second season 「悪夢」
壊れた村の祭具の中から出てきた聖剣を握ったその日から、僕は勇者だった。
周りの期待と、誇らしさと、自分に本当に勇者が務まるかの不安。現れ始めた魔物を倒す忙しない旅の日々で夢を見る事も珍しかった。
でもその日、僕は久々に嫌な夢を見た。
血の滴る斧を持った男が宿の部屋に立っている……
強い魔物は何体も倒してきたけれど、あんなにおどろおどろしい人間を相手にした事なんてない。
僕は恐怖のあまり動くことが出来ず、ただその男を眺めている。
すると男は突然斧で宿の柱を切りだした!
思わず
「やめろ!!」
と叫ぶ僕。
すると男はゆっくりこちらを振り返った。
その顔は、見るも無残に潰されて顔中に釘が打ち付けてある。
「お前もこうなりたいのか? お前もこうなりたいのか? してやろうか? してやろうか?」
ゆっくり僕に近づく男……僕は金縛りにあったように動けない。寝る時も離さず握っているはずの聖剣もなぜか手元にない。
今の僕には大人の男を五人まとめて投げる力があるはずなのに、何もできない。僕は非力で、無力なただの少年だった。
男は僕の顔めがけてゆっくり斧を振りかぶって……
そこで目が覚めた。
嫌な夢だ、後味が悪い……冷や汗でシャツがぐっしょり濡れ、喉がカラカラだった。僕は水を飲もうとベッドからおりた。
僕の目に飛び込んできたのは、無残にもボロボロに傷つけられた部屋の柱!
僕は恐怖で腰を抜かしてしまった。あの男は現実にいたんだ!!
そして次はホントに僕の顔が刻まれてしまうのではないかと震えあがった。
その日、僕は神殿生まれで神聖力の強いティーちゃんにその夢を相談してみた。ティーちゃんは僕と同じく各地をさすらう旅人で、街角でばったり会う事は珍しくなかった。
しかし、ティーちゃんは
「しょせん夢だろう?」
と冷たい対応。
町を一匹で滅ぼすような魔物なら僕一人で相手になってやるのだけど、ゴーストには勇者だって敵わない。
なんとしても引き下がれないので必死に何とかしてください! と頼み込むと
「それじゃあ私の作ったお守りをあげるから、それを枕元に置いて寝ろ。そうすれば大丈夫だ」
と長方形の紙の形をした変わったタリスマンを渡してくれた。
次の日、不安ながらも魔物を倒して疲れていた僕はベッドに入った。
そこでまた夢を見た。
「つづき、つづき、つづき! つづき! つづき! つづき!」
またあの男だ!! 僕は夢の中でティーちゃんのタリスマンを探した。
しかしどこにも見当たらない……
「これ? これ? これ?」
なんとタリスマンを男が持っている! もうおしまいだ!!
だが次の瞬間、タリスマンは眩い光に包まれ、どこからとも無くティーちゃんの声が!
「破ぁ!!」
タリスマンは光と共に飛び散り、男の下半身を吹き飛ばした。
「あああああああああ!!!!」
上半身だけでのたうつ男を尻目に僕は夢から覚めた。
枕元にあったはずのタリスマンはどこをどんなに探しても見つからなかった……
その話をティーちゃんに報告すると
「半身を吹き飛ばした? やれやれ、威力は親父の作ったヤツの半分か……」
とぼやいた。
神殿生まれはスゴイ。僕は感動を覚えずにはいられなかった。