人界の魔物
六七話
フーリエに連れて行かれ、祝賀会が三時間、書庫に体感三時間。もう夕方だろうかと思いつつ外に出ると、まだ日は高かった。
「あれ? 何か忘れ物ですか?」
道行く騎士に声を掛けられる。その騎士を捕まえ、聞いてみる。
「俺ってどれくらいこの書庫にいました?」
「うーん。そうですね……二,三分だと思いますよ?」
いやいや。山ほどもある資料の中から探し出して読み漁ったのだ。数分な訳がないだろう。
「いや……そんなはずは……」
俺のその言葉に騎士が首を捻る。嘘を言っているわけではないのだろう。俺が書庫で本を読んでいる間は時間が止まっていたとかか?
「おぉ、シロ。どうしたのだ?」
エルドラが俺を見つけ、声をかけてくる。
「あ、エルドラ。その……この書庫に何時間もいたはずなんだが……」
「ん? あぁ。この書庫は時空軸が歪んでいてな。何時間中にいようと外ではほとんど時間が経たんのだ」
「そ……」
そんな無茶苦茶な……
「なんでもヒエローニュムス様自らこの魔法を使われたらしい」
どこかで聞いたことあると思ったら、本に書いてあった人か。戦争を勝利に導いたとかなんとか。
「そんな常識外れの魔法が……」
「時間操作の魔法はどんな魔道師でも使えないらしい。今王国中の魔道師が研究しているらしいが、ここ数年何の情報も上がっていないことを考えると……まぁ、無理なんだろう」
時間の操作……前の世界にもあったなそんなの。タイムスリップやらタイムマシンやら。全てが幻想でしかなかったけれど。
「じゃあもうちょっと読んでいこうかな」
長い時間読んだとしても、現実にはほとんど時間経ってないし。
「それもいいが、ツレの元に帰ってやってはどうだ?」
確かに。ルルもガウルも待たせっぱなしだ。何も言わずに行っちゃったし。
「どうする? 帰る気なら馬車を出すが」
「じゃあ、帰ろっかな。お願いしてもいい?」
「あぁ。我は用事があるので付き添えぬが、入り口までは送ろう」
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エルドラに見送られ、城を出る。馬車の中は一人にして貰った。
「時間魔法……どんなだろうか……」
「ほんとにね」
その声に右を見る。
「な、なんでお前が……!」
「来ちゃった☆」
悪魔がフードの下でにこやかに言う。声からしてサナヌキア、俺に事ある毎に話しかけてくる悪魔だ。
「彼女みたいに言うなよ……」
「もしかして書庫で色んな本読んじゃった?」
「あぁ」
「そっかぁ……」
悪魔は心底残念そうに返事をする。
「なんであんなことしたんだ?」
「あんな事って言うのは? 何?」
「人界と魔界の戦争を起こしたりなんかして……」
「あー……」
言いにくそうに悪魔はフードを掻く。
「あと、なんでこんな場所にいるんだ? 教えろ」
「んー……どっちかって言ったら?」
「両方だ」
「なんか今日の君は高圧的だね! 嫌いじゃないよ!」
悪魔は茶化す。申し訳ないが付き合っているほど心に余裕がないんだ。騎士達の質問攻めのせいでな!
「じゃあ簡単にだけ。まず一つ目、戦争を起こしたのは僕達じゃない。確かに侵攻はしたが、そうされるだけの理由が人間側にもあったんだよ。そして二つ目はイブロの回収。ここに居ると何があるか分からないからね」
あぁ、そういえばイブロは悪魔だったな。いや、それよりもだ。
「人間に非があるだと? そんなことどこにも書いていなかったぞ?」
「そっか。まぁでも僕も君に嘘を吐く意味がないしね」
「いやいやいや。国が保管している国史だろ? 捏造とかそんなことあるわけが……」
「あるんだよ。国自体がそれをねじ曲げている可能性ってのがね」
「ねじ曲げているって……なんでそんな……」
分からない風に言っているが、頭の中では分かっている。それを認めたくないだけで。
「簡単だよ。魔族を悪にしたいんだ。この世界で魔族は悪っていう風潮を作りたかったのさ」
「なんで……そんな……」
「きっかけは些細なこと。でも引くに引けなくなり、全ては僕達の」
ガタガタッッ
悪魔が言い終わる前に馬車が急に止まる。
「シ、シロさん! あれを!」
御者に呼ばれ、窓の外を見る。門の外で金属光沢の何かが動いていた。液体状でウネウネしている。
「なんだ……あれ……」
胸から上が門からはみ出ている。この街を見ているわけではないが、威圧感だけで圧倒されそうになる。街の人々は叫び、逃げだしている。
「あれはベルゼビュート様の物だね。大丈夫、人界に放った魔物の内の一人だよ」
ベルゼビュート? 放った? 色々聞きたいことはあるがまずは止めるべきだろう。
「俺はあいつを止める。それまでここから逃げるなよ」
「いや……僕は止めない方がいいと思うよ。ろくな事にならない」
知るかそんなもの。と思いながら馬車を降りて走り出す。
「くっそでけぇな。でも金属だし炎でどうにかなるだろ!」
魔力を体に纏わせ、炎の鎧を生み出す。守れる気はしないが、ないよかましだろう。
ガウルに貰った剣を溶かすわけにはいかないので、金属の剣を作り、炎を纏わせ溶かす。溶解剣!
……ネーミングはまた今度にしよう。
いつも通り足裏での爆発で、門を飛び越える。金属の魔物の近くに着地する。
「おぉ、シロ殿! これは一体……」
副隊長のバルモスが駆け寄り話しかけてくる。
「さぁ……俺にも分かんないですけど」
見上げる。動いていなければ金属で出来た城だ。
「倒すしかないでしょう」
ドヤ顔でバルモスに言い放つ。
「おぉ! 流石です! もう倒す方法が思いついているのですね」
……どうしようか。
チートって楽しいですかね。
最近分からなくなってきました。




