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公爵令息は幼なじみが愛おしくて仕方がない3(リオルク視点)

「うん。十年後を楽しみにしている」


 確実な約束を貰った俺はにっこりと微笑んだ。

 これでディティは将来誰のものでもない、俺のものになる。そう思えば、永遠とも思える十年だってどうにか耐えられるというものだ。


 その後、俺はディティが急に絶交宣言を告げた理由を探った。


 彼女はどうやら、ほかの女の子たちから仲間外れにされたようだった。理由は簡単だった。俺がディティにばかり特別扱いをするから。子供同士で何度か集められた際、俺は女の子たちのうわべの顔だけに騙されていたのだ。


 陰であの女たちは俺のディティに嫉妬をして、いじわるなことを言ったのだ。

 俺はすぐさま両親とバルツァー夫妻に事の次第を訴えた。


 ディティにいじわるを言った女たちに仕返しをすると息巻くと、マイシア夫人が困ったように眉を下げた。


「だめよ。あなたが出ていくと余計に問題が大きくなっちゃうもの」

「でも」


「わたしも少し性急すぎたみたい。今後、フレアがあの子たちに会うこともないし、話ならうちの人がつけるから、リオルクは何もしないでね。問題がややこしくなるし」


「俺だってディティのことが大切です」

「まったく、あなたといいうちの人といい……」


 マイシア夫人は嘆息をした。子供同士のいざこざを大事にしたくない彼女にとっては、夫のディラン氏の暴走を止めるのも一苦労だったらしい。貴族ではないがディラン氏には人脈と金がある。商人らしいやり方で狙いを定めた人間を没落させることなど、彼にはたやすいらしく、マイシア夫人は「娘が可愛いとは言っても、大人げないのよ」ともう一度ため息を零した。


 今回ばかりはディラン氏に賛同だった俺としては、マイシア夫人の対応の方が生ぬるく感じた。


 そんな俺を宥めたマイシア夫人は「フレアはもう彼女たちとは一緒に遊ばせないから、絶交も終わりかと思うけれど……?」と問うてきた。


 しかし、存外にフレアは頑固だった。

 俺が姿を見せると、ささっと逃げて隠れてしまうのだ。

 そんなことが何度も続くと、俺の心も悲しくなってくるというもので。


 マイシア夫人が何度言い聞かせてもディティはそのたびに「だめなの。話せないの」と涙ぐむらしい。


 これにはマイシア夫人もお手上げで、俺はしかし「十年後の約束があるから大丈夫です」とそのたびに何てことない風に装った。


 そう、俺には彼女との結婚の約束がある。


 詳細を両親とバルツァー夫妻に伝えると、彼らは少々呆れつつも見守ることにしてくれた。


 唯一反対をしたのはディラン氏だった。娘を溺愛する父親の当然の反応でもある。彼は幼い俺たちの約束を一蹴した。「そんなもの、子供のままごとだ」と。


 俺はむきになった。俺の恋は、この想いは本物だ。誰にも覆すことはできない。十年後、俺はディティをもらい受ける。彼女は俺の妻になるのだ。


 俺の母上とマイシア夫人はきゃっきゃと喜んだ。

 親友同士、二人の子供が結婚をすれば、両方の親になれる。親戚になるのね。嬉しいわね。なんて盛り上がっていた。


 最後まで反対をしたディラン氏は俺に賭けを持ちかけてきた。


「そんなにも言うのなら、十年間フレアと一言も話さず過ごしてみろ」というものだった。ディティに約束をさせられてた十年間の絶交期間。これを本当に守ってみろ、ということだった。


「そんな。どうせフレアだってそのうちリオルクに話しかけるようになると思うのに、ひどいわ、あなた」


 側で俺たちの会話を聞いていたマイシア夫人が抗議をしたが、ディラン氏は取り合わなかった。彼は高をくくっているのだ。俺が十年も耐えられるはずが無いと。


 しかし、俺とディティの結婚で一番の障害になるのは身分でもなんでもない。

 確実にディラン氏だ。娘溺愛の彼の許しを得る。これが高い壁になることは想像に難くない。


「わかりました」


 俺は彼の条件をのむことにした。

 十年後に笑うのは俺だ。絶対にディティを俺のものにしてみせる。


 ディラン氏を唯一信頼できることがあるとするならば、俺たちが離れている十年間、ディティに新たな男を近づけないということだろう。彼がいるならば、ディティに余計な虫がつくこともない。


 俺の母上とマイシア夫人は俺たちの交わした賭けに呆れていたけれど、これは男と男の勝負でもある。


 絶対に俺はディティとの将来を勝ち取ってみせる。

 思えば俺もだいぶ子供だった。


 成長をしていく中で、俺は自分が生まれたフロイデン家がルストハウゼの中でどのような立ち位置かを学び、そして俺の肩書目当てに女が群がってくることを学んだ。


 フレアを傷つけたのは俺自身の行動が軽率だったこともある。家庭教師は女性や年下には優しさを持って接しろと教えるけれど、愛想よく振舞った結果、ディティ以外の女の子たちは、淡い期待を持ったのだ。もしかしたら自分が俺の特別になれるかもしれないと。彼女たちの両親もおそらく、娘たちに発破をかけたのかもしれない。「フロイデン家の嫡男と今のうちに親しくしておけ」と。


 だったら俺の取るべき行動は一つだ。


 フレア以外の女と親しくする必要もない。笑顔も必要が無い。彼女と話せないのに、別の女に愛想を振りまくだなんて、そんなことはしたくない。


 そのように考えた俺は女性相手には徹底して無表情を貫いた。

 そのせいか、いつからか俺は女嫌いと囁かれるようになっていた。

 ディティ以外の女には興味も無いのだから、その噂はちょうどよかった。



「まあでも、肝心のディティが俺との約束を忘れていたのは誤算だったけれど」


 帰りの馬車の中、俺は戦利品である彼女の写真を見つめながら一人呟いた。

 苦行の十年を耐え忍べば、バラ色の未来が待っていると信じていたのだが、肝心のディティは俺との結婚の約束をすっかり忘れていた。


 しかし、もう根回しはすべて済ませてある。

 俺はディティを手放すつもりはないのだ。


 ディティは爵位を持たないバルツァー家の娘とはいえ、母親であるマイシア夫人は伯爵家の出身だ。結婚に対する大きな障害にはならない。


 だいたい、貴族の隆盛が激しいこの時代、身分のつり合いだのなんだのは古臭い価値観に過ぎない。とはいえ、貴族たちがことさらその血に意義を見出しているのも、新興層の台頭が激しいこの時代だからでもある。


 それでも、やり方はいくらでもある。


 きみが思い出さなくても、一度交わした約束は有効だ。

 俺以外の男がきみを手に入れるなど、そんなのおかしいだろう。

 ずっと昔に、きみは俺のものになると、きみは約束をくれたのだから。


「ディティ、愛している」


 可愛いディティ。

 十年間も耐えたのだ。もちろん、影からそっと見守っていたのだけれど、話しかけらなかったのはつらかった。


 とくに、学園に入学してからは本当に苦行の日々だった。

 美しく成長をしたディティの笑顔を遠くから眺めて心を慰める日々ももう終わりだ。


 これからはじっくり愛することができる。

 俺は彼女への土産を買うために、御者に百貨店に寄るよう指示を出した。


書籍作業が忙しく、更新が遅れます

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