に向かって歩き出した。
初めてとなるロボットものですが、皆様に楽しんでいただけるよう投稿していきたいと思います。
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