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西征と東征  作者: 登録情報がありません
第1章西征
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元寇日本侵略2:てつはう

閃光弾、音響弾、焼夷弾の「てつはう」が登場。

威力が弱いために非致死性兵器として登場します。

相手の戦意を削いで、無力化する事が目的です。

日本軍は博多の息の浜に集結して、沖合の元軍と睨み合う形である。


物見兵「今津の山から狼煙が上がりました」


少弐景資(しょうにかげすけ)「狼煙の色は何か?」


元軍見ユ、総勢○○の符丁を色で示し合わせている。

赤→橙→黄→緑→青→藍→紫→白→黒である。


赤が100で黒が900だ。それ以上は組み合わせる。

1000は黒の狼煙と赤の狼煙だ。


物見兵「黒です!」


少弐景資(しょうにかげすけ)「900隻か」

頭の中で船種と兵数をすばやく計算する。


おそらく戦艦、補給船、馬輸送船あわせて900隻。

兵員はざっくばらんに見て3万、いや4万か。


それから日本軍の御家人の陣営を地図で見た。

我が軍の陣形は三日月状(鶴翼)だ。


日本の起伏の多い地形では有効だ。

このままでいい。


しばらくして偵察隊が帰投した。

詳細な元軍の装備を絵にしている筈だ。


日本偵察隊は描き写した元軍の様子を総大将の少弐景資(しょうにかげすけ)に見せた。

景資「分からんな、見た事もない形状だ」


南宋から逃げてきた戦争難民の僧侶に見せた。

南宋僧侶「これは投擲兵器(カタパルト)ですな」

挿絵(By みてみん)

景資「前九年の役(1051-1062)で使われたと聞く旧式兵器だな」

南宋僧侶「知っているのですか?」


景資「歴史書に名前が出てくる兵器で見た事はない」

「石が飛んでくる厄介な兵器だ、だが飛距離はたいしたことはない」


もう一枚の絵図も見せた。

南宋僧侶「これはバリスタ(ballista)ですな」


景資「バリスタ・クアドリロティスだ、だが平地でしか使えん」

「日本は平野はあっても平原はない」


「平野が少ししかないから、町や畑、田んぼで埋め尽くされている」

「見渡す限りの無垢の草原なんかないからな」


少弐景資(しょうにかげすけ)は元軍を見くびってはいないが、恐れてもいなかった。

そこにスキはなかったろうか。

その日の夕刻、900隻の元軍艦隊で夕餉(ゆうげ)が始まった。

3隻の貨物船から4万人に戦時糧食が配られた。


糧食は1日1人当たり2kg相当が分け与えられた。

馬乳酒アイラグと干し肉ボルツ、干しヨーグルトのアーロールだ。


元軍兵A「チャンサンマハ(塩茹で羊肉)が食べたいなあ」

元軍兵B「馬乳酒アイラグがあればオレはそれでいい」

元軍兵C「おれはボールツォグ(ドーナツ)派だな」


4万人の糧食は2kgX40000人で8万kg、80トンにもなる。

ダウ船の最大積載量は180トンで1隻で2日分の糧食を運ぶ。

それが3隻で船団を組み、高麗の合浦を毎日出航している。

現在、橋頭堡の赤坂には6日分が積み上げられていた。


なお船員は全員高麗人で、モンゴル人は一人もいない。

モンゴル国自体が陸封国であり、海がなかったからだ。


生まれてから一度も、海を見た事も、泳いだ事もない者が多かった。

高麗人の主食は米食で漬物と豆麹を発酵させてつくる(ジャン)が副食だ。

魚粉と昆布で出汁をとった汁物を好んだ。


その日の夜になった。元軍の陣地に動きがある。

博多に上陸した本隊からは、近くの村々に元軍の工兵隊が入った。


隊長「鍛冶屋、炭焼き小屋を探して占拠せよ」

包丁やスキやクワを修繕する鍛冶屋がある村を探した。

炭焼きを生業(なりわい)とする森林伐採業者のいる村を探した。


無い村は井戸の有無を調べ素通り、有る村だけを選んだ。

井戸は元軍兵の飲料水確保のためだ。

東欧ロシア遠征では井戸に毒を投げ込まれた。


飲料水の無い行軍の辛さ。

元軍は身に染みて分かっていた。

一刻も早く地下水を確保せねばならなかった。


衛生兵A「毒は投げ込まれていません」

衛生兵B「青酸カリやヒ素化合物の反応無し」

衛生兵C「井戸水は清浄です」


衛生兵は銀食器を井戸水に浸して色の変化を見ていた。

毒物があれば瞬時に黒化し毒の有無が判別出来る。

欧州貴族は銀食器を用いて毒殺から逃れていたのだ。


工兵隊隊長「原住民も井戸を使っておる」

衛生兵A「焦土作戦ではないようです」

衛生兵B「日本人は鬼ではないようですね」

衛生兵C「焦土作戦は民も土地も滅ぼすからなあ」


炭焼きの窯元が一箇所に集められた。

南宋から脱出してきた僧侶たちが吹聴した風説は村々に染み渡っていた。


南宋僧侶A「元軍兵は殺人鬼だ」

南宋僧侶B「女は犯し、子供は殺す」

南宋僧侶C「手に穴を開けてヒモで繋げる」


ある事ない事言い触らし、鬼畜元軍を相当な悪鬼に仕立てていた。

ガタガタ震えている村人の前に工兵隊の隊長が現れた。


ドサッ、隊長は何やらデカい袋を、鍛冶屋や炭焼きの長の前に置いた。

生首か?村人の誰かがすでに犠牲に?


中身は砂金だった。

隊長「設備をちょっくら借り受け申すっ」

工兵隊は弓矢の(やじり)を鋳造し始めた。


ゴンゴンガンガンッ、ギーコギーコ。

水車小屋を改造して水力でフイゴを送風する。

そのための工事を元軍兵は手際よくこなした。


隊長「クランク機構をはめ込めそうだな、おーい」

工兵「ハッ」

隊長「船からクランク一式持ってきてくれや」

工兵「ハッ」


手打ち伸銅しか知らなかった鍛冶部(かぬちべ)は仰天した。

水力のカムレバー式ドロップハンマーは前代未聞だ。


(補足:中国では紀元前1050年頃、周王朝に起源を発する)。

(補足:西欧では紀元前0300年頃、古代ギリシャに起源を発する)。


村人A「水車小屋が動力機構に変わってゆく……」

村人B「な、なにがいったい!」

村人C「分からん……解せぬ……」


ふいごが終わると次は窯の改造だった。

炭焼きの窯を銑鉄の窯に変えるのだ。


炭焼きの窯は燃焼による熱反射を利用出来る構造だ。

元軍工兵隊が作っていたのはいわゆる「反射炉」だった。


「やきもの」の窯の温度は1300-1500℃にまで達する。

こうして炭焼きの窯を急ごしらえの反射炉に改造する。


(補足:「反射炉」は中国戦国時代(BC403~)に起源がある)。

(実用化は中世で、教会の鐘を鋳込む際の融解に用いられていた)。

挿絵(By みてみん)


石炭燃焼熱が窯の壁面に反射し、不純物を含む煤煙は煙突に向かう。

煙突の口の部分をすぼめて、熱のこもる構造にする。

煙突を長く改造して、上昇気流(ドラフト)を発生させ、吸気を促す。


工兵は高炉も作るのかと気色ばんだ。

(余談:大陸の「高炉」は漢王朝(BC202~)の発明である)。


ここでは鉄鉱石ではなく砂鉄を使うので高炉は不要だった。

砂鉄から銑鉄をまず作り、銑鉄を反射炉で精錬する。

これで(やじり)を作るのだ。


一方、ここは赤坂、元軍橋頭堡。

戦略会議で攻勢偵察部隊の案が出ていた。

予め呼ばれていた副使がさっそく口を切った。


副使、潘阜(はんふ)「わたしがいっちょう日本軍をこらしめて見せましょう」


都督使、金方慶(きんほうけい)「こらっ文官のくせに、こらっ」


金は潘の機転と臨機応変さを買って連れてきた。

奇策と妙案を出して、攻勢をひっくり返す奇才である。


だが立場をわきまえない直言も多く立場をわきまえない。

金は推挙した手前、ばつが悪かった。


忻都「面白い、やってみせい!」


潘「はっはーっ」


金「大丈夫かよ、後には引けんぞ?」


潘「まあ、おまかせあれ」


藩は文官であり、外地での交渉調略が担当だ。普通に戦闘に向かない。

だが奇策を用いる事が多く、今回もその類いを期待されての徴用だった。


藩は元軍の突撃隊を編成した。刀も槍も弓矢さえも持たない。

背負子(しょいこ)には、なにやら投擲弾を満載している。


潘「よっこいしょ」「よし!出撃」


この奇妙な突撃隊が突出、息の浜の日本軍布陣に夜襲を掛けた。

何も知らずにいた日本軍は大混乱に陥った。


潘「導火線に火を付けて投げ込め!それだけでいい!」

揺れる馬上で火を起こすなんてとんでもない。

カスタネット状の火打ち金をカチャッと慣らすと火花が飛び、着火した。


これは攪乱兵器「てつはう」による夜間先制攻撃だ。

この時使用された「てつはう」には大して殺傷力はない花火のようなものだった。

閃光を発するよう火薬を調整した閃光弾。

挿絵(By みてみん)


ギリシャ火のナフサ焼夷弾。

挿絵(By みてみん)


そして爆発音の大きい音響弾の三種類だ。


どうして元軍がギリシャ火を知っているのか?

それにはこういう経緯があった。

 

33年前の1241年、蒙古軍はハンガリーを征服、首都ウイーンに迫った。

だがここでモンゴル帝国の第2代オゴタイ=ハンが死去。


全軍に帰還命令が出て、支配地域を放棄して撤退した。

帰順と征服を繰り返していた蒙古軍は技術者や職人を多数連れ帰っただろう。


現トルコのアンカラも蒙古軍の支配を受けた。

こちらはモンゴル政権イルハン朝の支配下となった。


ギリシャ火の焼夷弾はおそらくこういう経緯で元軍にもたらされたのだろう。

それは石油から重質ナフサ(粗製ガソリン)を蒸留する方法である。


中質原油を80℃~180℃に煮沸してその蒸気を冷却して得られる成分だ。

現在の常圧蒸留塔の複雑なプロセスを見ると不可能に思えるかもしれない。


だが重質ナフサ(粗製ガソリン)だけを蒸留するだけなら中世でも可能だ。


元国東北の大慶(ターチン)の油田からは4世紀から石油が採れる。

大元王朝はそれを原料にギリシャ火を作り出したのだ。


「てつはう」は瀬戸物の容器で内部に石と火薬を詰めれば4kgにもなった。

だが油紙で包んだ火薬弾だけなら1kgにも満たなかった。


無害な打ち上げ花火の6号玉とほぼ同じ炸薬量だ。

打ち上げられた花火は高度220mで花開く。

その爆音はズシーンと腹に響く。


それを地上で、しかも日本軍の陣地に投げ込んだのだからたまらない。

閃光弾で目が眩み、音響弾で耳がキーンとなり、焼夷弾で火だるまになった。


竹崎季長「なんだどうした!何がいったいっ!」

先駆けの準備をしていた馬たちも色めきだっていた。


「矢と弓を早く!」

元軍を蹴散らせるのは和弓だ!


和弓のほうが威力もあり強力だ!

侍従が弓と矢を取ろうとしたその時だった。

閃光弾が陣屋に投げ込まれ、炸裂。


世界は真っ白に輝いてしまった。

目をつぶっても光が差し込み、数時間は何も見えない。


「目が!ボクの目が!」


侍従が閃光に目をやられた!

季長は運良く後ろを向いていた為、難を逃れた。


ドクワーンッ

今度は音響弾が近くで爆発し、耳がキーンとなった。


キィィーンン、キィィーンンッ!


もはや戦闘どころではない、転進だ!

竹崎季長は馬を探した。


馬はいなくなっていた。

季長は、目も耳もふさがった侍従を引っ張って歩き始めた。


馬はちりぢりになって逃げだしていた。さらに武士も足軽も我先に逃げ惑った。

潘は頃合いは良しと見定め、突撃隊をさっさと撤退させた。


報告を聞いた東征都元帥は苦笑いを禁じ得なかった。

これらてつはうは現代の兵器で言えばスタングレネード(Stun Grenade)です。

爆発時の爆音と閃光で相手を無力化する制圧兵器に相当します。

よく警察が立てこもり犯のいる室内に窓から投げ込んでいます。

一時的に失明や難聴、耳鳴りを起こし前後不覚になるのです。

元史「日本伝」によると

「矢が尽きたため、ただ四境を虜掠して帰還した」

とあります。

その為ここでは真っ先に鏃の鋳造を確保しています。

次回は筑後川立ち往生です。

重機動兵器「バリスタ」登場。

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