英雄の在り方
六九話
ゆっくりと体を持ち上げ、教会のドアを開ける。
「おぉ、シロ殿! 大丈夫ですか?」
バルモスが待っていてくれる。いや、バルモスだけではない、騎士隊や魔法隊の人達もいる。
「その……すみませんでした……守れなくて……」
「なっ! 何を言っているのですか! あのままでは全滅は免れられなかったでしょう。ですがシロ殿が守って下さったおかげで全滅はせず、魔物の侵攻を交代で守れているのです!」
「でも……ここにいる人達は俺が殺したようなものだし。いくら生き返れるって言っても痛みがないわけじゃないし」
「フハハハハハ! 悩んでいるな英雄よ!」
エルドラが高笑いしながら近づいてくる。
「貴様は皆を守れなかったと言ったが、それは違う。今でこそ死は一度きりのものではなくなった。しかし、戦場で命を落とすというのは、どれだけの代償があるかは分からない。故に全員覚悟は出来ているのだ。その覚悟は貴様に馬鹿にされるほど弱々しいものではない」
「別に馬鹿になんて……」
「いや、馬鹿にしていた。まるで守られて当然のように。我が隊を弱く、もろいかのような発言であった」
「ちがっ……!」
「であるならば胸を張れ。この魔物の討伐には貴様の力が必要だ」
そう言ってエルドラは俺の背中を叩く。バルモスも騎士達も魔道師達も俺を見て頷く。
立ち上がらなければ。
もう一度。
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門の前では隊が戦っている。ヒットアンドアウェイ方式だ。効いている様子はないが。
「さてシロ。どうする? 我は何をすればいい?」
「一つ、俺に考えがある。でもそれは成功するか分からない。失敗するかも、っていうか失敗しそうな気がする」
「だがあるのならばそれでいい」
「いや、でも……」
「何をそんなに気にしている。今我々ではこの状況は覆せない。可能性が少しでもあるならば、それに賭ける」
「……」
「貴様がここで折れたなら、誰も前を向こうとはしない。我が直々に背中を支えてやる。だから貴様は前だけを向いていろ」
「……分かった。じゃあ騎士隊は魔法隊を守る形で隊列を作って欲しい。そして魔法隊は魔物に向かって木の魔法を撃って欲しい」
「木ですか?」
「木は……」
「シロ殿、失礼。金属系に木は効かないのでは?」
「いや、大丈夫。大量の木から大量の火を生み出す。それで倒す、ことが出来るかもしれない」
だが皆の反応はいまいちだ。
「それは……」
「でも……」
「いや……」
「俺の魔力じゃ無理だ……です。皆さんの力を貸して下さい。皆さんがいなければたぶん出来ません」
顔を上げ、皆の顔を見る。完全に納得はしていないが、決意を込めた目をしている。
「皆の心は決まったようだな。では頼むぞ、英雄」
エルドラはそう言い、最前線に出て行く。皆を頼る英雄なんてなんだろう。
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騎士達は触手を切っている。だが弾けず刺されそうになる騎士達もいる。そこにエルドラが割り込み、触手を切り落とす。隊にバフをかけ、何本もの触手を切り落とし、援護もする。騎士隊長って感じだ。
「魔法隊! 放てー!」
魔法隊の隊長がかけ声を出し、魔法隊が一斉に木の魔法を放つ。
その姿を見ながら、全力で火の魔法を生み出す。全身全霊で。あの大きさの魔物を溶かし尽くすくらいに。
魔法隊の木の魔法を魔物は軽々といなしていく。金に木は効かない。だが木は火を強める力がある。大量の木があれば、普通に火を放つよりも強い火が出来上がる、はずだ。
騎士隊が弾き、魔法隊が木魔法を放つ。俺は魔力を溜め続ける。
「シロー! もうそろそろ限界だー! まだかー!」
フーリエが振り返り、俺に声をかける。
「いや! 大丈夫だ! 木魔法じゃなくて土魔法の準備をしてくれー!」
「まかせたまえー!」
魔法隊が土魔法を生み出す。限界が近いようだ。放てなくなる魔道師も何人かいるようだ。
「囲うように土壁を作ってくれ! 頼む!」
俺のその声に魔道師は次々に魔法を放つ。そしてドンドン壁が出来あがっていく。よし、良い感じだろう。
「溶かし尽くしてくれよ。いっけぇええええ!!!」
壁の隙間に、凝縮した火球を放つ。そして壁は閉じられる。
中で大爆発の音がする。土壁の外側にいる俺も衝撃を感じた。魔力がほとんど無くなり、膝を突いてしまう。
「大丈夫か?」
エルドラが駆け寄ってきて、起こしてくれる。
「ありがとう」
土壁を見上げると、全体的に赤くなっている。中の火力が思いの外強かったか。壁が溶け始め、中が見え始める。
金属の魔物は体の大半を溶かしていたが、未だに動いている。
「そ、そんな……」
誰かが呟く。
「こんなの無理じゃ……」
誰かが絶望する。
溶けた魔物がこちらに近づいてくる。誰も足が動かない。動けない。そんな時。
「燃やし尽くせ! フェニクス!」
可愛らしい声がする。その直後、街の方から火球が飛んでくる。火球は形を変え、翼を広げた鳥の形になり、魔物に激突する。ジュウウウと音を立て、金属部分が溶解していく。この声、そしてこの魔法は。
「ルル!」
「大丈夫ですかシロさん!」
ルルが駆け寄ってきて、瓶を一つ渡してくれる。いつものローブ姿で杖は持っていない。急いできてくれたのだろう。
「これ、魔力です。すみませんが私では倒し切れそうにもありません。どうか一緒に」
「ありがとうルル」
ルルがくれた瓶を飲む。体が軽くなる。強めの魔法が撃てそうだ。どれだけの魔力をくれたのか。
ルルの隣で同じ魔法を詠唱する。ルルが一番最初に見せてくれた魔法だ。俺の右手と、ルルの左手を繋ぐ。俺は左手を前に。ルルは右手を前に。
「「紅き精霊の加護をこの手に。全てを灰へと化す力を今ここに具現化したまえ。燃やし尽くせ! フェニクス!!」」
俺とルルの手から放たれた魔法が鳥の形になる。二匹の鳥が一つになり、巨大な鳥を生み出す。そして魔物にぶつかり、大爆発が起こる。
熱気で肌が焼けそうだ。地面の一部は溶け出し、粉塵が消え始める。地面は大きくくぼみ、溶けた金属が地面に染みこんでいる。動き出す気配はなさそうだ。
「や……やっ!!!」
誰かが叫び出す。
「「「「「「「「やったぁああああ!!!!!!」」」」」」」」
この場にいる全員が喜び、叫んでいた。
「やりましたね! シロさん!」
「あぁ。本当に、本当に良かった」
俺だけの力ではない。多くの人々に支えられて、倒すことが出来た。俺だけじゃ出来なかった。何が英雄だ。
「お疲れ様だ、シロ。貴様はやはり英雄だ」
エルドラが近寄り、そう言ってくれる。
「いや。英雄なんかじゃないさ。みんながいてくれたから勝てたんだ」
「誰か一人欠けても勝てなかっただろう。だが貴様が居なければ勝つという可能性すらなかった」
「でも……」
「でもではないわ。英雄はなるモノでもなれるモノでもない。認められるモノだ。そして我も、皆も認めている。格好悪くても、支えられながらでも、貴様は英雄だ。胸を張れ」
「そうですよ。私の英雄なんです。下を向くのは似合わないですよ?」
張りぼての英雄。まぁ……嫌じゃないかな。
もうちょっと無双する予定です。
百話までには終わるんじゃないですかね。




