選ぶまでもない
八十二話
境界の森上空で飛びながら、頭の中にある情報を整理する。俺とあいつらが一緒にいた時間は、俺が死んでいた時間を抜いて二百年ほど。その頃の記憶は半分ほど残っている。
「アスタロト、ベルゼビュート、ルキフグス、サタヌキア、アガリアレプト、フルレティ、サルガタナス、ネビロス」
全員の名前が言える。顔も覚えている。好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味趣向も知っている。二百年も一緒だったんだし、当たり前か。だが記憶にモヤがかかったままでもある。まだ思い出せていない記憶は存在する。知りたいような、そうでないような。
「さて……どっちに付くか、か」
記憶が戻ったって俺の思いは変わらない。ルルだけを愛し、ルルだけに愛されたい。いや、皆から愛されたいかな。
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中央都市が見えてくる。単身飛行が意外にも楽しい。暇を見つけては山脈を越えようかな。
門前に人がいる。遠巻きに見てもルルだと分かる。ありがとうルル。可愛いよルル。ルルの為ならあいつらだって滅ぼせそう。
そんな冗談を考えながら門前に降りる。
「大丈夫でしたか!?」
ルルは駆け寄り俺の体を撫でまわす。ダメよルルさん人が見ているのに……!!
「魔族の所に一人で向かうなんて……」
ガウルが心配そうに俺を見ている。
「大丈夫。ルルもガウルも心配しすぎだよ」
そう言って笑う。いつもこんなだったはずだ。
「……何の話をしてきたんですか……?」
「ええと……」
何て言おうか。流石に魔族でした、じゃ笑えないだろう。
「その……なんで戦争を起こそうとしてるのかって話を聞きに行ったんだ」
嘘100%ではない。聞きに行ったわけではないが、教えてくれたし。
「それで? 魔族はなんだって?」
「大きな魔法を使うためにたくさんの命が必要らしい。だから戦争をしてヒューマン達の命を……」
「そんな……」
俺の言葉にルルは悲しそうな表情をする。まぁこれも嘘じゃない。
「戦争が……また起こるのか……」
ガウルが苦い顔をする。先の大戦ではあっち側に着いたんだっけか。思うところはあるだろう。
「大丈夫、その為に話を聞きに行ったんだから。王様に話してくるよ」
ルルとガウルをなだめる。大丈夫、この二人だけは何があっても守ってみせる。
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「そんな……魔法のために人々を……」
エルドラは強く拳を握ってそう言う。そして深く考え込んでいた王は顔を上げ、口を開く。
「……分かった。魔族が近々戦争を起こすと言っていた手前、嘘と一蹴は出来ん。それにあなたはこの街の英雄殿だ。嘘をおっしゃる訳がない。エルドラ。門前の警備の強化と共に、各街から冒険者の収集を行ってくれ。シロ殿。危険を顧みず、大切な情報を頂けたこと、心より感謝申し上げます」
英雄ねぇ……魔族なんですけれどね。テヘッ。
「シロよ。魔族はそうまでして何の魔法を使おうとしているんだ?」
エルドラは怒りを隠そうともせずに言う。
「っ……ごめん。それは俺にも分からない」
言ってどうする。言ったって何も変わらない。なんて気持ちはなかった。もし時間魔法だと言って。城の書庫の時間を止めたのが魔族だとバレて。そしてそれが俺だってバレたら。そんな思いで言い出せなかった。
「そうか……分かった。ありがとう」
それだけ言うと城を出て行く。難しいお年頃だし、仕方ないね。
「シロ殿。本当にありがとうございました。もし、戦争が起こるようなことがあれば、その時にはまた力を貸して貰うことになるだろう」
「はい。任せて下さい」
俺自身があいつらに話があるし、言われなくともだ。
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城の中の廊下を歩きながら考える。
あいつらとの戦争ってなった時に殺せるだろうか。蘇生すら行えない、輪廻の輪とやらに帰す殺しを。この世からの存在の抹消が出来るだろうか。俺に殺さないという情はない。ただ、方法が存在するのかという話だけだ。
輪廻の輪に蘇生魔法。輪廻の輪から魂だけを……うーん……
思いつかず、考え込んでいる内に城の門を通り過ぎる。
「シロさん!」
ルルが温かく迎えてくれる。
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう」
とても心配した顔をしている。そんな酷い顔をしてたのかな。
「……行きましょうか」
「うん」
ルルと手を繋ぐ。本当に魔力なのか、この手が、温かさが。思わず手に力がこもる。それを知ってか知らぬか、ルルも力強く握り返してくれる。まぁ、知ってるはずもないんだが。
例え偽物だったとしても。模倣だったとしても。俺はルルの敵を倒す。それだけだ。
主人公の魔族の呼び方が
悪魔
↓
魔族
↓
あいつら
になっているんです。なんなら前の世界の呼び方もちょっとずつ変わってるんです。
気が付きましたか?僕は気が付きませんでした。完全に偶然です。




