7th story 「飼い犬」
魔王との最終決戦が迫ったある日の事。僕は彼女から深刻な相談をされた。
最近、実家の老いた犬が誰もいない玄関に向かってけたたましく吠えているらしい。
僕が彼女の家に挨拶に行った時も僕に全く吠えなかった人なつっこいあの犬が、突然ものすごい剣幕で吠えるのだという。しかも時間を問わずだ。
不安がる彼女が霊を引き寄せやすい体質だったことを思い出し、僕は神殿生まれで神聖力の強いティーちゃんに相談する事をすすめた。
酒場で3人で食事をしながら事の話をすると、ティーちゃんは
「大丈夫。その犬は家を護る神霊に挨拶してるんだよ」と言った。
すっかり安心した彼女を送り返すと、ティーちゃんから連絡が……
「彼女の言っていた事だが、確認したい事がある。あの子の家の前まで案内してくれ」
草木も寝静まる真夜中。彼女の家の前に行くと確かに軒先に繋がれた犬が吠えている。
「やはりな……」
そう呟いたティーちゃんは彼女の家の向かいにある井戸に手を添えた。
するとそこからスッと青白い光が走り、真実が照らし出された。
なんと何十体もの亡者が彼女の家に群がり侵入しよう通り抜けようとしている!
その中には見覚えのある呪詛を吐きながら魔術師である彼女に討ち果たされた魔族の姿もある。
しかし亡者たちは犬の抵抗に遭い、上手く家に入れない模様。
「大した犬だ……ずっと家を守っていたのかい」
そういいながら犬の頭を撫でるティーちゃん。
「破ッ!!!」
ティーちゃんの声と共に亡者達は眩しい光に包まれ、眩んだ目に視力が戻った時には跡形もなく消えていた。
「何故彼女に嘘をついたんですか?」
僕は尋ねた。するとティーちゃんはフッと笑って答えた。
「覚えておくといい。可愛い子を無駄に恐がらせるものじゃない」
神殿生まれはスゴイ、僕は久しぶりにそう思った。
……数日後、彼女の家の犬が老衰で亡くなったと聞いた。
悲しみにくれる彼女を励ましてやると、
「ワン!」と元気なあの犬の声が聞こえた気がした。
きっと犬はまだ家族を守っているんだな……
冥福を祈りながら僕は思った
家族を見守る犬はスゴイ。僕はその夜ちょっと泣いた。