友か、敵か。
九十話
人界と魔界の境目の境界の森を歩く。
懐かしい。この森を歩いたのは先の大戦以来だ。境界の森は様々な魔法がかかっており、入ったものを迷わせる。故に、この森を越えるにはそれなりの力が必要となる。
初めてこの森に入った時も迷ったものだ。焼き払おうかと考えた時、助けに来てくれたのはサタヌキアだった。
まだ魔族からの信頼を得られていなかった頃、色々な事に直面したものの、いつも助けてくれたのはあいつだった。
そんな事を考えていると、もう境界の森の中間辺りに来ていた。魔族がこちらに向かって歩いてくるのが見え、思わず腰の剣に手が伸びる。
しかし、魔族の者達は俺を見ると、嬉しそうな表情をし、通してくれる。戦わずに済むならそれに越したことはない。
「ルシファー様だ……」
「前の戦いで亡くなられたとばかり……」
「これで我らに敗北はなくなった」
「ありがとうございますありがとうございます」
後ろからそんな言葉が聞こえる。
その言葉に胸を痛めている自分がいた。そしてその事に自分で驚く。ルルが言ってくれたはずだ。俺はヒューマンだと。もう魔族ではないのだと。世界中の誰もが俺を魔族と言おうと、ルルが俺を違うと言ってくれるならそれでいい。それで十分だ。
自分に言い聞かせるように心の中で何度も言う。
「やぁ。待ってたよ」
前方から掛けられた声に顔を上げる。サタヌキアが待っていた。今日はもうフードは被っていない。いつの間にか境界の森を抜け、魔界の街の門前に来ていたようだ。
「サタ……」
昔の名で呼ぶ。フルネームより言い慣れた名だ。
「それで。どっちかな」
サタヌキアは、右手をヒラヒラさせながら聞いてくる。
「敵だ。お前らのな」
そう言い放ち、腰の剣に手を伸ばす。
「そっか。残念だ」
サタヌキアも腰の剣を触る。
「意外と落ち着いてるな」
「君がルルって子を好きになっていた時点で、僕はこうなると思ってたさ」
「……」
「君は優しいからね」
悲しそうに笑う。
「そんなことより良いのか?」
「何が?」
「魔族は人界に向かったみたいだけど」
「あぁ。僕達は良いんだよ」
「……そうか。じゃあ死にに向かわせてるのか」
「悪い言い方をするならね」
「……」
「僕達は人界との戦いよりも、君の説得の方が大事なんだよ。そして、それは魔界の人達は分かってくれている」
「説得なんてものが出来ると思ってるのか」
「いや? 思ってないさ。だからこうやって僕一人で来たんだよ。というか皆だね。皆一人一人、君を待っている」
「待ってるって……」
「君が人界の英雄であることは知っている。そしてこちら側に来ないことも知っている。だから皆思い出話をしたいのさ」
「……」
「どうせ君のことだ。対僕達の魔法とか作ったんだろ?」
「流石だな」
「最後の機会だし、皆と話して行ってよ。多分もう二度と会えないからさ」
サタヌキアの口調は軽い。だが言葉自体は、決して軽くはない。
「……分かった」
「やっぱり君は優しいね」
互いに剣を抜く。
俺は銀白色の剣。ガウルに鍛えられた剣。使う回数こそ少ないものの、激戦で酷使され、表面にはもう傷が見える。
サタヌキアは黒く輝く剣。同じように使い古されている。しかし丁寧に磨かれ、今でも輝きだけは新品同然だ。懐かしい色だ。
「まだそれ持ってたんだな」
「君のだからね。そうそう手放せないよ」
それだけ言うと、互いに剣を構える。
体に魔力を纏わせる。そして剣にも。
剣を体の正面に構え、剣先を相手に向ける。誰から教わったんだっけな。
「懐かしいねこの感じ。君に負けたことは一度もなかったけどね」
「残念ながらその記憶は俺にはないね」
軽口を言い、走り出す。
剣を右手に持ち、左手で火球を作り、剣の形に変える。疑似二刀流。
サタヌキアは顔色一つ変えずに剣を構えている。
懐まで入り込み、火剣を左下から右上に振る。サタヌキアは弾こうと左から袈裟切りする。しかし火剣には当たらない。ただの炎の塊であって、火剣自体に硬度は存在しない。なので、サタヌキアは虚空を切ったような感覚で、体のバランスを崩す。そこを見逃さず、銀白色の剣で右から袈裟切りにする。
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「お初にお目にかかります。上級精霊大将の名を冠させて頂きました、サタヌキアと申します」
第一印象は、真面目な男だった。
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「ぐっ……!」
サタヌキアは飛びすさり、胸をさする。
「ははは……君のは痛いね……」
胸の部分にはしっかりと切り傷があり、そこから血があふれ出している。
「これは……ちょっとまずいかも」
そう言い、剣をもう一度しっかりと握る。
「でも、まだまだ」
今度はサタヌキアが走り出す。反応しづらいほど早い。しかし、反応できないわけではない。なんとか剣を合わせ、弾く。
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「皇帝様って呼ぶのが大変だと思うんです〜」
「君が、なるべきだ。って俺を推薦したんだけど?」
精霊収集会議の場。俺はただ、意見が合わない皆の間を取り持っていただけだった。精霊の長になるつもりなんて毛頭なかった。
「まぁいいじゃないか。長の座なんて誰が即いても良かったんだし」
「じゃあ尚更俺はなりたくなかったな……」
項垂れる俺の肩にサタヌキアは手を乗せる。
「どんまっ」
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そして剣を振りかぶるも、上手に弾かれる。ギリギリ弾いて、弾かれてを繰り返う内に、一瞬俺の体の軸がぶれる。
「まずっ……!」
サタサヌキアはそれ見逃さず、剣を振り下ろす。無理な体勢で受けたため、姿勢を維持できない。
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「サタヌキア、サタキア?……サタヌキ。いや、サタかな」
この世界で一番苦手なことは、あだ名を付けることである。
「何を一人でブツブツ呟いてんの?」
後ろから件の人物に話しかけられた。
「え、あ、いや。なんでもないよ……サタ」
「えっ」
「いや、ごめん。なんでもない」
「いやいや! いいね、サタ!」
「そ、そうかな」
「うんうん。君の反応もツンデレっぽくていい感じに気持ち悪いし!」
「一言余計なんだよなぁ……」
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負けじと、魔力を下半身に集中させる。
「はっ!」
息を鋭く吐き、足裏で大爆発を起こす。生まれた莫大な推進力でサタをはじき飛ばす。
そして空中で、剣をサタの胸に突き刺す。
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「サタ、俺がここに座るのは気が引けるんだけど」
「いいじゃないか、似合ってるよ。裸の王様的な意味でね」
サタヌキアは俺の肩に手を置き、口元を押さえながら言ってくる。いつもこうだ。
「後で訓練場な。ボッコボコにしてやる」
「果たしてどっちがボコボコになるのやら」
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「うぐっ!?」
一瞬の出来事に理解が追いつかないサタの胸に、剣を刺したまま飛び、壁に串刺しにする。壁はへこみ、サタの胸から剣の柄が見える。刀身は、サタと壁に刺さったまま、抜けない。
「がはっ……まだ……ぼく……は……」
サタの右手から黒剣が落ちる。俺はそれを拾い上げ、抜けないように、サタの腹に深く刺す。そして、胸に刺さったままの剣を引き抜く。血が噴き出し、地面を赤く染める。
柄まで血で濡れた剣の刀身は赤く輝き、俺の悲しそうな顔を映す。
「き……みを……」
サタの呟きに耳を貸すことなく進む。しかし、足がどうしても止まってしまう。これで最後なのだ。
「サタ。俺はもう……友ではないよ……」
対魔族用の魔法を作ってきたが、サタは最後で良いだろう。今はそこまで無情にはなれない。
ただ血を吐き出す肉塊となったサタを横目に、魔界の街の門を開ける。
もう。
もう止まれはしない。
いやぁ、サタ君は病んホモ(病んデレホモ)の素質があると思います。そういうの良いと思います。
ここからは魔族をバッタバッタ倒す皆大好きチートターンです。こうご期待。
それにしても、主人公より時間掛けて設定練ったキャラが死んでいくのは心が辛いです。まぁ殺すんですけどもね。




