初パーティーは美少女と共に
八話目
「はぁ…」
ガウル曰く、酒場でパーティーを募集しているので付いて行ったらどうか、と。
クエストメンバーを募集してから2時間ほど経つだろうか。誰も声をかけてこない。やはり、食っちゃ寝の生活を選べば良かったのだろうか。だがガウルにはこれ以上迷惑はかけたくないし、金も少しずつ貯めていきたい。街で生活するために。
二人の冒険者がパーティー募集の紙を見ている。こっちを見る。帰って行く。まぁそうなるわな。紙にはステータス書いてあるし、仕方ない。一人でスライムを倒しに行くか。
☆☆☆☆☆☆
前回も前々回も前前々回も死んだわけだ。つまり元の世界は前前前世なのだが、そんな話は今は関係なく、なぜスライムに前回も前々回も前前々回も倒されたのかに焦点を当てる。一つ目は窒息だろう、そしてもう一つ。溶解だ。
剣を溶かさず肉体を溶かす事を考えると、現実だとアルカリ性の特質だ。となれば酸性で中和できる、はず。
ガウルに貰ったお金を持って果物屋に向かう。レモンのような大きさの、紫色の酸っぱい果物を大量に手に入れた。この世界で害虫駆除に使われているらしい。
次に、液体を入れられる袋を買う。液体が漏れない大きな袋は、技術的にこの世界には無いかと思ったが、巨大な獣の皮を縫い合わせて作ったバックがあった。図鑑で見た、恐竜の肌みたいな獣の皮だ。カッコいい。
そしてその袋の中にレモンもどきを絞って入れる。そしてこれをスライムにぶっかけたら中和完了だ。
次に窒息問題だが、これはさほど問題じゃなさそうだ。スライムが大量にいる場所での活動用に作られた、表面積を増やした防具があった。
顔に到達する前にスライムの体を伸ばしきってしまうらしい。太って見えるが死ぬよかマシだろう。しかし、この服は溶けるらしい。解けない服も置いてあったのだが、ちょっとが高かった。まぁ、溶解対策もできているし大丈夫だろう。
後は、ガウルから貰った剣と、その剣を飲み込まれた時の為にに小刀を買った。
「よし。十分だろ」
準備は整った。あとは倒しに行くのみだ。
「あ、あのぉ」
美少女の声がする。俺には分かる。この声は美少女だ。なぜかって? 考えるものじゃない。感じるんだ。
「はい。なんでしょうか?」
振り返るとそこには美少女がいた。
これこそ魔法使い、といった服装をしている。ダボダボの上半身と下半身が繋がっている魔道着。丸ぶち眼鏡に、唾が広くててっぺんがとんがっている帽子。魔法使いだ、魔道師だ。カッコいい。
「あの、スライム退治に行くんですよね?付いていっても良いですか?」
なぜ分かったのだろう。格好だろうか? モコモコの服を着てチャポンチャポンと音を立てるカバンを持ち、左の腰には剣、右腕には小刀。分かるか?
「え、えぇ、まぁ。全然良いでですよ?」
どっちだよ。全然は否定形にしかつかないだろ俺。テンパるな俺。
「あ、ありがとうございます! 私魔法使いなのですが……スライムも倒せなくて……」
「っ……同士よ!!!!」
「ひゃっ……」
感極まって手を握ってしまった。
「あ、いや、ごめん。俺もスライムすら倒せなくてさ? こうやってガチガチに装備をしないと死んじゃうくらい弱いんだ」
「あ、そ、そうでしたか。お仲間ですね」
お仲間て、可愛いかよ。いや可愛いな? さては君可愛いな?
☆☆☆☆☆☆
お仲間になった可愛い魔導士と、スライムの群生地に向かいながら自己紹介をし合う。彼女の名前はルル。この最果ての街ではなく、魔道士の街という場所の出身らしい。魔術学校に在学時、勉学面では秀でていたらしい。しかし、魔物が怖くて実践では何も出来なかったので、魔界に近いこの街で魔物に慣れに来たのだとか。
ちなみに好きな動物は犬で、好きな食べ物はお肉。野菜は苦いものが多いから苦手らしい。あと155くらいで、俺の心眼的に、上から75,65,80くらいだと思われる。何がとは言わないが。
スライムも倒せないと言ったのは、実力ではなく恐怖心によるものだったのか。仲間ではなかったな。
彼女のステータスは1700前後らしい。ヒューマンとは違って魔道士という血筋で生まれているので、彼女達はデミヒューマンと言うらしい。
ちなみにヒューマンには魔法を扱えないらしい。魔道士が教えても他の種族に魔法適性はないのだとか。つまらん。
というか魔界がこの世界にもあるんだな。やはり頂点は魔王なのだろうか。
こちらの自己紹介もした。最底辺ステータスということを伝えると慈しみの目を向けられた。俺が絶望してないのに勝手に絶望しないで。やめて。優しさは時に人に牙を剥く事を知って。
☆☆☆☆☆☆
そんな話をしながら歩いていると目の前にスライムが現れた。さぁ、実験開始だ。
ゆっくりと近づいて袋の中身をぶちまける。プルプル動いてるが効いているかは分からない。勇気を出してほんの一瞬指先を突っ込む。指が飲み込まれる前に引き抜く。全く痛くない。中和されている。これは行けるかもしれない。
腰から剣を抜く。右腕から小刀を抜く。
「さぁ、戦闘と行こうじゃないか」
三度目の正直だ。
あれ? 四度目か?