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久しぶりの敗北

六八話

さて……どうしようか。


「シロ殿、この巨大な魔物をどう倒されるおつもりですか?」


「まぁ、やるだけやってみます」


 そう言って悪魔が言っていたことを思い出す。この世界の魔法は火、土、金、水、木の五つで出来ている。それらはお互いに強め合うことも、弱め合うことも出来る存在。


 あの魔物は金。金属は火で溶かすことが出来る。そして金属は水を生む。凝結的なあれで。つまり、火魔法で溶かすことも出来るし、水魔法をこちらが使えば増幅される……はずだ。逆に木魔法を使うと不利になる……はずだよな?


 右手に水魔法、左手に火魔法。イメージは、水で壁を作って中で火魔法を放つ。


「よし。まずは壁をイメージして……」


 俺が生み出そうとする横で、騎士や魔道師が隊を組む。


「シロ殿に後れを取ってはならぬ! さぁ! 行くぞ!」


 バルモスが発破をかけ、進軍を開始する。大丈夫かな。絶対あれ強いけど。


 騎士や魔法隊が攻撃を行う。


「全軍突撃ー!」

「進め進めー!」

「剣が効かないぞー!」

「魔法隊前へー!」


 魔法隊も攻撃するが、効いている様子はない。


「俺がやってみてもいいですか?」


 バルモスに聞いた瞬間、金属の魔物が動き出す。液体状で不定形だったが、形が出来上がっていく。腰から上の上半身の魔物になる。腕が四本、顔は二つ。魔物って言うか化け物だ。


「攻撃攻撃ー!」

「ひるむなー!」

「放てー!」


 いや、やめておいた方がいいとおもう。本当に。


 上半身の魔物が胸辺りから、先端が尖った触手を大量に出す。勢いよく騎士や魔道師達に向かっていく。


「あああああああ!!」

「て、撤退!!」

「引けー!!」

「うわぁああああ!!」


 炎の剣を握りしめ、走り出す。隊と魔物の間に入る。数え切れないほどの触手が襲ってくる。


「シ、シロ殿!」


 バルモスが後ろで叫ぶ。


 止めてみせるさ。


 右から来る触手を切り捨てる。左の触手を左腕の鎧で弾く。正面の触手は剣で弾く。弾き、切り捨て、守り、切り落とし、(かす)り、弾き、(えぐ)り、止め、切り、刺され、刺され、刺される。


 何本もの触手に体を刺される。左手を、右腕を、左と右の太ももを、腹を。血が噴き出し、久しぶりに痛いという感覚に襲われる。だが殺される程ではない。体中を刺されたまま宙づりにされ、騎士達や魔道師達が刺されて殺されていくのをただ見ていくしかない。逃げろ! と叫ぼうとすると口から血が零れる。


「シロ殿!」


 バルモスが触手を弾きながら走り寄ってくる。


「ぐ……る、な……!」


 精一杯声を出す。しかしバルモスには届かなかった。目の前で右肩辺りを刺され、剣を持った右腕が飛んでいく。


「ぐぁっ!?」


 剣を失っても走ってくる。


「ダ、メだ……!」


 バルモスの体を触手が次々と襲う。体中に穴が開き、バルモスは膝を突く。体に開いた穴から血を吹き出しながら俺を見る。そして何かを伝えようと口を開閉させる。


「……くて……みません……」


 何を言っているか分からないまま、バルモスの頭を触手が貫く。


「あぁっぁぁああがああああがああ!!!!!!」


 声にならない声が血と共に口から溢れてくる。だが体は動かない。力は入らず、ただ血だけが溢れてくる。そして俺は力なく項垂れた。


 そんな俺の横を触手が次々通っていく。後ろで悲鳴が上がる。


 無力だ。俺は無力だ。魔法が使えて、悪魔との八百長の戦いで天狗になっていたのだ。俺の傲慢が引き起こした惨劇だ。


「お、れが……みん……な、を……」


 いつの間にか触手が出なくなった。全員殺し終わったのだろう。


 顔を上げる。魔物がこちらを見て、胸から触手を一本出す。そしてそれが勢いよく心臓に突き刺さる。


 声も出さない。悲鳴を上げる権利も俺にはない。意識が遠くなっていく。あぁ、このまま消えて無くなってしまいたい。


 俺は……


 俺は…………


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おぉ、神よ。彼の者に再び立ち上がる勇気と立ち上がる力を!」


 体は新しく作られたはずなのに、口の中には苦い何かが広がっていた。

異世界チートより頑張っている姿の方が好きです。


努力している姿に涙が出ます。歳なんでしょうね。

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