四章 「初めての彼女」
魔王を倒す旅に出てはや半年。故郷の村ではしがない農家の三男坊だった僕にもやっと春が来た。
格闘家と一緒に訪れた王都で出会った凄腕の魔術師は可愛い女の子で、僕の彼女になってくれた。
彼女は色白で背も低く病弱で、魔術学院ではよく虐められていたそうだ。
僕は魔王を倒す旅を通して自分を変えたいと言う彼女の事を守ってあげたいと思い、告白し、付き合うことになったんだ。
付き合いだしてから1ヶ月後、彼女を連れて村に帰郷した。父さんと母さんに紹介したかったし、聖剣と対になる聖盾の文献が村にあったから、それを取りに来た。
格闘家はニヤニヤしながら父さんと母さんを言いくるめ「上手くやれよ」と耳打ちして夜の酒場に消えていった。
でも童貞で奥手な僕は、せっかく家に二人きりにしてもらったのに彼女にキスすることすら出来ず、夕食の後に暖炉の前の椅子で眠ってしまった。
夜中に妙な音がして、目が覚めた。
誰かがブツブツ何か言っている……
俺は彼女が呪文の練習でもしているのかと隣の部屋を覗き込んだ。
するとそこでは恐ろしい顔をした彼女が
「おうち、おうち、あたらしいおうち」
と呟きながら自分の髪の毛を壁とタンスの隙間や戸棚の下に押し込んでいた!
僕はあまりの恐怖に言葉を出すことも出来ず、部屋に戻って震えながら朝を迎えた。
朝日が昇ってから勇気を振り絞ってもう一度隣の部屋の様子を見に行くと、彼女は何事も無かったかの様にすやすや眠っていた。天使の寝顔からは昨日の狂態の面影もない。
僕はどうしていいのか分からず、酒場で飲み比べをしていた神殿生まれで神聖力の強い旅人のティーちゃんを捕まえワケを話した。
黙って僕の話を聞いたティーちゃんは
「よし、私に任せろ」
と言ってくれた。
僕は彼女に気付かれないようにこっそりティーちゃんを家に上げた。
旅疲れが出たのだろう、昼前なのに気持ちよさそうに寝ている彼女を見たティーちゃんは「これは……」と呟き、
「私の後ろに下がってろ、絶対に前に来るな……」
と言い彼女の前に立った。
ティーちゃんは何か呪文のようなものを唱え「破ぁ!!」と叫んだ。
すると部屋中に仕組まれていたであろう髪の毛が一斉に燃え上がり、彼女の髪の毛までもが燃え上がった!!
「姿を見せな……」
ティーちゃんがそういうと長かった彼女の髪の毛がバサリと抜け落ち、女の生首になった!
「こんな女の子に憑り付いて、自分の結界を広げてたのか、この小悪党め!!」
生首をガシリと掴むティーちゃん。
次の瞬間生首は断末魔をあげながら燃え上がり、灰になって消えた。
しゃがみ込んだティーちゃんは無残に抜け降ちた彼女の髪の毛に触れると
「お前たち、元の場所に帰りな……」
と優しく呟く。
フワフワと浮かび上がった髪の毛は彼女の頭に生え移り、元通りになった。
「二人に神のご加護がありますように」
ティーちゃんは笑いながらそう言って帰っていった。
神殿生まれってスゴイ、改めてそう思った。