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前編


 ミステリ研の部室を開け放つと、部長が泡を吹いて倒れていた。


「部長! 大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄って抱き起こすも反応がない。これではただのしかばねのようだ。

 部長の座っていたらしき机の上には、三種類のチョコレートが載った皿が置かれていて、その傍らの紅茶のカップは呑気に湯気を上げている。それだけ見れば平和な午後のティータイム、といった様相だ。


「……ふむ」


 しかし、看過できないことに、机の上のチョコレート――それも三種類全部が食べかけのようであった。

 倒れた部長、食べかけのチョコレートが三つ、ここから導き出される結論は――


「そう。毒入りチョコレート殺人事件、とでも言いましょうか」


 泡を吹く部長が転がっている部室には場違いなほどに楽しそうな声がした方を振り向くと、同じくミステリ研の麗苑(れえん)先輩が優雅な所作でティーカップを傾けていた。それから流れるような仕草で部長の机の上を手の平で示す。


「安里くん。この中の一つに毒が入っているわ。部長が死んだのはそのためよ」


「麗苑先輩、またあなたの仕業ですか」


 やれやれ、といったふうに嘆息してみせるも麗苑先輩はさして気にする様子もなく続ける。


「せっかくのバレンタインだもの。ただチョコを作ってあげるだけなんてつまらないわ。だからチョコだけでなくここは一つミステリ的な状況も作ってみよう、と思ってね」


 そんなホームメイド感覚で事件をこしらえてもらっては困る。


 この麗苑先輩、黙っていれば深窓の令嬢、といった風情なのだが、ミステリ好きが高じて自ずからミステリ的事件を引き起こしてしまう、という欠点がある。そしてそれに毎度振り回されるのがミステリ研のメンバー――今日は死体役の部長、さっきから成り行きを見守っている女子部員の保呂(ほろ)紗六(しゃろく)、そしてこの僕、安里伴呼(あんり・ばんこ)なのだ。


「あ、毒入りチョコレート殺人事件、と言ったけれど、本当に死なれてもらっては困るから使ったのはこれよ?」


 僕の沈黙をどう解釈したのか、麗苑先輩は懐から毒々しいラベルの小瓶を取り出して弁解しだした。


「いや、デスソースって書いてあるんですけど……」


 完全に殺しにいってる名前なんですけど?


「ふふ、部長の被害者っぷりは最高だったわ。毒を口に含んだ瞬間の僅かな表情の変化、それから流れるように浮かべた苦悶の色、最後には泡まで吹いて椅子ごと倒れ込むという、ドラマチックな演出。彼を被害者に選んだ私の目に狂いはなかったわ」


「……先輩の目が狂気に染まっているように見えるのは僕だけですかね?」


 至極真っ当な僕の指摘が麗苑先輩にはお気に召さなかったようだ。


「あら、でも彼だって満更でもなさそうだったわよ? 可憐な女子部員からチョコレートをもらえて。彼の冴えない人生の最期を飾るにはもったいないくらいよ」


 ぷくり、と可愛らしく頬を膨らませる麗苑先輩だが、まったく可愛くないセリフが聞こえたような……最期って、部長は本当に死んでないんですよね?


 不安になったのでそっと部長の脈をとるも至って正常だった。良かった。


「さて、安里くん。『食べかけの三つのチョコレート、どれに毒が入っていたのか?』――あなたにはこの謎が解けるかしら?」


 麗苑先輩の目が挑戦的に光る。


「はぁ、そんなことより部長を保健室に――」


「謎が解けたら安里くんにもチョコをあげる。もちろん毒入りじゃないやつを、ね」


「この安里伴呼に解けない謎はありません!」


 悲しいかな、僕とて女の子からのチョコレートは死ぬほどほしいのだ。


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