エピソード5 「海水浴」
僕は魔王討伐を目的に一緒に旅をしている5人の仲間と海へ行くことになった。魔王がいる魔大陸に渡るためには、なんとか港であの恐ろしい魔大陸行きの船を見つけないといけなかったんだ。
でも魔大陸行きの船なんて一隻もなくて、お金を積んで頼み込んでも絶対に船は出さないと断られてしまった。
途方に暮れ、何か名案が思い付くまで骨休めをしようという事になった。
毎日が魔物退治の連続で、みんな疲れきっていたから。
僕達は目的をバカンスに半ば無理やり変更し、船乗りたちが忙しく働いている沿岸をぶらぶら散歩していた。
するとアサシンのワイが「あれ? この辺り人全然いないよ」と言った。
見てみると確かにその岩礁に囲まれた砂浜の辺りだけ誰もいなくて、5人で遊ぶなら丁度いい広さがある。
僕達は浜に降り、のんびり日光浴をしたり砂のお城を作ったりと楽しい時間を過ごした。
するとワイが今度は「私小さいころ漁師のお父さんの手伝いしてたんだー。あの岩まで泳ぎきったら新しいナイフ買ってね!」と言い出した。
僕が返事をするより早く海に飛び込むワイ。
なるほど漁師の娘だけあってか綺麗な泳ぎで岩までたどり着いた。
沖で大きく手を振るワイ。僕達も浅瀬から手を降って返すが、どうも様子がおかしい。
「あれ!? 溺れてるんじゃない!?」
誰かが叫んだ。
確かに今にも沈みそうだ! 僕達は急いで救助に向かった。
しかし、海に慣れたワイと違い、川ぐらいならとにかく海を見たのすら初めてで泳ぎの遅い僕達は中々たどり着くことが出来ない。
ワイは今にも沈みそうに……
「おかしい……」
僕は仮にも勇者だ。水に慣れてはいないけど泳ぎ方は知っているし、身体能力のゴリ押しでどんな魚より速く泳げるはず。でもいくら全力で泳いでも距離は縮まらないし、泳ぎが得意なはずのワイは必死にもがいている。
これは妙だ。
そう思った僕は水中に潜った。するとそこにはワイの身体にしがみ付き、水底へ引き込もうとする黒い影が無数に蠢いていた!!
このままじゃ僕達も……
そう思った瞬間、大波の向こうから一人のサーファーが!
神殿生まれで神聖力の強いティーちゃんだ!!!!!
ティーちゃんは板を華麗に操りワイを抱き上げるとそのまま波に乗って陸地へ。
「破ぁ!!」
振り返らずにティーちゃんが叫んだ。
するとティーちゃんの板が起こした無数の泡がボコボコと集まり浮き輪状になる。
僕達もそれにつかまって陸までたどり着くことが出来た。
「ありがとうティーちゃん、でも何でここへ?」
「なぁに、この辺りは毎年水難事故が起こってるって曰く付きの海岸でな。こんな事もあろうかとな……」
そういいながらワイの胸に手をあて異国情緒のある不思議な呪文を唱えるティーちゃん。
するとワイはドロドロの黒く汚れた水を吐き出し意識を取り戻した。
「きっと死者が死者を呼ぶ潮の流れなんだろう、ここは。親父の故郷にもこういう場所があったらしい」
海岸線を見つめて呟くティーちゃん。夕日に照らされる物憂げな横顔は見惚れるほど美しい。
それを見たワイは顔を赤くして言った。
「あ、あんたなんかに助けてもらうくらいなら死ねばよかったわ!」
大げさに言い放つワイ。
神殿生まれはスゴイ、僕はまたもやそう思った。