大将は皇帝に歩む。
九十八話
玉座に座り、頬杖を突く。レプトは言っていた。魔力は神との通信媒体。そして神をも生む力を持っていると。
願えば叶えられる。しかし、魔力がなければ叶えられるものも叶えられない。
俺が願うのは……何だろうか。自分の幸せか、他人の幸せか。
だが、それを考えるより前にやるべき事がある。
玉座から立ち上がり、扉の方を向く。それと同時に扉が開く。
現れたのは。
「やぁ。やっぱり君にはその場所が似合ってるよ」
魔族になった直後も、ヒューマンになった直後も。支えてくれたのはいつだってこいつだった。
「それは皮肉と受け取ろうか?」
「いやいや、本心だとも」
彼の手には黒剣が握られている。それを見て、地面に落ちたままの剣を拾う。
「この戦いに決着を付けようか」
そう言い、剣の血を拭う。
片や黒。片や白。文字通り白黒付ける。
「俺は進むぞ。敵として」
「僕は止めるさ。友として」
両者、共に走り出す。
己の信念を曲げず、そして相手の信念を曲げられるとは考えていない。それが故に決着を付けるのだ。勝者が正しいという、納得のいく形で。
サタの剣が大きく、左上から振り下ろされる。それを右下から当てに行く。
両者の剣に纏わせた魔力が反発し合い、音を立てる。
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「例えばの話だけどさ?」
「うん」
徹底議論の末、脳内糖分の九割を使い果たした頃。サタヌキアに向かって問いを投げる。
「もしこの世界を元に戻すことが出来たとして。俺らの記憶はなくなるわけじゃん?」
「そうかもしれないね」
「じゃあ時間を戻しても、また同じことが起きるんじゃ……」
「まぁそれは大丈夫だよ」
「なんでそう言いきれるのさ」
「そうなったらまた時間を戻せばいい。そうじゃない?」
イタズラを考えついた少年のように、意味深な表情で笑う。
「いやいや……」
「もしかしたらこの世界は何回目かかもしれないよ?」
「……どういうこと?」
「前にも世界は崩壊して、前にも世界は作り直された可能性があるって事」
「……考えたくないな」
「そう? 結構この世界も楽しくない?」
そう言ってサタヌキアは外を見る。小窓からは街が見える。深夜だというのに光がなくなる様子はない。
街の人々、精霊の皆。確かに楽しいかもしれないな。
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火花を散らせ、鍔迫り合いが行われる。
「なんで僕だけは殺さなかったんだい?」
「いやいや、殺しただろ」
「皆と同じにしなかったのはってっ」
そこまで言うと、サタは剣で俺を弾く。その衝撃に少し飛ばされ、数メートルの距離が空く。
「聞いたつもりなんだけど?」
「……さぁな」
あの笑い方だ。全て分かっていて。それでも尚、聞いている。イタズラの様な、説教の様な。そんな笑い方。
剣にもう一度魔力を込める。そして足元から、金属の魔法を使って砂鉄を撒き続ける。
両者目線を外すことなく睨み合う。呼吸が重なり始め、やがて鼓動まで揃う。
絨毯の上で広がり始めた砂鉄が、サタの足元まで届いたその瞬間、走り出す。サタも同じタイミングで走り出す。
黒剣が右上から振り下ろされ、白剣は左下から振り上げられる。ぶつかり合い、火花が散る。
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「覚えるのキツいなー……」
木の椅子の背もたれを軋ませ、伸びをする。
「かと言って、こういうのを知ってるのは僕達だけになっちゃう訳だしねー」
サタヌキアは本を見たまま答える。
「後二百年だっけ。入れ替わるのは」
「そうだね。圧政も行ってるみたいだし、もしかしたらだけど、もう少し早まるかもね」
「圧政かぁ……この街の人達はどうなんだろ……」
サタヌキアは本を閉じ、こちらを見る。
「まぁ、大きな不満もないし、良いんじゃない?」
「小さな不満。大きな過ち」
「縁起でもない」
表面だけで笑っているような、いつもの笑みを見せ、また本を読む作業に入る。
大きく伸びをし、息を吸い、背中の骨を鳴らして吐き出す。そうしてまた本に目を戻す。
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弾かれ、両者の態勢が崩れる。サタは黒剣を両手で握り直し、直上から振るう。俺も剣を両手で握り、左から右へと剣を走らせる。
互いの剣がぶつかり、削り合う。
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「なんで精霊から名を取ったの?」
「え?」
「俺達の名前。昔の名前でもよかったのにさ」
精霊会議でのことを思い出し、聞いてみる。
「まぁ、そうだね。カッコいいから的なね」
「えぇ……」
「カッコいいでしょ? ルシファーって」
「昔に堕天使って聞いたことがあるけど」
神に逆らっただとか、悪魔だとか。あまり良いイメージはない。
「まぁまぁ。カッコ良ければ全て良し。って言葉もあるくらいだしさ」
「初耳なんだけど」
そしらぬ顔で、サタは作業に取り掛かる。
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パキッと欠ける音がする。サタの剣ではない。俺の剣からだ。
サタの剣がくい込んでいる方の刃先には、ヒビが入っている。鍔迫り合いの体勢のまま、ヒビはもう片方の刃先まで届き、剣が真ん中から折られる。
そのまま振り下ろされたサタの剣は、俺の左腕を切り取り、左膝を軽く切った。
「ぅあぁぁあああああ!!!」
激しい痛みに、思わず声が出る。
血飛沫を上げ、左腕が地面に落ちる。左肩からは止まることなく血が溢れ続けている。思わず右手で左肩を掴み、うずくまる。
だが、サタはそれを見逃しはしない。
剣を逆手に持ち替え、真っ直ぐに振り下ろす。
顔を横に向けた時、偶然振り下ろされる黒剣が見えた。痛みに駆られながら、体を転がす。左肩が地面に付いた途端、熱した鉄板の上に居るのかと錯覚するほど痛む。
サタの剣は地面を刺している。左肩から上がる血飛沫で左目は見えなくなり、右手だけでサタの動向を見る。距離感がわからないまま、サタが迫ってきている。
右手を左肩から離し、地面を撫でる。そして、地面に撒いておいた砂鉄に、剣の形を模し、サタを貫くよう命令をする。
砂鉄の一つ一つに魔力が行き渡り、まるで磁石に導かれるかのように動き出す。その様は、地面から鉄の剣が何本も生えているようだった。
既に走り出していたサタは、急に止まる事など出来ず、体を何本もの剣に貫かれる。足も、体も、腕も、心臓も、頭も、黒剣さえも。
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「じゃあご飯にしようか」
「そうだな。今日はもう疲れた」
皆の相手で午前が潰れてしまった。たぶん午後も同じだろうなぁ……
「お疲れ様。明日はたぶんもっと大変だよ」
「想像したくねぇなぁ」
「大丈夫。皆いるから、ね?」
そう言ってサタは先に部屋を出ようとする。その背中に向かって。
「……ありがとう」
「え?」
「いや、なんでもない」
「ツンデレみたいで気持ち悪いよ?」
「聞こえてたなら聞き返すなよ!」
サタが笑う。俺もつられて笑う。この時間が続くように、俺は願おう。
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片や切られ、血を流した勝者。
片や貫かれ、血を流した敗者。
死闘の幕は、ここに閉じた。
俺は砂鉄をかき集め、左肩を覆う。痛みが無くなることはないが、出血死はなくなるだろう。
そして、サタを貫いている鉄剣を砂状に戻し、サタに近づく。
最後まで真っ直ぐに。本当に止める気でいたのだ。いてくれたのだ。皆が望んだ世界を、自分の理由で壊した俺を。
魔力の動きを感じる。探れば、抜かれる瞬間だった。ソレを取り、胸に仕舞う。
今までで一番温かいソレは、もう俺を止めようとはしていないようだった。サタのモノだけではない。ベルゼもアストも、ルキフグスもレプトも。フルもサルガタナスも、ネビロスも。皆が俺の選択に同意してくれているようだった。
そして、俺の心は決まっている。
振り返り、玉座へと向かう。
全てを終わらせよう。
一番思い入れのあるキャラでした。
次の話が、物語としては最終話となります。
最後の話は過去編を書こうと思っています。
【かこ】だけに!




