英雄は胸を張れない。
七十話
酒場でパーティーが行われている。謎の巨大な魔物討伐を記念してとのことだ。
「流石です!」
「やりましたね!」
「あなたがいてくれたからですよ」
「感謝しかありません!」
「本当にありがとうございます」
たくさんの人達が俺を褒めてくれる。悪い気はしない。だが前と同じように天狗になってはいけない。この功績は皆の物だ。俺だけじゃない。
魔道師の人達が居てくれたから。その魔道師を守る騎士達が居てくれたから。そして、それらを全て支えたエルドラとバルモスとフーリエと魔法隊長が居たからだ。
そして。
「大丈夫ですかシロさん?」
ルルが心配そうに顔を覗き込む。今日のルルは白色のドレス姿。正直、世界一可愛いと思う。
「ルルが居てくれたからだよ」
「何の話ですか?」
「……色んな?」
「どういう事ですか?」
そう言いながらルルは笑う。ここまでこれたのはこの笑顔があったからだ。なんであんなに俺一人で出来る気になっていたんだろうな、ほんと。
「悩みすぎだ少年」
ハスキーな声で話しかけられる。そちらを向く。魔道師のフードを被った人がいた。
「ええと……」
「あぁ、申し訳ない。自己紹介はまだだったかな」
そう言ってフードを取る。紺の長髪の女性。顔は整っていて、格好良いという印象を受ける。
「私の名はヒルベルト。王族直属騎士魔法隊の隊長を努めさせて貰っている。よろしくね」
凛とした雰囲気のまま、手を差し出してくる。その手を握る。戦っている人の手だ。傷だらけだが美しい手。
「シロです。ええと……」
役職という役職はなく、何と言ったものかと困っていると。
「大丈夫。君のことはよく知っているよ。街の英雄さん、だろう?」
「いや……そんなんじゃ」
「謙遜、ではないんだろうね。正直なところ、私は今回の戦いは君だけの物では無いと思っている」
その言葉にルルは一歩前に出る。俺はルルを腕で止める。
それを見てヒルベルトは目の前の椅子に座り、続ける。
「騎士隊も魔法隊も、エルドラもバルモスもフーリエも、そして私もそこの子もいたからだ。違うかい?」
「俺は……俺もそう思います。皆は俺が俺がって褒めてくれて。でもそんなんじゃなくて」
「うん。でも君がいたから勝てたのは事実だよ。皆もそう思ってる」
「でも……」
「ふふふ。私はね、君に注意しようと思ってたんだよ。力を持った人間は奢る。その奢りが隙を生み、人を殺す。私はそうやって命を失った人達をたくさん見てきた」
ヒルベルトは遠い目をする。昔何があったんだろうか。
「だけどね、その様子なら大丈夫。自分だけじゃ何も出来ないって思っている内は、そう簡単に死にはしないよ」
椅子に座ったまま俺の肩を叩く。
「そういうもんですかね」
「そういうもんですよ。お姉さんが保証してあげる」
雰囲気に見合わず可愛らしく笑う。
「その通りだシロ」
フーリエが近づきながら言ってくる。
「君は英雄だが勇者じゃない。勇気と蛮勇は表裏一体だ。君は今の君でいてくれ」
よく分からない。でも、今のままで良いというなら今のままでいよう。
「分かった、ありがとうフーリエ。ありがとうございましたヒルベルトさん」
「いやいや、君には何度も助けられたからね」
「こちらこそさ。困ったらお姉さんを頼るんだよ?」
そう言ってくれる二人に感謝の言葉を残し、離れる。ガウルを探している間、ルルは話し始める。
「でも、シロさんは凄いと思いますよ?」
「そうかな。皆ももっと誇って良いと思うんだけど」
「そうですね。確かにその通りです。だからこそ、これだけ楽しんでいるのだと思うんです」
その言葉に辺りを見回す。たくさんの人々が飲み、食い、笑い合っている。
「敵を倒したのは、皆の力あってこそです。皆っていうのは当然シロさんもです。だからシロさんも胸を張って欲しいのです」
胸を張るっていうのもなぁ。時間かければ俺が居なくてもなんとかなっていただろうし、それにあの悪魔が言うにはだが、手を出さなくても良かっただろうし。色々となぁ。
「それにそんな悲しそうな顔をしていて欲しくはないです」
「……そんな顔してた?」
「してました」
顔を両手で叩く。少なくとも今だけは胸を張っていよう。
「ごめん」
「謝らなくて大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう?」
ルルはそう言いながらもテーブルに置いてある料理を食べたそうに見ている。
「いくつか持っていったら?」
「そ、そうですね。ガウルさんも、食べたいと言い出すかもしれないですし」
そう言って料理を大皿に取る。
「ルル。ありがとう」
「どうしたんですか。感謝するのはこちらの方です」
「ルルも威張っていいんだよ?」
「威張りませんよ! 胸を張る、ですよ?」
「そうだっけ?」
「そうですよ!」
お互いに顔を見合わせ、笑う。ルルが笑ってくれるなら胸を張ろう。
百越えるかもしれないです。
無計画で書いているので分からないです。




