神殿生まれのTちゃん THE FIRST
その日、僕は馬に乗って隣村にお使いに出かけていた。僕の村は貧しくて、祭りに使う祭具を直せる職人がいなかったんだ。誰かが修理に持っていかないといけない。
「お前も十五になるんだから」
と初めて一人で村を離れたけど、通い慣れた道だ。ちょっとの不安と誇らしさがあった。
いつも通り馬の背に揺られていると、真っ赤なローブを着た綺麗な女性が道の端にぽつりと立っているのが眼に映った。
わ、綺麗な人だなあ、そう思った瞬間。
僕は対向車線から来た馬車に撥ねられたんだ。
剣術を習っていた僕はとっさに受身をとる事ができたから、腕の骨にヒビが入るだけで済んだ。
それから半年たったある日、幼馴染のケイが僕と同じように馬車に撥ねられた。
直ぐにケイの家に駆けつけたんだけど、ケイに意識は無くて。その後死んでしまった。
その場でケイを助けた人の話によると、ケイは
「赤いローブを見てついよそ見しちまった……」
と呟いていたらしい。
僕は驚いた。
アレは魔物なんじゃないか?
僕がそう思っている頃またあそこで事故があった。
話を聞いてみると轢き逃げらしかった。
あの辺りは開けた草原で、見晴らしがいいにも関わらずそういう事故が多いらしい。
僕はあの赤いローブの女が魔物だと確信した。
邪悪な魔王とか、その配下の人を苦しめる魔物なんておとぎ話だと大人は言うけれど。
数日後、僕は時々ウチの村に寄る旅人のティーちゃんの馬車に乗ってその道を走っていた。
ティーちゃんは実家が神殿でとても神聖力が強いらしく、俺は魔物の話をしてみた。
「ふーん」
と素っ気なく聞いていたティーちゃん。
でも少し走ってからティーちゃんが突然
「あの女か!」
と叫んだ。
見ると確かにあの赤いローブを着た女が道を歩いている!!
「そうだよ! あの女だ!!」
僕が戦慄して叫ぶと
「そうじゃない! あっちの事だ!!」
と正面を指すティーちゃん。
見ると半透明の顔の抉れた女が対向車線を走る馬車の方向を狂わそうと、車体に飛び移っている所だった!
「手綱を頼んだよ」
ティーちゃんはそう呟くとひらりと飛び上がっての窓から馬車の上に仁王立ち。そして狙いを定め
「破ァーーーーー!!」
と叫んだ。
するとティーちゃんの両手から青白い光弾が飛びだし、女のゴーストを吹き飛ばした。
「あれは魔物じゃなくてゴーストだ。魔物が出た時は君に任せるとしよう」
そう呟いて片手で火酒をラッパ飲みするティーちゃん。
神殿生まれってスゴイ……その時初めてそう思った。